龍の子の人化
盗賊団のアジトから戻って数日後。
遺跡の村は、久しぶりに穏やかな空気に包まれていた。
村人たちは復興作業に慣れ始め、
ダンジョン産ポーションの出荷も順調。
世界樹の眷属樹も元気に育っている。
そして――
「キュオ〜♪」
龍の子は完全に村の人気者になっていた。
「おーい、そっち行くなー!」
リクが慌てて追いかける。
龍の子は、まだ子犬ほどの大きさしかない。
だが、とにかく好奇心旺盛だった。
今日は干してあった洗濯物へ突撃し、
昨日は畑を掘り返し、
一昨日はポーション瓶を転がして遊んでいた。
「絶対知能高いのに、やってること幼児なんだよな……」
「まだ赤ちゃん。」
ユーコはどこか楽しそうだった。
その時。
龍の子がぴたりと止まった。
「キュ?」
視線の先。
そこには、リクのカバンがあった。
「あ。」
嫌な予感がした。
龍の子が、ぱたぱたと飛んでいく。
「お、おい。」
ガサゴソ。
カバンを勝手に漁り始める。
「待て待て待て!」
だが遅かった。
龍の子は、小さな袋を見つけてしまった。
中から出てきたのは――
進化の実。
「キュオ〜♪」
「それ食うなぁぁぁ!!」
パクッ。
「あ。」
飲み込んだ。
完全に飲み込んだ。
数秒。
静寂。
「……。」
「……。」
そして。
龍の子が突然光り始めた。
「キュオオオオ!?」
「うおっ!?」
眩い光が村中へ広がる。
魔力が暴風のように渦巻いた。
世界樹の眷属樹までざわめき始める。
「進化始まった。」
ユーコが冷静に言う。
「いや、そんな簡単に言うな!?」
龍の子の身体がどんどん変化していく。
翼が縮み。
角が小さくなり。
尻尾が消え。
やがて。
光が弾けた。
そして――
「……ふぇ?」
そこにいたのは。
三歳くらいの小さな女の子だった。
白銀の髪。
蒼い瞳。
頭には小さな龍角が残っている。
しかも。
何故か全裸だった。
「…………。」
「…………。」
「ふぇぇ?」
「だから何で毎回裸なんだよぉぉぉ!!」
リクが叫ぶ。
ユーコは慣れた様子で毛布を持ってきた。
「包む。」
「ありがとう!」
少女は毛布にくるまれながら、きょろきょろ周囲を見る。
そして。
「ぱぱ?」
リクを見た。
「……は?」
「ぱぱー♪」
ぎゅっ。
抱きついてきた。
「違う違う違う!!」
「完全に親認識。」
「ユーコも止めろ!」
さらに、少女は今度はユーコを見る。
「まま?」
「違う。」
即答だった。
だが、少女は嬉しそうに笑う。
「ままー♪」
そしてユーコへ抱きつく。
ユーコは少し困った顔をしながらも、優しく頭を撫でた。
「……柔らかい。」
「そこじゃない!」
すると村人たちが集まってきた。
「何事だ!?」
「爆発か!?」
「って、子供!?」
「リクさんまた何か拾ってきたのか!?」
「違う!拾ってない!」
リクが必死に否定する。
しかし、少女は完全にリクへべったりだった。
「ぱぱ〜♪」
「うぅ……。」
しかも。
小さな尻尾が毛布の中でぱたぱた動いている。
どう見ても嬉しそうだ。
その時、ユーコがぽつりと言った。
「龍、人型になった。」
「……だな。」
「かなり高位。」
「そうなのか?」
「普通の龍は無理。」
つまり。
この子は、生まれた時点でかなり特別な存在らしい。
しかも進化の実を食べたことで、人化能力まで得てしまった。
「……神様に怒られないよなこれ。」
リクは遠い目をした。
すると少女が小さく手を上げる。
「おなかすいた!」
「喋った!?」
しかもかなり流暢だった。
ユーコが少し驚く。
「成長早い。」
「いや早すぎるだろ!」
そして今度は、村の子供達が集まってきた。
「わぁー!」
「かわいい!」
「お人形さんみたい!」
少女は目を輝かせた。
「ともだち?」
「そうだな。」
リクが笑う。
すると少女は、満面の笑みを浮かべた。
「ともだちー!!」
その瞬間。
遺跡の村に、新しい家族が増えたのだった。




