歴史学者
世界樹の治療を始めて、三ヶ月ほど経った頃だった。
リクはユーコと共に、里の外れまで薬草採取に来ていた。
「この草、本当に薬になるのか?」
「なる」
ユーコは慣れた様子で草を摘んでいく。
「苦いけど」
「それを先に言え!」
森の中は静かだった。
木漏れ日。
風の音。
世界樹の近くは魔力が濃いためか、普通の森より自然の気配が強い。
すると。
ユーコがぴたりと足を止めた。
「……血の匂い」
「え?」
「向こう」
彼女は森の奥を見る。
リクも耳を澄ませた。
すると微かに、うめき声が聞こえた。
「誰かいる!?」
二人は急いで茂みをかき分ける。
そして。
「……うわ」
そこには、一人の男が倒れていた。
全身傷だらけ。
片足には深い裂傷。
血がかなり流れていた。
リクは周囲を警戒する。
だが敵の気配はない。
男は薄く目を開けた。
「……み、水……」
リクは慌てて水袋を取り出した。
男は苦しそうに飲む。
しかし顔色は最悪だった。
「これ、かなり危ないんじゃ……」
「うん」
ユーコが静かに頷く。
「放っておくと死ぬ」
「さらっと言うな……!」
だがユーコは既にしゃがみ込み、男の傷を見ていた。
「治せるのか?」
「たぶん」
そう言って。
ユーコは男の傷へ手をかざした。
「《ヒール》」
淡い白光が溢れる。
すると。
裂けていた傷口が、少しずつ塞がっていった。
「おおっ!?」
リクが驚く。
以前も見たが、やはり回復魔法はファンタジー感が凄い。
だが。
ユーコの表情は険しい。
「傷、深い」
「無理なのか?」
「完全は無理。応急処置だけ」
それでも十分すごかった。
男の呼吸が安定していく。
青白かった顔にも少し血色が戻った。
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次の日の朝、ケガ人の男が目を覚ましたというので、事情を聞きに行った。
「この度は、助けて頂き、ありがとうございます。わたしの名前は、ランケです。」
そう言ってから、事の顛末を話始めた。
ランケは、歴史学者であり、どうしても過去のことを詳しく知りたかったらしい。
そこで彼は、今でいうタイムマシーンを作ろうと思い立ち、大きな借金をしたらしい。
結局、タイムマシーンも出来上がらず、借金返済のあてもないため、どこまでも追いかけられ、殺されかかったということだった。
俺はしばらく考えた後、
「確かに過去の謎も興味深いが、今こそが時代の変わり目ということもある。将来、この時代こそが歴史の謎になるかも知れないとは思わないか?」
そう言って、また少し考えて、こう言った。
「もし、お前にその気があるなら借金は返済してやろう。俺のそばでこれから起きる出来事を記録する仕事を与えよう。」
今度はランケが考える番になったが、彼には他に選択肢があるはずもなく、
「その仕事、やらせてください。」
そう言って、深々と頭を下げた。




