振り返り
その夜。
世界樹の里では静かな風が吹いていた。
枝葉の間から月光が差し込み、木の家々を淡く照らしている。
リクはエルフたちから借りた家の中で、テーブルを囲んでいた。
向かいにはユーコ。
そして、その隣にはランケが座っている。
片足の怪我はユーコの治療でかなり回復していた。
「それで、これからどうするんです?」
ランケが真面目な顔で尋ねる。
リクは少し考え込んだ。
「まずは世界樹の治療かな」
「やはり、あの巨大樹を治しておられるのですね……」
ランケは昼間から薄々察していたらしい。
エルフの里。
神秘的な空気。
普通の場所ではない。
だが、その時。
ぽつりとユーコが言った。
「神様も、リクにもっと役目を与えれば良かったのに」
「……は?」
ランケが固まる。
「ユーコ殿、今なんと?」
「神様」
ユーコは果物を食べながら答えた。
「リク、神様から頼まれてる」
「ちょ、待て待て」
リクは慌てた。
だがもう遅い。
ランケは勢いよく立ち上がる。
「神様!? え!? まさか神託ですか!?」
「落ち着け!」
机が揺れる。
ランケは完全に混乱していた。
無理もない。
普通に生きていて、“神様から直接依頼を受けました”なんて話を聞く機会はない。
「ユーコ殿、詳しくお願いします!」
「本人に聞いて」
「丸投げするな」
リクは頭を掻いた。
だが、確かにランケには説明しておいたほうがいいかもしれない。
「……長くなるぞ?」
「ぜひ!」
ランケは妙に目を輝かせていた。
完全に冒険譚を聞く子供みたいな顔だ。
リクは苦笑しながら語り始めた。
「まず、俺はこの世界の人間じゃない」
「……はい?」
「元々は別世界――地球って場所で生きてた」
ランケが静止する。
だがリクは続けた。
前世のこと。
東京での生活。
国家公務員として働いていたこと。
自分にずっと自信が持てなかったこと。
そして。
死んだ後、神様と出会ったこと。
「そこで頼まれたんだ」
リクは静かに言う。
「北の大地にいる神獣を、人間にしてやってくれって」
ランケの視線が、ゆっくりユーコへ向く。
ユーコはお茶を飲んでいた。
「……え?」
「元々は神獣」
ランケが思わず叫んだ。
「ユーコ殿が神獣!?」
「うん」
あまりにも軽い返事だった。
だがリクは続ける。
北の遺跡。
吹雪。
白銀の神獣との出会い。
進化の実。
そして、美少女になったこと。
「いや、情報量が多い……!」
ランケは頭を抱えていた。
さらに。
世界樹のこと。
神代。
七つの国。
そこまで話した頃には。
ランケは完全に遠い目をしていた。
「……つまり」
しばらくして、彼はゆっくり口を開く。
「リク殿は、神に選ばれた異世界人で」
「まあ、そうなる」
「ユーコ殿は神獣で」
「うん」
「今は世界樹を治している」
「そう」
ランケは数秒沈黙し。
真顔で呟いた。
「情報量が多すぎます」
「だよな」
リクもそう思う。
だが。
ランケは突然、立ち上がった。
「リク殿!」
「お、おう?」
「このランケ、命を救われた恩があります!」
彼は真剣な顔だった。
「どうか、自分にも手伝わせてください!」
「……まあ、まずは怪我を治せ」
「はい!」
ランケは嬉しそうに頭を下げた。
その姿を見ながら。
リクは少しだけ思う。
この世界に来た時は、一人だった。
だが今は違う。
仲間が少しずつ増え始めていた。




