閑話休題
その日は珍しく用事がなかったので、久しぶりにユーコとの軽口を楽しんでいた。
最近、ユーコは学校に通い始めてからというもの、新しく覚えた言葉やことわざを使いたがる。
ただし、その使い方が微妙におかしい。
「全く、『後悔、後を絶たず』じゃ。」
ユーコが腕を組んで偉そうに言った。
「いやいや、それを言うなら『後悔先に立たず』だろ。」
俺は思わず突っ込んだ。
確かに後悔は後を絶たない気もするが、それは別の話だ。
するとユーコは胸を張った。
「違う。」
「何が違うんだ。」
「神様から通信きた。」
「通信?」
「『後悔、後を絶たず』が正しい。」
「絶対嘘だろ。」
神様を便利な言い訳に使うな。
「嘘をつくと閻魔様にケツの毛を抜かれるぞ。」
するとユーコは即座に反撃した。
「リクのアホ。」
「なに?」
「それを言うなら『閻魔様に舌を抜かれる』じゃ。」
「ハハハ。」
俺は思わず吹き出した。
「分かってるじゃないか。」
「当然。」
ユーコは得意そうに鼻を鳴らした。
そんな馬鹿話をしていると、隣で絵本を読んでいたハクが顔を上げた。
「けつのけ?」
「覚えなくていい。」
俺とユーコが同時に言った。
ハクは不思議そうに首を傾げる。
そんなこんなで、気がつけば、俺とユーコは腹を抱えて笑っていた。
最近は、町へ頻繁に行ったりして、忙しい日が続いていた。
だが、こういう何でもない時間も悪くない。
むしろ、こういう時間のために頑張っているのかもしれない。
ユーコは学校で覚えたばかりの言葉を披露する。
ハクは意味も分からず真似をする。
俺はそれに突っ込みを入れる。
ただそれだけだ。
けれど、その賑やかな時間が妙に心地よかった。
ふと窓の外を見る。
復興中の村からは、子供たちの笑い声が聞こえていた。
俺は湯飲みを手に取りながら思う。
――後悔は先に立たない。
だが、幸せというやつも案外、後になってから気付くものなのかもしれない。




