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旅の楽団

 次の週末。

 遺跡の村はこれまで以上の賑わいを見せていた。

 温泉の評判はますます広がり、宿屋は満室。

 広場には露店まで並び始めていた。

 そんな中、村に一組の旅の楽団がやって来た。

 笛吹き、太鼓叩き、弦楽器奏者。

 どこか陽気な雰囲気をまとった一団だった。

「せっかくだし、今夜のキャンプファイアーで演奏してもらおう。」

 俺が提案すると、楽団も快く引き受けてくれた。


 夜になると広場の中央に大きな炎が灯される。

 パチパチと薪が爆ぜる音。

 温泉帰りの客たち。

 笑い声を上げる子供たち。

 その中で楽団の演奏が始まった。

 軽快な笛の音。

 力強い太鼓。

 そして皆が知っている収穫祭の歌。

「マイム、マイム、マイム、マイム、マイム、落花生!」

 観客たちが大笑いする。

 この地方では落花生の収穫を祝う伝統的な踊りだった。

 人々は手を繋ぎ、火を囲む。

 輪になって回る。

 近づく。

 離れる。

 しゃがむ。

 立ち上がる。

 難しい振り付けなどない。

 子供でも老人でも参加できる。

 だからこそ楽しい。

 見ているだけでも自然と身体が動きたくなる。

 気付けば俺とユーコも皆と一緒に歌っていた。

「マイム、マイム、マイム!」

「マイム、落花生!」

 周囲から笑いが起きる。

 こういう馬鹿騒ぎも悪くない。

 踊りが終わると、今度は食事の時間だった。

 村人たちが大量に用意した黒パンが並ぶ。

 そこへ特製のピーナッツバターを塗る。

 落花生をすり潰し、じっくり練り込んだ自信作だ。

「うまい!」

「これは癖になる!」

「もう一枚!」

 評判は上々だった。

 ハクは子供たちに囲まれながら食べている。

 ユーコは無言で三枚目を食べていた。

「お前、結構好きだな。」

「美味しい。」

 短い返事だった。

 広場を見渡す。

 前回会った難病の子供の家族も来ていた。

 男の子は今日は元気に走り回っている。

 両親も笑顔だった。

 その光景を見ているだけで、温泉を復活させた甲斐があったと思えた。


 やがて宴も盛り上がってきた頃。

 俺は立ち上がった。

「そろそろ行くか。」

 ユーコも頷く。

「うん。」

 キャンプファイアーの日は必ず見回りを行う。

 人が集まれば魔物も寄ってくる。

 火に引かれて来ることもある。

 だから油断はできない。

 俺とユーコは広場を離れ、森へ向かった。

 背後からはまだ歌声が聞こえてくる。

「マイム、マイム、マイム!」

 楽しそうな声だった。

 月明かりが森を照らす。

 虫の鳴き声。

 木々のざわめき。

 異常はない。

 そう思った時だった。

 ユーコが立ち止まった。

「リク。」

「どうした?」

「静か。」

 言われて気付いた。

 森の音が消えていた。

 虫も鳴いていない。

 鳥の声もない。

 まるで何かを恐れて息を潜めているようだった。


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