若者たちの夢
王都へ続く街道は、地方の道とは比べものにならないほど賑わっていた。
荷馬車。
商人。
旅芸人。
冒険者。
貴族らしき一団。
そして――若者たち。
「おおー!」
龍の幼女が馬車の窓から顔を出す。
「ひといっぱい!」
「落ちるなよ。」
リクは慌てて服を引っ張った。
今の彼らは、村人から借りた大型の馬車で移動していた。
街道沿いには、王都を目指す若者たちの姿が多かった。
革鎧を着た新人冒険者。
魔法使い風の少女。
大剣を背負った少年。
皆、どこか目を輝かせている。
「王都で有名になるんだ!」
「俺、絶対Aランク冒険者になる!」
「貴族にスカウトされるかもな!」
そんな声が、あちこちから聞こえてきた。
希望。
野心。
自信。
若者特有の熱気があった。
だが。
リクは反対方向から歩いてくる若者たちにも気づいていた。
彼らは皆、疲れた顔をしていた。
装備は傷だらけ。
中には荷物を減らし、身軽になっている者までいる。
視線も暗い。
王都へ向かう者たちとは、まるで逆だった。
(……なんとなく、分かるな。)
リクは窓の外を眺めながら思う。
若者にとって夢とは、
“夢”ではない。
“必ず成功すると信じている未来”だ。
だからこそ真っ直ぐ進める。
疑わない。
失敗するとも思っていない。
それは決して悪いことではない。
むしろ、若い頃は、それくらいの勢いが必要なのだろう。
だが現実は違う。
努力した全員が成功する訳ではない。
才能。
運。
時代。
人脈。
権力。
そして、大人たちの思惑。
世の中は、あまりにも複雑だ。
しかし若者は、それを知らない。
あるいは、知ろうとしない。
だから親が、
『そんなに甘くない』
『現実を見ろ』
と言えば、
『親は何も分かってない!』
と反発する。
結局、周囲の大人たちは、夢が醒めるのを待つしかなくなる。
(親子のすれ違いって、案外こんなところから始まるんだろうな……。)
リクは前世を思い出していた。
田舎。
受験。
東京。
国家公務員。
必死に頑張った。
だが、自分の場合は自信は最後まで持てなかった。
夢を見切れなかったのか、それとも現実を見過ぎて醒めていたのか。
今となっては分からない。
「……。」
いつの間にか、かなり険しい顔になっていたらしい。
隣のユーコがじっと見ていた。
「リクの顔怖い。」
「え?」
「何か陰謀を企てている顔。」
「どんな顔だよ。」
思わず吹き出す。
だがユーコは真顔だった。
「悪い貴族みたい。」
「ははは。」
リクは肩をすくめる。
「そうだな。大人はいつも陰謀を企ててる。」
「やっぱり。」
「納得するな。」
すると今度は、ハク(龍の子)が会話へ割り込んできた。
「いんぼーっておいしい?」
「食べ物じゃない。」
「じゃあいらない。」
即答だった。
ユーコが少し笑う。
「賢い。」
「そうか?」
「余計なこと考えてない。」
「それは確かに。」
リクも苦笑した。
街道を歩く若者たちは、まだ夢を見ている。
だが。
夢を失ったような顔をして王都から去っていく若者たちもいる。
どちらが正しいのか。
きっと簡単には決められない。
その時、それは現れた。
「……でか。」
巨大な白亜の城壁。
空へ届きそうな塔。
無数の建物。
人、人、人。
王都。
この国最大の都市だった。
龍の幼女が目を輝かせる。
「おうとー!!」
だがリクは、その巨大な都市を見ながら思った。
(……ここには、夢を叶えた奴も、夢を失った奴も、全部集まってるんだろうな。)




