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旅の占い師

 ある日のことだった。

 遺跡の村に、一人の旅の占い師がやって来た。

 復興が進み始めたとはいえ、まだまだ辺境の村である。

 商人が来ることはあっても、占い師が来るのは珍しかった。

「お、占いか。」

 俺は少し興味を持った。

「こっちの世界の占いってどんなものなんだろうな。」

 地球でも占いは人気があった。

 星占い、血液型占い、手相占い。

 俺自身はそれほど信じていたわけではないが、話の種としては面白い。


 占い師の名前はアベリア。

 三十代くらいの女性だった。

 どことなく柔らかな雰囲気を持っている。

「いらっしゃい。」

 そう言って、彼女は前に座るよう促した。

 俺が椅子に腰を下ろすと、まず手を取った。

(お、こっちの世界にも手相占いがあるのか。)

 少し感心する。

 アベリアは真剣な顔で手のひらを見始めた。

 うんうんと頷いたり、時折眉をひそめたりしている。

 なかなか雰囲気はある。

 そして十分ほど経った後。

 彼女はゆっくり口を開いた。

「あなたは今、仕事を辞めようかどうか悩んでいますね。」

「いや、悩んでないけど?」

 俺は即答した。

 今の俺は異世界の村長みたいなことをやっている。

 辞めるも何もない。

 するとアベリアは少しも動じなかった。

「いいえ。私には分かります。」

「いや、本当に悩んでない。」

「あなたは今、仕事を辞めようかどうか悩んでいます。」

「人の話を聞いてくれ。」

 しかしアベリアは構わず続けた。

「それでは、こう考えてください。」

「はい?」

「あなたの大切な子供が、今のあなたと同じ状況にいたとします。」

「子供?」

「そうです。」

 アベリアは優しく微笑んだ。

「その子があなたに相談してきました。」

 俺は黙って聞く。

「今の仕事を続けるべきか、辞めるべきか。」

「……。」

「そのとき、あなたは何と答えますか?」

 少し考えた。

 もし息子がいたとして。

 もしブラック企業で心を削られながら働いていたとして、もし毎日苦しそうな顔をしていたら、

「辞めろと言うな。」

 自然に言葉が出た。

 アベリアは静かに頷く。

「では、それが答えです。」

「え?」

「今、あなたがその子に言おうとした言葉。」

 アベリアは言った。

「それが、本当は自分自身に言いたい言葉なのです。」

 俺は少し考え込んだ。

 占いとしては外れている。

 今の俺は仕事を辞めるかどうかで悩んではいない。

 だが、妙に納得する部分もあった。

 前世のことだ。

 国家公務員だった頃の俺なら、確かにそういう状況だったかもしれない。

 自分のことになると我慢する。

 周囲への迷惑を考える。

 責任を考える。

 そして決断が遅れる。

 だが、それが息子なら。

 きっと迷わず助言しただろう。

「なるほどな。」

「分かりましたか?」

「占いは当たってないけどな。」

「え?」

 アベリアが初めて困惑した顔をした。

「当たってないんですか?」

「全然。」

「そんな……。」

 本気でショックを受けている。

 どうやら悪徳占い師ではないらしい。

 むしろ少し天然かもしれない。

 俺は思わず笑ってしまった。

「でも面白かった。」

「面白かった?」

「ああ。」

 占いは当たらなかった。

 だが話は面白かった。

 そして少し考えさせられた。

「しばらく村にいてみないか?」

「え?」

「宿なら空いてる。」

 アベリアは目を丸くした。

「いいんですか?」

「構わないさ。」

 復興中の村には色々な人材が必要だ。

 商人も職人も学者も。

 占い師だって悪くない。

 少なくとも退屈はしなさそうだ。


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