盗賊団退治の後始末
盗賊団スリーピースのアジトを制圧した帰り道。
リクはぼんやり空を見上げていた。
朝日が森を照らしている。
盗賊討伐を終えた直後とは違い、今は、不思議と気持ちは静かだった。
(……年を取るって、難しいな。)
ふと、そんなことを考える。
若い頃、人は自分に厳しい。
どれだけ頑張っても満足せず、もっと強く、もっと上へと考える。
その努力の継続で、時に“敵無し”と呼ばれるほど強くなる。
だが、年を重ねると変わる。
少し鍛えただけで、
“今日は調子がいい”
“もう十分だ”
そう、自分へ甘くなっていく。
慢心。
油断。
過信。
それが少しずつ積み重なり、人は鈍る。
(今回の盗賊どもも……。)
以前はどうだったか知らない。
だが、少なくとも、今の彼らは話に聞くほど強くなかった。
酒。
怠慢。
油断。
そんな空気がアジト全体に漂っていた。
(俺も気をつけないとな……。)
最近は上手く行きすぎている。
だからこそ怖かった。
人は、順調な時ほど足元を見なくなる。
そんなことを考えているうちに、町へ到着した。
リクたちは真っ先に冒険者ギルドへ向かう。
朝早い時間だというのに、ギルド内は騒がしかった。
だが。リクたちが入った瞬間、空気が止まる。
「……おい。」
「あれ、『疾風ウルフ』じゃねぇか。」
ガルドがカウンターへ近づく。
「ギルマスいるか?」
「朝から何だよ……って、お前らその格好……」
受付嬢が目を見開く。
全員、返り血と埃まみれだった。
しかも後ろには、縛られた盗賊たちまでいる。
「盗賊団スリーピースを制圧した。」
リクがそう言った瞬間。
ギルドが静まり返った。
「……は?」
「ほんとに倒しちまったのか?」
奥からギルドマスターが飛び出してくる。
「ああ。」
リクは淡々と答えた。
「捕まえた盗賊が二十人。助けた女性と子供が二十人だ。」
「……。」
ギルドマスターが絶句する。
周囲の冒険者たちも凍りついていた。
スリーピースは、この辺りでは有名な盗賊団だったのだ。
しかも、普通なら討伐依頼だけでも大騒ぎになる相手。
それを一晩で壊滅させて帰ってきた。
「お前ら……何やってんだほんと……」
ギルドマスターが頭を押さえる。
「人数が多いな。護送隊を集めるのに時間がかかるかもしれん。」
「構わない。」
リクは頷く。
「女性たちの保護を優先してくれ。」
「分かった。」
そして、リクは袋を机へ置いた。
ガチャリ。
中から大量の宝石や貴金属が出てくる。
「うおっ!?」
「な、なんだこれ……!」
「盗賊団のアジトにあった。」
ギルドマスターの顔が険しくなる。
「……盗品か。」
「たぶんな。」
「回収して調べる。被害者に返還されるだろう。」
その時だった。
ギルドマスターが急に真面目な顔になる。
「ちなみに。」
「?」
「スリーピースには、王都からも討伐懸賞金が出てた。」
「へぇ。」
あまり興味がなさそうなリク。
ギルドマスターは苦笑した。
「“へぇ”じゃねぇ。」
机に紙を置く。
「討伐報奨金、大金貨三十枚。」
「……え?」
今度はリクが固まった。
「さらに盗賊捕縛報酬。人命救助特別金。盗品回収協力金も付く。」
受付嬢が計算していく。
「合計……大金貨五十二枚になります。」
ギルド内がざわついた。
「ご、五十二!?」
「家買えるぞ……」
「いや屋敷だろ……」
だが。
リクは思った。
(村の復興費に消えるな……。)
現実的だった。
するとギルドマスターが笑う。
「あと、お前らの冒険者ランク。」
「ん?」
「間違いなく上がる。」
周囲の冒険者たちも頷いていた。
盗賊団壊滅。
人命救助。
盗品回収。
どれも大功績だ。
だが、リクはそれより気になることがあった。
「じゃあ、後は頼む。」
「……は?」
「まだアジトに残ってる奴がいるかもしれない。」
「お、おい待て!」
リクはもう踵を返していた。
「ユーコ、戻るぞ。」
「うん。」
「お前、金より先に現場戻るのかよ!?」
ギルドマスターが叫ぶ。
リクは少しだけ振り返り。
「助け残しがあったら後悔するだろ。」
そう言って、またアジトへ向かっていった。
ギルド内では、しばらく誰も言葉を失っていた。
そして、一人の冒険者がぽつりと呟く。
「……あいつ、本当に新人か?」




