サトルとユミ
ある日の夕方だった。
コンコン。
リクの部屋の扉が叩かれる。
「はい?」
開けると、そこには遺跡の村の住民である二人が立っていた。
一人は六十代ほどの男性。
もう一人は三十代くらいの女性。
二人とも、この世界では珍しい黒髪に黒い瞳をしている。
(……ん?)
リクは少し違和感を覚えた。
すると男性のほうが軽く咳払いする。
「リク殿、少々宜しいか?」
男性は静かに言った。
「単刀直入にお尋ねしますが、リク殿は日本人ではありませんか?」
部屋の空気が止まった。
リクは数秒黙り込み――
「……そうですが。」
そう答えた。
「お二人も?」
「はい。」
女性が少し嬉しそうに笑う。
「やっぱり。」
リクは思わず椅子へ座り込んだ。
異世界へ来てから、初めてだった。
自分以外の日本人に会ったのは。
「まさか……こんなところで。」
男性も苦笑する。
「私も同じ気持ちです。」
そして改めて名乗った。
「私はサトルと申します。元は昭和の終わり頃の日本にいました。」
「昭和!?」
「はい。」
さらに女性が頭を下げる。
「私はユミです。平成生まれです。」
「えっ。」
リクの頭が混乱する。
「時代違うのか!?」
「どうやら、この世界へ来る時期も年代もバラバラみたいですね。」
サトルが頷いた。
話を聞くと。
サトルは戦後間もない日本で生まれ、高度成長期を生きた人物だった。
一方ユミは、現代日本の保育士。
交通事故で命を落とした後、この世界へ来たらしい。
「……なんか、変な感じですね。」
リクが呟く。
日本人なのに。
生きてきた時代が違う。
知っている文化も微妙に違う。
だが、それでも不思議と安心感があった。
「日本語を話せる相手がいるって、こんなに落ち着くんだな……」
思わず本音が漏れる。
ユミが優しく笑った。
「リクさん、ずっと頑張ってたんですね。」
「え?」
「だって、この村をここまで復興させて。」
「いや、俺一人じゃないですよ。」
「それでもです。」
そう言われると、少し照れ臭かった。
するとサトルが周囲を見回す。
「しかし驚きましたな。」
「何がです?」
「ここまで日本的な空気を持つ村を作っているとは。」
「え?」
「人助けを重視し、皆で働き、子供を大切にする。」
サトルが笑う。
「まるで昔の日本のようです。」
その言葉に、リクは少しだけ胸が熱くなった。
自分では意識していなかった。
だが、きっと無意識に、日本で見てきたものを、この村に持ち込んでいたのだ。
その時だった。
部屋の隅から、小さな声がする。
「ぱぱー、おなかすいたー。」
龍の幼女が毛布を引きずりながら現れた。
寝癖がすごい。
するとユミが、龍の幼女を見て目を細めた。
「かわいい……」
「がおー!」
龍の子が短い腕を広げる。
「かわいい……」
その後、話題は自然と村の子供たちへ移った。
「実はですね。」
ユミが真面目な顔になる。
「この村、子供たちの面倒を見る場所が必要だと思うんです。」
「ああ……」
リクも頷く。
最近は復興作業で大人たちが忙しい。
そのため、子供たちは放置気味だった。
「保育園を作りたいんです。」
「保育園?」
「はい。」
ユミの目が輝いていた。
「遊んで、学んで、皆で育つ場所。」
「……。」
リクは少し驚いた。
異世界で。
保育園。
そんな発想は無かった。
「私、元保育士なんです。」
ユミが笑う。
「だから、今度はこの世界の子供たちを育てたい。」
その言葉を聞いた時。
リクは思った。
(ああ……。)
この村は。
ただ生き残る場所じゃない。
新しい人生を始める場所になっているんだな、と。




