南極物語
世界樹復活祭は、夜遅くまで続いた。
エルフたちは酒を飲み、歌い、踊り、普段の神秘的な雰囲気からは想像できないほど騒いでいた。
「エルフってもっと静かに暮らす種族じゃなかったのか……」
「長生きだから、お祭り少ない。だから全力」
ユーコが果実酒を片手に答える。
ちなみに彼女はまったく酔っていなかった。
神獣だからだろうか。
一方でランケはというと、
「リク殿ぉ~! 本当にすごいですなぁ~!」
かなり酔っていた。
「お前、酒弱いな……」
「はっはっは! 本日はめでたい日ですから!」
顔を真っ赤にしている。
そんなこんなで宴も終わり。
三人は借りている家へ戻ってきた。
木造の温かな部屋。
窓の外では、世界樹の枝葉が月光を受けて揺れている。
「ふぅ……」
リクは椅子へ腰掛けた。
するとランケが興味津々な顔で尋ねてくる。
「そういえば、リク殿の元いた世界の物語を聞かせてください」
「そうだなぁ。じゃあ、南極物語っていう話をしよう」
リクは懐かしそうに語り始めた。
極寒の地、南極。
観測隊。
そして、置き去りになってしまった樺太犬たち。
「過酷な環境だった。吹雪、氷、飢え……普通なら生き残れない」
ランケもユーコも真剣に聞いている。
「だけど、その中で“タロ”と“ジロ”って二頭だけが生き残ってたんだ」
「……!」
ユーコが目を見開く。
「人間たちが戻ってきた時、二頭はちゃんと生きて待ってた」
静かな空気が流れる。
窓の外で風が鳴った。
「すごい話ですね……」
ランケは感動したように呟く。
「犬達の生命力に非常に感動しました……!」
そして。
なぜか泣いていた。
「なんでそんな泣いてるんだ」
「だってぇ……!」
感受性が強い。
だが。
ユーコは違った。
彼女は静かに俯いていた。
「……ユーコ?」
しばらくして。
彼女はぽつりと呟く。
「タロとジロはすごい」
「え?」
「人間、恨まなかった」
リクは息を呑む。
「人間、許した」
ユーコは静かに続けた。
「私にできるか分からない」
ユーコは少し考え、
「でも、人間は怖かった」
静かな声だった。
「欲深い人間、いっぱい見た」
神獣として長く生きる中で、色々見てきたのだろう。
争い。
裏切り。
欲望。
「だから、ずっと人間嫌いだった」
ランケが困ったように笑う。
「それは……なんというか、申し訳ない気持ちになりますな」
「でも」
ユーコはリクを見る。
「リクいた」
「え?」
「だから少し変わった」
その言葉に。
リクはなんだか照れくさくなった。
「……そっか」
人は、簡単に人を嫌う。
ちょっとしたことで絶交する。
恨み続ける。
それで結局、自分も苦しくなる。
リク自身、前世ではそういう人間関係を何度も見てきた。
だが。
タロとジロは違った。
極限状態でも、生きて、待ち続けた。
そこに恨みはなかった。
ただ、生きていた。
「……犬って、すごいんだな」
するとランケが突然立ち上がる。
「決めました!」
「何を?」
「自分、もっと誠実に生きます!」
「急だな!?」
「恨みを持たず、人を信じる男になります!」
「酔ってるだけじゃないか?」
「違います!」
勢いだけは凄かった。
ユーコが小さく笑う。
その表情を見て。
リクは少し安心した。
彼女は少しずつ変わっている。
孤独だった神獣は、今こうして笑っている。
それがなんだか、嬉しかった。
窓の外では。
世界樹の枝葉が、静かに揺れていた。




