表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/91

ユーコの今後

 あの日の夕食後。

 なぜかランケによる“ユーコ質問会”が始まっていた。

「なんと……!」

 ランケは机に身を乗り出している。

「ではユーコ殿は、あの伝説の賢者プロトン殿に仕えておられたので!?」

「仕えてた違う。飼われてやってあげただけ」

 ユーコは訂正した。

「おおお……!!」

 ランケが感動している。

 俺にはよく分からない。

「そんなに凄い人なのか?」

「もちろんですぞ!」

 ランケは興奮気味に語り始めた。

「賢者プロトン様は、“魔導文明の父”と呼ばれるお方です! 今の魔法理論の半分は、プロトン様の研究が元になっていると言われています!」

「へぇ……」

「しかも実在については諸説あったのです! それが今、ユーコ殿によって証明されたのですぞ!」

 なんか歴史的大発見になっていた。

 しかし、当のユーコは、きのこスープを飲みながら平然としている。

「プロトン、変人だった。」

「なっ……!」

 ランケが絶句する。

「部屋いつも散らかってた。研究始めると三日寝ない。」

「そ、そんな裏話まで……!」

 ランケの目が完全に歴史オタクのそれだった。


 さらに、

「王宮では、カールにも世話になった。」

「おおっ!?」

 ランケが立ち上がった。

「そ、それはもしや、“新時代の初代皇帝カール陛下”でございますか!?」

「たぶんそう。」

「たぶん!?」

 俺にはもう分からない。

 だが、とにかく凄いらしい。

 ユーコはパンをもぐもぐ食べながら続ける。

「カール、最初は泣き虫だった。」

「初代皇帝陛下が!?」

「剣術嫌いで、よく逃げてた。」

「歴史が崩壊するぅぅ!!」

 ランケが頭を抱えた。

 そんな様子を見ながら、リクは苦笑する。

(まあ、ユーコからすれば“最近の人”みたいな感覚なんだろうな……)

 数百年生きた神獣である。

 歴史上の偉人とも普通に知り合いなのだ。


 すると、急にランケが真面目な顔になった。

「……リク殿。」

「ん?」

「ユーコ殿は、学校へ通わせたほうが良いかと。」

「学校?」

 リクは目を瞬かせた。

 ユーコも首を傾げる。

「学校?」

「はい。」

 ランケは静かに頷いた。

「確かにユーコ殿は知識も経験も豊富です。しかし――」

 一度言葉を切る。

「“人として生きるための学び”は別なのです。」

 その言葉に、ユーコが黙った。

 ランケは続ける。

「この世界では、生まれによって位が決まります。」

 貴族。

 平民。

 奴隷。

 古い価値観は、まだ根強い。

「ですが、“徳”は別です。」

「徳?」

「はい。」

 ランケはゆっくり説明する。

「人への接し方。礼儀。思いやり。責任。そういった積み重ねによって、“高位の人物”として扱われることがあります。」

 つまり、人間性そのものが評価される文化があるのだ。

「特に礼には即効性があります。礼を知る者は、初対面でも侮られません。」

「なるほどなぁ……」

 リクは納得した。

 前世でも似たようなものだった。

 結局、人は中身を見る。

 ランケはさらに続ける。

「それに……」

 少し優しい顔になる。

「ユーコ殿には、同じ年頃の友人も必要かと。」

「……」

 ユーコが少し黙る。

 今のユーコは十五歳くらいの少女の姿だ。

 だが。

 中身は数百年生きた神獣。

 どこか周囲と距離がある。

 リクも、それは感じていた。

(……同年代の知り合いか。)

 そこで。

 一人の顔が思い浮かぶ。

「クリスティーナか……」

 以前、町で出会った貴族の少女。

 年齢も近い。

 性格も悪くない。

 何より、学校へ通っている。

「ギルバートさんに相談してみるか。」

 リクがそう呟くと、ランケは頷いた。

「それが良いかと。」

 だが、その時だった。

「学校……」

 ユーコがぽつりと呟く。

「どうした?」

 するとユーコは真顔で言った。

「給食ある?」

「そこ気にするの!?」

 ランケがずっこけた。

 しかし、ユーコにとっては大事な問題らしい。

「友達も大事。でもご飯もっと大事。」

「お前らしいな……」

 リクは苦笑した。

 だが、その笑顔の奥で、少しだけ安心していた。

 ユーコが少しずつ、“人間の少女”として生き始めている気がしたからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ