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アベリアの処方箋

 占い師のアベリアが村に滞在するようになって数日が経った。

 占いの腕前はともかく、人の話を聞くのが上手いらしく、いつの間にか村人たちの相談相手になっていた。

 そんなある日のこと。

 アベリアが珍しく真面目な顔で俺のところへやって来た。

「リクさん、お願いがあります。」

「どうした?」

「薬草を集めて頂きたいのです。」

「薬草?」

 占い師から出る言葉としては意外だった。

 俺が首を傾げると、アベリアは、

「昔、庶民は病気になると占い師のところへ行ったそうです。」

「そうなの?」

 アベリアは頷く。

「最初の頃は占いで出た方角へお供えをするとか、そういうものでした。」

「それで治るのか?」

「治りません。」

 きっぱり言った。

 俺は思わず笑ってしまった。

「だよな。」

「ですが、ある時、一人の占い師が薬の処方を始めたそうです。」

「ほう。」

「すると驚くほど病人が回復しました。その後、薬の知識は全国の占い師たちへ広まりました。」

 アベリアは大切そうに一冊の古びたノートを取り出した。

 革表紙は擦り切れている。

 かなり古いものだ。

「これは?」

「母の形見です。」

 アベリアは優しく表紙を撫でた。

「代々、占い師の家に受け継がれてきた処方箋です。」

 中を見ると、びっしりと薬草の名前や調合方法が書かれていた。

 しかもかなり実践的だ。

 解熱薬。

 止血薬。

 腹痛薬。

 咳止め。

 簡単な傷薬。

 まるで薬学書だった。

「すごいな。」

「本来なら母から学ぶ予定でした。」

 アベリアは少し寂しそうに笑った。

「ですが、母は早くに亡くなってしまいました。」

 俺は黙って聞いた。

「借金も残っていましたので、家財道具もほとんど持って行かれました。」

「そうだったのか。」

「薬箱も取られました。」

 それは痛い。

 薬草の知識だけではなく、実際の器具も必要だからだ。

 しかしアベリアは少しだけ嬉しそうな顔をした。

「幸い、その借金取りにはこのノートの価値は分からなかったようです。」

 彼女は処方箋を掲げた。

「これだけは残りました。」

 俺は改めてノートを見る。

 なるほど。

 借金取りからすれば古びた落書き帳にしか見えなかったのだろう。

 だが、本当は何代にもわたって蓄積された知識の結晶だった。

「それで薬草か。」

「はい。」

 アベリアは頷いた。

「村で雇って頂いたおかげで生活には余裕ができました。」

「うん。」

「ですので、今度はこの処方箋を学びたいのです。」

 その目は真剣だった。

 占い師としてではない。

 一人の学ぶ者としての目だった。

「医者になるつもりか?」

「そこまで立派なものではありません。」

 アベリアは照れ臭そうに笑う。

「ですが、誰かが病気になった時に役に立ちたいと思っています。」

 その言葉を聞いて、俺は即座に答えた。

「全面的に協力する。」

「本当ですか?」

「ああ。」

 むしろ願ったり叶ったりだ。

 今の村は復興途中である。

 怪我人も出る。

 病人も出る。

 薬の知識を持つ人材は何人いても困らない。

「植物なら俺も少し分かる。」

 植物鑑定スキルがある。

 薬草探しならかなり役に立てるだろう。

「ユーコも手伝ってくれるよな?」

「うん。」

 ユーコは即答した。

「薬草探し得意。」

「本当か?」

「昔、賢者プロトンとよく探した。」

 神獣時代の経験らしい。

 それは頼もしい。

 すると横で話を聞いていたハクも手を挙げた。

「ハクも行く!」

「薬草分かるのか?」

「分からない!」

「だろうな。」

「でも見つける!」

「何を?」

「きれいな石!」

 目的が違う。

 だがアベリアは笑っていた。

 こうして遺跡の村には、占い師にして見習い薬師でもあるアベリアの小さな薬草工房が誕生することになったのである。


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