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石化の解除

 エルフの里を出発してから数日後。

 リクたちは、再び遺跡の村へ戻ってきていた。

 静かな村だった。

 崩れた家。

 風化した石畳。

 人の気配のない広場。

 そして――。

 村人たちは今も石像のまま、その場に立ち尽くしている。

「……いよいよだな」

 リクは小瓶を見つめた。

 中には、淡く光る液体。

 世界樹の雫。


 ランケも真剣な顔で頷いていた。

「歴史的瞬間ですな……」

 リクは深呼吸する。

 そして。

 最初の石像へ、雫を垂らした。

 ぽたり。

 雫が石へ触れた瞬間。

 淡い緑光が広がった。

 ピシッ。

「っ!?」

 石に亀裂が走る。

 次々とヒビが広がり。

 やがて。

 ぱきん、と石が砕け散った。

「……う、うぅ?」

 中から現れたのは、一人の青年だった。

 普通に生きている。

 呼吸している。

「おおおっ!!」

 リクは思わず感動する。

「成功だ!」

 しかし。

 次の瞬間。

 青年は周囲を見回し。

「……あれ?」

 と呟いた。

「なんだこれ」

「え?」

「家が壊れてる!?」

 第一声がそれだった。

 リクは一瞬固まる。

「え、いや、あの」

 さらに青年はリクたちを見る。

「知らないやつがいるぞ!?」

「そりゃまあ百年経ってるからな!?」

「百年?」

 青年が真顔になる。

「は?」

 その後。

 村中の石化を次々解除した。

 老人。

 子供。

 皆、無事に戻った。

 だが。

「洗濯物どこいった!?」

「俺の畑が森になってるんだが!?」

「えっ!? 国滅んでる!?」

 大混乱だった。

 リクが想像していた“感動の再会”みたいな雰囲気は一切ない。

 完全にパニックである。

「……なんか思ってたのと違う」

「だいぶ違う」

 ユーコも頷く。

 どうやら石化された住民たちは、“石になっていた間の記憶”が存在しないらしい。

 本人たちの感覚では、今まで普通に生活していたのが、その次の瞬間、知らない人間がいて、村が廃墟になっていたのだ。

 そりゃ混乱する。


「落ち着いてください!」

 ランケが必死に説明している。

「皆さんはメドゥーサに石化され――」

「メドゥーサ!?」

「そんなもん実在したのか!?」

「というか今何年!?」

 情報量が多すぎる。

 その時。

 一人の老婆が、ふらふらと村の中央へ歩いていった。

「……?」

 リクが見る。

 老婆は崩れた噴水を見つめ。

 静かに呟いた。

「……本当に、終わったんだねぇ」

 その声だけは、妙に現実味があった。

 周囲の住民たちも、少しずつ静かになっていく。

 壊れた村。

 風化した建物。

 見知らぬ服装のリクたち。

 もう否定できない。

 自分たちは、長い時を飛び越えてしまったのだ。

「そんな……」

「家族は……?」

「国はどうなった……?」

 今度は別の意味で混乱が始まる。

 泣き出す者もいた。

 当然だ。

 知っている人間は、もう誰も生きていない可能性が高い。

 百年。

 それは、人の歴史が丸ごと変わる時間だ。


 リクは胸が痛くなった。

 助ければ全部うまくいく。

 そんな単純な話じゃなかったのだ。


 だが、その時だった。

 一人の少女が、リクの前へ来た。

 石化から戻ったばかりの子供だった。

「お兄ちゃん」

「え?」

「助けてくれて、ありがとう」

 小さな笑顔だった。

 リクは少し驚く。

「……怖くないのか?」

「怖いよ?」

 少女は素直に答える。

「でも、生きてる」

 その言葉に、リクは少しだけ救われた気がした。

 失ったものは大きい。

 だが、それでも、生き延びた命はある。

 ユーコが静かに言う。

「リク」

「ん?」

「たぶん、これで終わりじゃない」

 リクは村を見渡す。

 百年前から取り残された人々。

 帰る場所を失った村人たち。

 そして、滅んだ国の記憶。

「……だな」

 これは始まりだ。

 止まっていた時間が、今ようやく動き始めたのだから。


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