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事業のポイント

 今回の塩事業のポイントは、ユーコが提案した孤児院に手伝ってもらうことだった。

 俺は帰り道、そのことをずっと考えていた。

「どうした、リク。」

「いや、ユーコがずいぶん良いことを言うようになったなと思ってな。」

 ユーコは得意そうに胸を張った。

 だが、俺にとっては本当に大きな意味があった。

 昔から俺は、豪邸というものに対して、どこか疑いの目を持っていた。

 もちろん立派な家そのものが悪いわけではない。

 問題は、その家がどのように作られたかだ。

 豪華な大理石。

 美しい彫刻。

 希少な木材。

 高価な装飾品。

 そうしたものを眺めるたびに俺は考えてしまう。

 その建築に携わった人々は、本当に幸せだったのだろうかと。

 中には誇りを持って仕事をした職人もいただろう。

 しかし同時に、無理を強いられた者や、不満を抱えながら働いた者もいたかもしれない。

 人間が集まれば、善人だけということはない。

 必ず欲深い者もいれば、邪悪な心を持つ者もいる。

 そうして出来上がった豪邸に、本当に価値があるのだろうか。

 俺には時々分からなくなる。

 いくら高級な材料を使ったとしても。

 いくら見事な装飾が施されていたとしても。

 それを据え付けた人の心がそこに無ければ、何か大切なものが欠けているような気がするのだ。

 だから今回の塩は違う。

 孤児院の子供たちが乾燥させる。

 選別する。

 瓶に詰める。

 箱に納める。

 もちろん技術も必要だろう。

 品質管理も必要だ。

 だが、それ以上に価値があるものがある。

 それは真心だ。

 自分たちの手で作った商品が誰かの元へ届く。

 その喜びを知りながら作る品には、不思議な力が宿る。

 俺はそう信じていた。

 もっとも、俺が考えていたのは高級塩だけではない。

 塩は貴族の贈答品である前に、人が生きるために必要なものだ。

 どれほど立派な箱に入れようと、どれほど美しい瓶に詰めようと、庶民が買えなければ意味がない。

 だから俺は、高級塩とは別に、安価な塩の流通も考えていた。

 高級塩は利益を生む。

 その利益で孤児院や村の運営を支える。

 一方で、大量生産した塩は出来るだけ安く市場へ流す。

 保存食作りにも必要だし、家畜にも必要だ。

 病人が回復するにも塩分は欠かせない。

 金持ちだけが塩を使える世の中では困るのだ。

 ギルバートもその考えには賛成してくれていた。

「高級品と普及品を分けるのですな。」

「ああ。金持ちには付加価値を売る。庶民には塩そのものを売る。」

「なるほど。商売としても理にかなっています。」

 利益を追うことは悪いことではない。

 だが利益だけを追えば、人は必ずどこかで道を誤る。

 俺は前世でそういう例をたくさん見てきた。

 だからこそ、生活に必要なものだけは、誰でも手に入るようにしておきたかった。

 まだ始まったばかりの事業だったが、不思議と失敗する気がしなかった。

 なぜなら、この塩には利益だけではなく、人の善意が詰まっているからだった。


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