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記念写真

 王都を出発する前。

 俺たちは大通りを歩いていた。

 すると、一軒の店が目に入った。

「写真店?」

 看板にはそう書かれている。

 ガラス窓の向こうには、額縁に入った肖像写真が並んでいた。

 俺は思わず足を止めた。

「写真か……。」

 異世界に来てからというもの、絵画は何度も見たが、写真を見るのは初めてだった。

「入る。」

 ユーコが興味深そうに店を覗き込む。

 ハクも真似をする。

「しゃしんー!」

 こうして俺たちは、旅の記念に写真を撮ることにした。

 この世界の写真技術はまだ発展途上だった。

 銀メッキした銅板を感光材料として使用する「ダゲレオタイプ」という方式らしい。

 そのため――

「露出時間は三十分ほどになります。」

 店主が申し訳なさそうに説明した。

「三十分!?」

「動かないでいただければ、美しく撮影できます。」

 なかなかの苦行である。

 それでも、せっかくなので撮ることにした。

 中央に俺。

 右にユーコ。

 左にハク。

 椅子に座り、撮影開始。

 そして三十分後。

 ようやく撮影が終わった。

 完成した写真を受け取った俺は満足していた。

「おお、いいじゃないか。」

 そこには笑顔の俺が写っていた。

 無表情なユーコ。

 途中で眠くなったのか、半分目を閉じているハク。

 実に俺たちらしい写真だった。

 だが、その写真を見たユーコが首を傾げる。

「リク、笑顔で写っている。気持ち悪い。」

「ひどいな。」

「そんな顔、普段しない。」

「いやいや、写真は笑顔で写るもんだろ。」

「そんなの聞いたことない。」

 ユーコは写真をじっと見つめる。

「三十分もこんな顔してたなんて、リクは変。」

「だからひどいって。」

 ハクまで頷いている。

「へんー。」

 まったく。

 散々な言われようだった。

 それでも俺は満足だった。


 なぜだろう。

 写真の中の自分を見ていると、昔のことを思い出していた。

 地球でのことだ。

 小学校。

 中学校。

 卒業アルバム。

 そこに写る俺は、いつも笑顔だった。

 今見ても、幸せそうに見える。

 だが。

 当時の俺はどうだっただろうか。

 将来への不安ばかり抱えていた。

 自分に自信がなかった。

 友人関係も得意ではなかった。

 楽しい思い出ばかりだったとは、とても言えない。

 なのに、写真の中の俺は、楽しそうに笑っている。

(あれは偽物だったのか?)

 一瞬そう思った。

 しかし、違う気がした。

 あの笑顔もまた、本物だったのだろう。

 不安も本物。

 笑顔も本物。

 人間は案外、自分の幸せに気付けない。

 当時の俺は、自分が持っていたものより、持っていないものばかり見ていた。

 だから幸せを感じられなかっただけなのかもしれない。

 友達がいた。

 家族がいた。

 学校があった。

 平和な毎日があった。

 それらは失って初めて価値に気付くものだった。

「リク?」

 ユーコが不思議そうな顔をしている。

「いや、何でもない。」

 俺は写真を大事に鞄へしまった。


 十年後。

 二十年後。

 あるいはもっと先。

 この写真を見たとき、俺は何を思い出すのだろう。

 神獣だったユーコ。

 龍の子のハク。

 王都の朝。

 ランケとの別れ。

 そして今の自分。

 未来のことは分からない。

 だが、カール皇帝の言葉だけは確かだ。

『十年前に今日を予測出来なかったように、十年後は誰にも予測できない。』

 だからこそ。

 今この瞬間を大事に生きるしかないのだろう。

「よし。」

 俺は立ち上がった。

「腹ごしらえして帰るか。」

「帰る。」

「おなかすいたー。」

 三人は王都の門へ向かって歩き出した。


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