赤毛のアンのお話
リクはユーコを連れて、ギルバートの屋敷を訪れていた。
応接室へ通されると、以前助けた少女――クリスティーナが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「リクさん! ユーコさん!」
「久しぶり。」
ユーコが軽く手を振る。
クリスティーナは、以前よりだいぶ元気そうだった。
「村のお話、聞きました! 本当に遺跡の村を復活させたんですね!」
「まあ、成り行きで……」
「成り行きで村復活って何ですの……」
横でギルバートが苦笑する。
相変わらず貴族らしい落ち着いた雰囲気の男だった。
「それで、本日は相談があるとか。」
「ああ、実は……」
リクはユーコを見る。
するとユーコは、なぜか机の上のお菓子を見ていた。
「……話聞いてるか?」
「聞いてる。」
絶対半分くらい聞いていない。
リクは咳払いをしてから話し始めた。
「ユーコを学校へ通わせたいんです。」
「ほう。」
ギルバートが少し驚いた顔をした。
クリスティーナも目を丸くする。
「ユーコさんが学校に?」
「うん。」
ユーコは頷く。
「給食あるらしい。」
「そこなの!?」
クリスティーナが思わず突っ込んだ。
ギルバートは笑いを堪えながら言う。
「なるほど。しかし、ユーコ殿の年齢ですと、途中編入になりますな。」
「やっぱり難しいですか?」
「いえ、不可能ではありません。」
ギルバートは少し考え込む。
「まずは土曜学校から始めるのが良いでしょう。」
「土曜学校?」
「正式な生徒ではなく、礼儀作法や基礎教養を学ぶ場です。貴族の子だけでなく、商人や冒険者の子もおります。」
つまり、お試し期間みたいなものらしい。
「そこで問題がなければ、通常クラスへ編入できます。」
「なるほど。」
かなりありがたい制度だった。
すると、クリスティーナが身を乗り出す。
「でしたら、私が案内します!」
「お。」
「学校の先生方にもお話しておきますね!」
どうやらかなり乗り気らしい。
ユーコは少し不思議そうに首を傾げた。
「クリス、学校好き?」
「はい!」
クリスティーナは笑顔で頷く。
「お友達もできますし、色んなお話も聞けますもの!」
「……友達。」
ユーコが小さく呟く。
ギルバートは、その様子を静かに見ていた。
「ユーコ殿。」
「ん?」
「あなたは、とても強いお方だ。」
その言葉に、部屋が少し静かになる。
「ですが、“人と共に生きる力”は、また別の才能です。」
「……」
「学校では、きっと色んなことを学べるでしょう。」
ユーコは少し考え込み。
それから、小さく頷いた。
「……やってみる。」
その返事に、リクは少し安心した。
その夜。
宿へ戻ったあと。
リクは、ユーコへ『赤毛のアン』の話を聞かせていた。
プリンス・エドワード島。
マリラと兄マシュー。
本当は男の子を迎えるはずだったのに、やって来たのは、おしゃべりな少女アンだった――。
ユーコは、珍しく静かに話を聞いていた。
そして、アンは一泊だけマリラ達の家で過ごし、孤児院に送り返そうとしたが、その道中、近所の3人の子持ちのおばさんが子守にアンを欲しいと言い出した。
アンに少なからず情が湧いていたマリラは、勢いでアンはうちで預かると言い出し、アンは大喜びをした。
「変わりの子、かわいそう。」
「ん?」
「アンの変わりに、誰かが子守のために孤児院から送られた。きっと苦労した。」
「ああ……」
リクは少し驚いた。
普通なら、“アンが引き取られて良かった”と感じる場面だ。
だがユーコは、その裏側を考えた。
「何事にも、表と裏があるんだな……」
リクは苦笑する。
するとユーコは、真面目な顔で言った。
「私は子守りでいい。マリラの家には行かない。」
「なんでだよ。」
「変わりの子、悲しい。」
ユーコは本気だった。
その純粋さに、リクは少しだけ目を細める。
(……大丈夫そうだな。)
学校へ行けば、きっと色んな人と出会う。
楽しいことも、嫌なことも、きっとある。
それでも、ユーコなら、自分なりにちゃんと考えて進めるだろう。
そんな気がした。
すると、ユーコがふと聞いてくる。
「アン、学校行った?」
「ああ、行ったぞ。」
「友達できた?」
「いっぱいできた。」
その答えを聞いて。
ユーコは少しだけ嬉しそうに笑った。




