世界樹の眷属樹
《世界樹の眷属樹》が村に根付き始めてから、数週間後。
村は以前とは別世界のようになっていた。
銀色の葉を揺らす樹々。
澄んだ空気。
そして、
「……なんか実ってない?」
村を見回っていたリクは、眷属樹を見上げて足を止めた。
銀色の枝の間に、丸い果実がぶら下がっている。
大きさはリンゴほど。
だが普通の果実ではない。
透き通っていた。
淡い緑色に発光している。
「綺麗……」
近くにいた子供たちも目を輝かせる。
ユーコが木を見上げた。
「実、できた」
どう見ても神話級の果実である。
リクは鑑定を発動した。
《世界樹の果実》 世界樹の眷属樹から稀に採れる果実。 生命力・魔力回復効果。 身体能力を一時上昇。 長期摂取で寿命・才能に微弱な補正。
「えぇ……」
リクは思わず声を漏らした。
「めちゃくちゃ高級品では?」
「かなり高級」
ユーコが頷く。
一つの果実が自然に落ちた。
近くにいた子供が慌てて拾う。
「食べていい!?」
「待て待て待て!」
リクは慌てて止める。
だが、ユーコが果実をじっと見てから言った。
「大丈夫。毒ない」
「いや、毒以前に性能がおかしい」
すると、後ろから老婆が近づいてきた。
「……懐かしいねぇ」
「え?」
老婆は目を細める。
「昔、聞いたことがあるよ」
世界がまだ一つの国だった頃。
世界樹の近くでは、“神の果実”が採れたという伝承。
「食べた者は病にかからず、力を得るって話さ」
「それ、完全にこれでは?」
村人たちがざわつき始める。
「本物の神樹の果実……」
「村がすごいことになってるぞ……」
すると、ランケが青ざめた顔になる。
「リク殿」
「ん?」
「これ、外に知られたら争奪戦になります」
「だよなぁ……」
国家級案件だった。
そんなことは気にせず、ユーコが果実を半分に割る。
中身は透明なゼリーみたいになっていた。
「食べる?」
「……大丈夫か?」
「神獣チェック済み」
その基準は信用していいのか微妙だったが、
リクは恐る恐る一口かじった。
「……っ!?」
次の瞬間。
甘い香りが口いっぱいに広がる。
果物なのに、後味が爽やかだった。
桃にも似ている。
ぶどうにも近い。
だが、どれとも違う。
「うまっ!?」
「かなり美味しい」
ユーコも珍しく幸せそうな顔をしている。
しかも、食べた瞬間、全身が温かくなった。
疲労が抜けていく。
「これ絶対売れる」
「うん」
すると、近くにいた老人が、恐る恐る果実を食べた。
「あむ……」
数秒後。
「……おお?」
老人が目を見開く。
「腰が痛くない!?」
「えっ!?」
さらに。
「肩も軽いぞ!?」
「立てる!!」
村人たちが騒ぎ始めた。
「すごい!」
「奇跡だ!」
「神の果実だ!」
実際、かなり奇跡だった。
その後、村では《世界樹の果実》を厳重管理することになった。
無闇に売らない。
まずは村人の回復と生活再建を優先。
だが、リクには一つ気になることがあった。
「……これ、実り始めるの早くないか?」
普通、果樹は育つまで何年もかかる。
だが眷属樹は1週間で実をつけた。
ユーコが空を見上げる。
「世界樹、たぶん感謝している」
その時だった。
ふわり、と風が吹く。
眷属樹の葉が揺れた。




