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新企画キャンプファイア

 温泉が完成してからというもの、遺跡の村の宿屋は目に見えて繁盛し始めた。

 最初は近隣の冒険者たちだけだった。

 しかし――

「疲れが取れるらしいぞ。」

「朝になると身体が軽いそうだ。」

 そんな噂が口コミで広がり、やがて遠方からも客が訪れるようになった。

 宿屋の主人は嬉しい悲鳴を上げていた。

「部屋が足りませんな。」

「良いことじゃないですか。」

「いや、掃除が追いつきません。」

 どうやら現実的な問題もあるらしい。

 そんなある日。

 俺はユミさんと一緒に、宿屋の今後について話し合っていた。

「温泉だけでは、そのうち真似されるかもしれません。」

 ユミさんらしい冷静な意見だった。

「なるほど。」

「やはり温泉といえば浴衣ではないでしょうか?」

「浴衣かぁ。」

 俺は腕を組んだ。

 確かに雰囲気は出る。

 だが村には大量生産する技術がまだない。

「他には?」

「温泉饅頭とか。」

「温泉玉子?」

 俺も思いつきを口にする。

 しかし二人で考えた末、

「んー。」

「どれも少し難しいですね。」

 という結論になった。

 職人も設備も足りない。

 村はまだ発展途上だった。

 しばらく沈黙が流れる。

 すると突然、俺の頭に昔の記憶がよみがえった。

「そうだ!」

「何か思いつきました?」

「温泉とは関係ないけど、キャンプファイアはどうだ?」

 ユミさんの目が輝いた。

「それ、いいですね!」

「だろ?」

「子供たちも絶対喜びます。」

 こうして週末限定のキャンプファイア企画が始まった。

 村の広場に大きな焚き火を作る。

 歌を歌う。

 温泉に入る。

 夜空を眺める。

 ただそれだけだった。

 だが予想以上に評判になった。

 特に子供たちの人気は凄まじかった。

 やがて家族連れの宿泊客も増えていった。

 その中でも特に多かったのが、病気を抱えた子供を連れた家族だった。

 ある日のこと。

 キャンプファイアが終わり、宿泊客が帰る準備をしていた。

 一組の夫婦が俺のところへやって来た。

 母親は涙を浮かべていた。

「ありがとうございました。」

「どうしました?」

 俺が尋ねると、母親は隣の男の子の頭を撫でた。

「この子は生まれつき身体が弱くて……。」

 男の子は少し痩せていた。

「せっかく生まれてきたのに、楽しいことを知らないまま天に召されてしまうのではないかと考えていました。」

 父親も静かに頷いた。

「ですが。」

 母親は笑った。

「ここでは本当に楽しそうだったんです。」

 男の子も照れながら言った。

「温泉、気持ちよかった。」

「そうか。」

「火もすごかった。」

「それはハクのおかげだな。」

 男の子は大きく頷いた。

「それに昨日は久しぶりにぐっすり眠ったんです。」

 母親の声が震える。

 それだけで十分だった。

 俺は少し考えた後、リュックからポーションを取り出した。

「それは?」

「お役に立つか分かりませんが。」

 俺は男の子に渡した。

「持って帰ってください。」

「え?」

「村の名産品みたいなものです。」

 男の子は両手で受け取った。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

 ポーションで病気が治る保証はない。

 だが少しでも力になれればと思った。

 家族が帰った後、俺は焚き火の残り火を見つめていた。

 夜空には満天の星が広がっていた。

 温泉からは湯気が立ち上り、子供たちの笑い声がまだ遠くから聞こえてくる。

 百年以上眠っていた遺跡の村。

 今では多くの人が訪れ、笑い、思い出を作る場所になっていた。

 その光景を見ながら俺は思った。

 村の復興とは建物を直すことではない。

 人の笑顔を取り戻すことなのだと。

 そしてその夜も、温泉の灯火は静かに村を照らしていた。


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