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挑戦の意義

 次の日、俺とユーコは隣町へ向かった。

 目的はもちろん塩湖で採れた塩の販売方法について相談するためだ。

 ギルバートの商会に顔を出すと、いつものように商人ギルバートが出迎えてくれた。

「おや、リク殿。本日は何をお持ちですかな?」

「これだ。」

 俺は麻袋から白い塩を取り出し、ポーションの瓶に詰めた見本を机の上へ置いた。

 ギルバートは興味深そうに瓶を手に取り、光に透かしたり、指先でつまんだりして確認した。

「なるほど……。」

 しばらく考え込んだ後、ギルバートはゆっくりと口を開いた。

「正直に申し上げますと、もう少し乾燥させて、不純物を取り除いたほうが良いでしょう。このままでは、この瓶の価値に塩の品質が追いついておりません。」

「そうか。」

 俺は腕を組んだ。

「高級塩として売るには、まだ一手間必要というわけだな。」

「その通りです。」

 ギルバートは頷いた。

「ですが、逆に言えばそこさえ改善できれば、十分に高級品になります。さらに桐の箱などに入れれば、貴族や商人の贈答品として人気が出るでしょう。」

「桐の箱か……。」

 俺が考え込んでいると、横からユーコが口を挟んだ。

「私に考えある。」

「お?」

「学校の隣の孤児院にやらせる。」

「孤児院に?」

「うむ。塩を乾かして選別する仕事。子供でもできる。」

 なるほど。

 単純作業ではあるが、十分な価値を生む仕事だ。

 孤児院の運営資金にもなるし、子供たちに働く機会も与えられる。

 悪くない案だった。

 ギルバートも感心したように頷いた。

「それでしたら、私の商会で全量引き取らせて頂きます。」

「本当か?」

「ええ。孤児院で加工された塩を私が販売しましょう。」

「わかった。じゃあ桐の箱はこの町の生産者ギルドに依頼する。」

 こうして話は順調にまとまった。

 塩湖から塩を採り、孤児院で加工し、ギルバートが販売する。

 それぞれに利益があり、誰も損をしない。

 理想的な形だった。

 帰り際。

 ギルバートは棚の奥から小さな革袋を取り出した。

「いつもお世話になっておりますので、これは私からのお礼です。」

「ん?」

 受け取って中を覗くと、見た目よりはるかに広い空間が広がっていた。

「マジック収納バッグか!」

「小型ですが、荷運びには便利でしょう。」

「いや、こんな高価な物を……。」

「塩の事業が成功すれば、私も十分利益を頂けますから。」

 ギルバートは笑った。

 本当に商売上手な男だと思う。

 だが、それだけではない。

 彼には商人としては珍しい資質があった。

 それは挑戦を恐れないことだ。

 多くの商人は確実に儲かる商品を好む。

 しかしギルバートは違う。

 未知のものにも価値を見出し、失敗の可能性があっても手を伸ばす。

 もちろん成功を信じてはいる。

 だが仮に失敗したとしても、その経験が未来の誰かの糧になれば良いと考えているのだろう。

 そういう人間がいなくなれば、新しい産業も、新しい技術も生まれない。

 世の中は挑戦する人によって少しずつ前に進む。

 俺は収納バッグを肩に掛けながら思った。

「やっぱり、ギルバートは信用できるな。」

「うむ。」

 ユーコも頷いた。

 塩湖から始まった小さな発見は、孤児院の仕事となり、村の収入となり、やがて王都へと広がっていくかもしれない。

 未来のことは分からない。

 だが、挑戦した種だけは、いつか必ず芽を出す。

 そんな気がしていた。


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