批評する側とされる側
占い師アベリアが正式に遺跡の村の仲間となった。
薬師としての勉強を始めることも決まり、その日の夜は酒場で歓迎会が開かれることになった。
村人たちも新しい仲間が増えたことを喜び、料理や酒が次々と運ばれてくる。
「アベリア殿、歓迎するぞ!」
「これからよろしくお願いします!」
「薬が作れるようになったら助かるなぁ。」
村人たちに囲まれ、アベリアは少し照れながら頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
一方、俺はというと――
すでに何杯目かも分からない酒を飲んでいた。
こちらの世界の酒は妙に強い。
にもかかわらず、飲みやすい。
そのせいで毎回やらかす。
そして今回も例外ではなかった。
「だからなぁ!」
俺はテーブルを叩いた。
「箱根を舞台にした、その巨大な『汎用人型決戦兵器』の話はなぁ!」
「始まった。」
ユーコが即座に呟いた。
「最初のテレビ放送の最後は、ほんと意味が分からなかったんだよ!」
「リク、また同じ話。」
「いいから聞け!」
俺はジョッキを掲げた。
「当時はいろんな奴が偉そうに批評文を書いたわけだ!」
「わかった。うるさい。」
「まだ終わってない!」
ユーコはため息をついた。
どうやら毎回同じ流れらしい。
アベリアは興味深そうに聞いている。
「それでな!」
俺はさらに続けた。
「十年後、二十年後を見てみろ!」
「うん。」
「その作品は伝説になった!」
俺は力強く指を立てた。
「だが偉そうに批評していた評論家の名前なんて、誰一人覚えちゃいない!」
酒場が静かになった。
誰も話の内容は分からない。
だが、何となく熱意だけは伝わる。
「つまりだ!」
俺はアベリアを指差した。
「お前は批評家になるな!」
「え?」
突然話を振られたアベリアが驚く。
「批評される側になれ!」
「はい?」
「何かを作る人間になれ!」
俺は酔っ払った顔で真面目に言った。
「失敗してもいい。」
「……。」
「笑われてもいい。」
「……。」
「でもな、何かを作った人間だけが、後世に残るんだ。」
酒場が静まり返る。
酔っ払いの戯言。
そのはずだった。
しかし不思議と、そこには嘘がなかった。
アベリアはしばらく黙っていた。
そして静かに笑った。
「はいはい。」
「ん?」
「分かりましたよ、リクさん。」
彼女は少しだけ真剣な目をしていた。
「私は批評する人ではなく、誰かの役に立つ人になります。」
「そうだ!」
「薬も勉強します。」
「うむ。」
「だから、これから導いてくださいね。」
その時にはもう――
「zzz……」
俺は机に突っ伏して寝ていた。
「寝た。」
ユーコが呆れた声を出す。
「一番大事なところで寝た。」
「リクさんらしいですね。」
アベリアは苦笑した。
「でも。」
「?」
「良い話でした。」
ユーコは少しだけ考えた。
「たぶん本人、覚えてない。」
「そうでしょうね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
そして翌朝。
「リク!」
「うぅ……。」
「起きろ!」
「頭が割れる……。」
「酒場で寝るな!」
「すみません……。」
「歓迎会で主催者が先に寝るな!」
「ごもっともです……。」
「それから!」
ユーコは腕を組んだ。
「もう酒は禁止。」
「それだけは勘弁してくれ。」
「ダメ。」
「せめて月一回。」
「ダメ。」
「週一回。」
「増えてる。」
こうして俺は朝から一時間近く説教されることになった。
その様子を見ていたアベリアは、くすくす笑いながら思った。
(この村は本当に不思議な村ですね。)
英雄らしくない英雄。
神獣だった少女。
龍の幼女。
石化から復活した古代の住民たち。
そして、自分。
きっとここなら、母が残してくれた処方箋も活かせるだろう。
そう確信しながら、アベリアは新しい一日の始まりを迎えたのだった。




