林業
魔素不足の対策として、《世界樹の眷属樹》の苗を後日送ることを約束し、俺達は龍族の里を後にした。
帰り道、ハクは何度も振り返っていた。
生まれ故郷ではないが、自分と同じ龍たちが暮らす場所だ。
思うところもあったのだろう。
「また来ればいい。」
俺がそう言うと、
「うん。」
ハクは嬉しそうに頷いた。
その横ではユーコが、
「今度は落花生を持って行く。」
などと真面目な顔で言っていた。
龍族が喜ぶかどうかは分からないが、ユーコなりの気遣いらしい。
数日後。
俺達は遺跡の村へと戻ってきた。
村の発展具合を確認しているうちに、ふと思い出したことがあった。
せっかく村の近くには山があり、そこから流れる大きな川もある。
この川を利用しない手はない。
馬車だけでは輸送量に限界がある。
王都との交易が増えている今、もっと大量の荷物を運べる手段が必要だった。
そこで俺は、浪人四人衆を呼び出した。
「今日は皆に頼みがある。」
ゴザエモンをはじめとする四人が姿勢を正した。
「何なりと。」
「林業をやってくれないか。」
一同は顔を見合わせた。
どうやら予想外だったらしい。
「林業でございますか?」
「ああ。」
俺は頷いた。
「俺の国では、林業は武芸者の嗜みだった。木を切ることで体を鍛え、山を知り、自然を学ぶ。」
「ほう。」
ゴザエモンの目が光った。
「なるほど。木を切って鍛錬しろということですな。」
「そんな感じだ。」
本当はそこまで深い意味はなかったのだが、説明するのも面倒なので頷いておいた。
「分かりもうした!」
四人は同時に頭を下げた。
翌日から早速作業が始まった。
だが、俺は浪人達を少々甘く見ていたらしい。
朝。
「では参る。」
ゴザエモンが刀を抜いた。
次の瞬間。
ズバァン!
大木が一太刀で倒れた。
「おおー!」
見物していた村人達から歓声が上がる。
「いやいやいや。」
俺は思わず頭を抱えた。
「それ伐採じゃなくて居合いの演武だろ。」
「何をおっしゃいます。」
ゴザエモンは真顔だった。
「木も斬れております。」
確かに斬れている。
間違ってはいない。
しかし何かがおかしい。
結局、一週間もしないうちに大量の木材が集まった。
村人達も加わり、皮を剥き、乾燥させ、木材として加工していく。
その頃には、ホワイトバード率いる子供達も手伝っていた。
「おっちゃん、これ運べばいいのか?」
「ああ。無理はするなよ。」
皆で働く光景は、少し前の荒れ果てた遺跡の村からは想像もできないものだった。
そして一週間後。
ついに最初の筏が完成した。
川辺には村人達が集まっている。
筏は見事に浮いた。
「おおー!」
歓声が上がる。
そのまま試験的に荷物を積み込み、下流へ流してみる。
流れは穏やかで問題ない。
数日後には王都近くまで無事に到着したとの報告も入った。
「成功だな。」
俺は川を見ながら呟いた。
道が一本増えるだけで世界は変わる。
人も物も情報も流れるようになる。
そして流れが生まれれば、町は栄える。
その横でゴザエモンが腕を組みながら言った。
「次は舟を作りたいですな。」
「いいな。」
「その次は大型船。」
「いいね。」
「その次は軍船。」
「待て。」
俺は即座に止めた。
なぜ林業から軍船に話が飛ぶのだ。
しかし四人の目は本気だった。
どうやら浪人という生き物は、いつの時代も戦のことを忘れられないらしい。
俺は苦笑しながら流れる川を見つめた。




