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ユーコの小刀

 買い物は商業ギルドでほぼ揃えることが出来た。

 大量の農具。

 鍋や包丁。

 釘や金具。

 生活に必要な品々を荷車いっぱいに積み込み、俺たちは遺跡の村へ戻った。

 村人たちは大喜びだった。

「鍬だ!」

「新品の包丁だ!」

「鍋まである!」

 百年ぶりに手にするまともな道具に、皆の顔が輝いている。

 その光景を見ながら、俺は復興とはこういうことなのだろうと思った。

 派手な魔法でもない。

 英雄的な戦いでもない。

 明日も生きていけるという安心を積み重ねること。

 それこそが本当の復興なのかもしれない。

 そして二ヶ月後。

 約束の日がやって来た。

 俺とユーコ、それにハクを連れて鍛冶屋『ノルド』へ向かった。

 店に入ると、相変わらず奥から金属を打つ音が聞こえる。

 俺が声をかけようとした瞬間、

「なんじゃ、ずいぶん遅かったのう。」

 ノルドが奥から現れた。

「一週間も待ちわびたわ。」

「いやいや。」

 俺は思わず笑った。

「今日が受け渡し日だろう。」

「細かいことを気にするな。」

 ノルドはぶつぶつ言いながら奥へ引っ込む。

 そして一振りの小刀を持って戻って来た。

「ほれ。」

 ユーコに差し出す。

 鞘だけでも一目で分かった。

 美しい。

 華美ではない。

 だが無駄がない。

 職人が一切妥協せずに仕上げたことだけは素人の俺にも分かった。

 ユーコが静かに刀を抜く。

 シュッ――

 刃が現れた瞬間。

 店内の空気が少し変わったような気がした。

 薄く青白い刀身。

 無駄のない反り。

 美しい刃文。

 まるで芸術品だった。

「これ。」

 ユーコが珍しく目を輝かせる。

「気に入った。」

 ノルドの髭が少し揺れた。

 どうやら嬉しかったらしい。

「そうか。」

 だが職人らしく平静を装う。

「まあ剣を受け止めたくらいでは壊れやせん。」

 ユーコは小刀を腰に差してみる。

 白銀の髪。

 整った顔立ち。

 そして脇に収まった小刀。

 まるで昔からそこにあったかのように自然だった。

「どうじゃ?」

 ノルドが聞く。

「ああ。」

 俺は素直に頷いた。

「似合う。」

 ユーコも満足そうだった。

 その様子を見ながら、俺はふと思う。

 世の中には高価な物が溢れている。

 性能の良い武器。

 豪華な馬車。

 速い車。

 立派な屋敷。

 だが、それらが必ずしも人を幸せにするとは限らない。

 むしろ手に入れたことで慢心し、身を滅ぼすことすらある。

 前世でもそうだった。

 速すぎる車。

 豪華すぎる家。

 必要以上の贅沢。

 人は時に、使い切れないものを欲しがる。

 商売というものは、多くの場合、その欲望によって成り立っている。

 だがノルドの小刀は少し違った。

 見栄のためではない。

 金儲けのためでもない。

 ただ良い物を作りたい。

 その職人としての意地だけで生まれた一振りだった。

 だからこそ美しいのだろう。

 ユーコは何度か刀を抜き差しし、

「うん。」

 と満足そうに頷いた。

 その姿を見ながら、俺は心の中で祈った。

 できることなら。

 この小刀が本当の意味で使われる日が来ないことを。


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