カールの贈り物
街道を進むにつれて、人の流れはどんどん増えていった。
そして、その全ての視線の先には――王都があった。
「おお……」
俺は思わず声を漏らした。
そびえる巨大な城壁。
中央の巨大な門には行列が出来ていた。
「やっと着きましたな」
ランケが感慨深そうに呟く。
その横で、ユーコは門を眺めていた。
「懐かしい。」
「ユーコ、王都に来たことあるんだよな」
「うむ。昔、住んでおった。」
さらっと恐ろしいことを言う。
初代皇帝と知り合いの時点で察してはいたが、“昔”のスケールが普通じゃない。
すると、ユーコが突然何かを思い出したように耳をぴくりと動かした。
「あ、ちょっと寄り道する」
「え?」
ユーコは街道を外れ、近くに立っていた巨大な木へ向かって歩き始めた。
樹齢何百年あるのかわからない大木だ。
「確か、このあたりだったはず。」
そう言うと、ユーコは地面を手で掘り始めた。
ザッ、ザッ、と軽快な音が響く。
「……何してるんだ?」
「宝探し。」
「そんな軽い感じなのか?」
しばらくすると、ユーコの手が何か硬いものに当たった。
「あった。」
掘り返された土の中から現れたのは、小さな箱だった。
赤黒い木材で作られた豪華な装飾箱。
長い年月を土の中で過ごしたとは思えないほど綺麗な状態だ。
「それは?」
「カールにもらった首輪。カールが亡くなったあと、ワシがここに埋めて王都を離れた。」
「…………は?」
ランケの動きが止まった。
「か、カール様というのは、まさか……」
「初代皇帝カールじゃ。」
「なんと、初代皇帝カール様ゆかりの品ですと!?」
ランケが絶叫した。
通行人が何事かとこちらを見る。
「静かにしろ!」
「ですがっ……!」
ランケは完全に挙動不審だった。
まあ、無理もない。
建国神話レベルの人物の遺品が、今、目の前にあるのだから。
だが、本当に問題だったのは、その直後だった。
ユーコが箱の蓋を開けた瞬間。
キラァァァァッ――!!
太陽光を反射した凄まじい輝きが周囲を包み込んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
一瞬、全員が無言になる。
箱の中に収められていたのは、太い黄金のチェーン。
そして中央には――
巨大なダイアモンド。
見たこともない大きさだった。
いや、大きいなんてものじゃない。
拳ほどある。
ランケの顔が引きつった。
「ダ、ダイアモンド……」
声が震えている。
「100カラットはありますよ!」
「ひゃっ、百!?」
俺は思わず変な声を出した。
前世の知識でも、それが異常だということくらいわかる。
そんなもの、王冠にだって普通は使わない。
「しかも透明度が異常です……。こ、こんなもの、国宝級どころでは……」
ランケが青ざめながら後ずさる。
その一方で。
「あ、ぴったり。」
当のユーコは、何事もない顔で首輪を首に装着していた。
「どうじゃ?」
「……ま、まぁ、ユーコが身につける分には、皆、おもちゃに思うだろう。うん。問題ない。」
俺はなぜか取り繕うように言った。
実際、普通の人間なら本物だと思わないはずだ。
思いたくない。
「問題大ありですよ!?」
ランケは頭を抱えた。
すると、ユーコが箱の中を再び覗き込む。
「ん?」
中にはもう一枚、紙が入っていた。
羊皮紙だ。
取り出してみると、そこには達筆な文字が記されていた。
『この首輪は、我が盟友ユーコへ贈るものである』
その下には――
初代皇帝カールの署名。
そして帝国紋章付きの正式な鑑定印。
「…………」
「…………」
「…………」
俺はそっと紙を箱へ戻した。
「ユーコ。」
「なんじゃ?」
「その首輪、できれば人前では隠そう。」
「嫌じゃ。」
ユーコはふんっと鼻を鳴らした。




