クリミア堂
クリミア堂の扉を開けると、カラン、と鈴が鳴った。
店内には薬草の香りが漂っていた。
棚には大量のポーション瓶が並んでいた。
すると奥から、一人の女性が現れた。
「いらっしゃいませ」
柔らかな金髪。
知的な雰囲気の女性だった。
年齢は二十代後半くらいだろうか。
おそらく彼女が店主――フローレンスだ。
フローレンスはリクとユーコを見る。
その視線が、一瞬だけ止まった。
Sレア装備。
疾風ウルフから支給された高級装備を見て、まともな客だと判断したらしい。
対応が丁寧になる。
「本日はどのようなご用件でしょう?」
リクは少し間を置いてから聞いた。
「石化を解除するポーションってありますか?」
彼女は静かに棚の奥から古い本を取り出す。
「存在はします」
「本当ですか!?」
「ですが、残念ながらここにはありません」
「ですよねぇ……」
リクは苦笑する。
そんな簡単なら、とっくに石化の村は復活している。
フローレンスは本を開きながら説明する。
「石化解除薬は“神代級ポーション”に分類されます」
「神代級……」
「現在では製法を知る者もほぼいません」
さらに。
「最も重要なのが材料です。というか、その材料そのものがそうなんです。」
「何ですか?」
フローレンスは静かに言った。
「世界樹の雫です」
「世界樹……?」
聞いた瞬間。
リクの脳裏に、以前見つけた《世界樹の若木》が浮かんだ。《世界樹の若木》の近くには親木があるはずだ。
「世界樹って発見されてないんですか?」
リクが聞くと、フローレンスは苦笑した。
「現在では伝説扱いですね」
「……」
「ただ、神代の文献には確かに記録があります」
世界の生命力を支える神樹。
神々の時代から存在する巨大樹。
そして、その雫にはあらゆる呪いを浄化する力がある。
「当然、現代では入手不可能です」
フローレンスは本を閉じた。
「石化解除薬が“幻の薬”と言われる理由ですね」
リクの胸が高鳴っていた。
もし本当に世界樹が存在するなら、石化の村を救えるかもしれない。
そして翌日。
二人は再び、北の森へ向かうことになった。
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北の森は静かだった。
雨上がりの空気が満ち、木漏れ日が地面へ落ちている。
リクは以前、世界樹の若木を見つけた場所へ来ていた。
「確か、この辺だったよな……」
辺りを見回す。
一見、普通の森だ。
だが。
「……あった」
ユーコが呟く。
次の瞬間。
リクも気づいた。
空間が歪んでいる。
まるで熱気で景色が揺れるみたいに。
「これ……」
以前も感じた違和感。
若木の周囲だけ、世界が少しズレている。
リクはゆっくり近づく。
すると。
空間が水面みたいに波打った。
「うわっ!?」
思わず後退する。
だが。
その奥に、何か巨大な気配を感じた。
「行ける」
ユーコが言う。
リクは深呼吸する。
そして、歪んだ空間へ手を伸ばした。
瞬間。
景色が反転した。
「――っ!?」
森が消える。
代わりに現れたのは、別世界だった。
巨大な草花。
濃すぎる生命力。
空そのものが近い。
そして。
その中心に存在していた。
「……世界樹」
山のような巨大樹。
天を貫く神代の樹。
その姿を見た瞬間、本能で理解した。
あれは世界そのものだ、と。
そして、2人が世界樹に近づこうとすると、
「待て!」
と後ろから声がした。
いつの間にか、2人は数人のエルフに囲まれていた。




