宿屋の復興
遺跡の村の、宿屋の主人から相談があった。
「リク殿、少々困ったことがありましてな。」
「どうしたんです?」
「昔の宿屋のベッドには、一晩寝ると疲労が取れ、体力が回復する効果があったのです。しかし、石化から戻ってみると、その効果が失われておりまして……。」
「そんな便利なベッドが?」
俺は驚いた。
だが、よくよく話を聞いているうちに違和感を覚えた。
俺は宿屋を調べることにした。
すると建物の裏手に、石で囲まれた大きな窪地が見つかった。
「これは何です?」
「昔の温泉風呂ですな。」
宿屋の主人が懐かしそうに答えた。
俺は思わず手を叩いた。
「それだ!」
「はい?」
「ベッドじゃなくて温泉ですよ!」
昔の宿泊客は風呂に入ってから寝ていたのだろう。
疲労回復の原因はベッドではなく温泉だった可能性が高い。
こうして俺たちは温泉の復興に取り組むことになった。
しかし、これが思った以上に大変だった。
まず湯が出ない。
ようやく湯が出ても温度が低い。
「ぬるいな。」
「ぬるい。」
温泉らしい暖かさがない。
仕方なく別の場所を掘る。
掘る。
さらに掘る。
そして十日ほど経ったある日。
ゴボゴボゴボッ!
地面の下から勢いよく湯が吹き上がった。
「出たぞ!」
「温泉じゃ!」
村人たちが歓声を上げる。
試しに手を入れてみる。
「熱っ!」
「成功。」
皆が満足そうに頷いた。
こうして遺跡の村の温泉が復活した。
しかし本当に効果があるかは分からない。
そこで実験台として選ばれたのが、ハンドレッド・ストーンズの四人だった。
「お前ら毎日入ってくれ。」
「承知しました。」
「危険な仕事ですな。」
「温泉に入るだけだろ。」
なぜか四人は真面目な顔で頷いていた。
それから二週間後、彼らに体調を聞いてみた。
「どうだ?」
すると戦士が満面の笑みを浮かべた。
「いやー、リク殿。」
「うん。」
「温泉に入り始めてから、朝には嘘のように疲労が取れております。」
「ほう。」
「体の調子も抜群です。」
「本当か?」
「本当ですとも。」
魔法使いも続ける。
「以前はダンジョンから帰ると二日は筋肉痛でしたが、今は翌朝には回復しております。」
結果は上々だった。
「成功だな。」
俺がそう言うと、宿屋の主人は目に涙を浮かべた。
「ありがとうございます。」
「いや、まだまたやる事はありますよ。お風呂を広げて、男女が別れて入れるようにしましょう。」
そう言いながら、俺は温泉を眺めた。
確かに村はまだ復興の途中だ。
それでも一つ一つ。
少しずつではあるが、昔よりも良い村になり始めている。
その日の夜は、温泉の完成祝いとして村人達が集まり、大宴会が始まった。
そして俺はというと――
酔っ払った村人達に温泉へ放り込まれ、夜中に温泉に浸かる羽目になったのであった。




