龍族の長
「職業が分からないのか?」
「うん。」
ユーコは珍しく困ったような顔をしていた。
あの古代アーティファクトの眼鏡は、今までどんな人物でも見抜いてきた。
その眼鏡が判別できない。
それは初めてのことだった。
「壊れたんじゃないのか?」
「違う。」
即答だった。
俺たちは丘を下り、その人物を迎えることにした。
村の入口に着く頃には、その旅人も近づいて来ていた。
年齢は五十代くらいだろうか?
灰色のローブ。
杖一本。
荷物は小さな革袋だけ。
どこにでもいそうな老人だった。
だが、どこか違和感がある。
強そうには見えない。
威圧感もない。
それなのに、目が離せない。
老人は俺たちを見ると微笑んだ。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
俺も挨拶を返した。
「旅の方ですか?」
「そうです。」
老人は穏やかだった。
「温泉の噂を聞いて来ました。」
「なるほど。」
最近はそういう客も多い。
だがユーコはずっと老人を見ている。
老人もユーコに気付いたらしい。
ユーコが一歩前へ出る。
「あなた誰?」
「ただの旅人ですよ。」
「嘘。」
「半分は本当です。」
老人はまた笑った。
何だろう。
悪人には見えない。
だが普通の人間でもない。
その時だった。
近くで遊んでいたハクが走って来た。
「リクー!」
元気な声だった。
だが老人を見るなり動きが止まる。
そして――
深々と頭を下げた。
俺は目を疑った。
「ハク?」
ハクは龍である。
しかも誇り高い。
普段は俺にすらこんな態度は取らない。
そのハクが緊張していた。
「どうした?」
するとハクは小声で言った。
「リク。」
「うん。」
「この人。」
「知ってるのか?」
「知らない。」
ハクは首を振った。
「でも、とても偉い龍の匂いがする。」
「は?」
今度は俺の思考が止まった。
龍の匂い?
老人なのに?
老人は困ったように頭を掻いた。
「困りましたな。」
「何がです?」
「できれば正体は隠しておきたかったのですが。」
そう言った瞬間。
風が吹いた。
老人のローブが揺れる。
その背後に、一瞬だけ何かが見えた。
巨大な翼。
黄金の鱗。
空を覆うほどの影。
ほんの一瞬だった。
だが確かに見えた。
ユーコがぽつりと呟く。
「古龍。」
老人は観念したように肩を落とした。
「参りましたな。」
そして軽く一礼した。
「私の名はアルド。」
老人は静かに言った。
「龍族の長を務めております。」
俺は思わず空を見上げた。
いやいやいや。
村が発展したと思ったら。
今度は龍の王様が観光に来たのか。
どう考えても温泉旅行では済まない話だった。
するとアルドは申し訳なさそうに笑った。
「実は今日は温泉だけでなく、お願いがあって参りました。」
「お願い?」
「はい。」
アルドの表情が少しだけ真剣になる。
「あなた方に、龍族の未来を救っていただきたいのです。」
その言葉に。
俺とユーコは顔を見合わせた。
どうやらまた、とんでもない話が始まろうとしていた。




