バリアの村の賑わい
もう一つ、遺跡の村の観光客が増えるにつれて、賑わいを見せている場所があった。
バリアの村である。
「リク殿! また観光客が来ましたぞ!」
ある日、バリアの村の村長が嬉しそうに報告してきた。
「へえ。」
「しかも今度は王都からです!」
どうやら最近、若者たちの間で評判になっているらしい。
理由は簡単だった。
地下通路である。
元々、防衛目的で張り巡らされていた地下道だったが、一般人にとっては珍しい施設だった。
「まるでダンジョン探検だ!」
「秘密基地みたい!」
「宝探しをしている気分だ!」
そんな感想が広まっていた。
本物のダンジョンは危険すぎる。
しかし地下通路なら安全だ。
松明を持って歩くだけで冒険気分が味わえる。
特に子供たちには大人気だった。
その結果、新たな仕事も生まれていた。
護衛である。
観光客が増えれば道中の安全確保が必要になる。
遺跡の村からバリアの村までの護衛依頼は、冒険者たちの重要な収入源になりつつあった。
「昔はスライム狩りばかりだったのにな。」
酒場でそんな声も聞こえる。
「今じゃ観光客の案内人だ。」
「世の中分からんものだ。」
皆笑っていた。
村が発展すると、仕事も増える。
それは良い循環だった。
さらに最近では町の出先機関まで出来始めていた。
税務所。
商業ギルドの出張所。
運送業者。
様々な組織が少しずつ進出している。
その中でも真っ先に設置されたのが警察機関だった。
「治安維持のためです。」
そう説明された時、俺は首を傾げた。
「この村ってそんなに治安悪かったか?」
「いえ、逆です。」
警察官は苦笑した。
「犯罪者が隠れられないのです。」
原因はもちろん――
ユーコだった。
ある日のこと。
怪しい旅人が村へ入ってきた。
警察もまだ気付いていない。
ところが。
「リク。」
「なんだ?」
「あの人、王都で指名手配されてる。」
「またか。」
俺はため息をついた。
結果、三十分後には逮捕された。
また別の日。
「リク。」
「今度は何だ?」
「あの人。」
「うん。」
「結婚詐欺。」
「そんなのまで分かるの?」
「分かる。」
そしてまた逮捕。
そんなことが何度も続いた。
やがて噂は周辺地域にまで広まった。
『遺跡の村に逃げるな。』
『一瞬でバレる。』
『あの眼鏡の子に見つかったら終わりだ。』
犯罪者の間では有名になったらしい。
その結果。
不思議なことが起きた。
村の治安がどんどん良くなったのである。
「リク殿。」
新しく赴任してきた警察署長が言った。
「どうしました?」
「実は暇なのです。」
「は?」
「犯罪がありません。」
なんとも贅沢な悩みだった。
夕方。
ユーコが突然メガネを押し上げた。
「リク。」
「ん?」
「変な人来た。」
「また犯罪者か?」
「違う。」
ユーコの表情が少しだけ真剣になる。
「今まで見たことない。」
「何が?」
「職業。」
その言葉に俺は振り向いた。
「職業が分からないのか?」
「うん。」
ユーコのメガネでも判別できない人物。
それは初めてのことだった。
そしてその謎の人物は、まっすぐ遺跡の村へ向かって歩いて来ていたのである。




