第5話 断罪
床を侵食する赤い水溜まりが、アオのきれいな青髪を濡らす。その光景を、ナツは見ていた。呼吸もままならない状態で……ただ、見下ろしていた。
むせかえるような鉄の臭いが、バックヤードを満たしていく。
いったい、何が起こった?
「バレないうちにやめときゃよかったのに。
これだからガキは」
警官らしき男は肩をすくめ、血濡れになった薬きょうを拾う。「コレクターなんでね」と、警官は薬きょうの良さを一、二言語ったが、ナツの耳には入らなかった。
どうして、こうなったんだっけ。
口論になって、警官の男が来て、それで──
こぽ、と血を吐き出すアオ。
彼女はまだ、生きていた。
死にたくない、口の形がナツに訴えかける。細い腕が、ナツへと伸ばされた。
生きている。
助けなければ。
ナツがその結論に至るより先に、警官が動いた。
警官は横たわるアオに発砲する。一発、二発、間を開けて、三、四発。最後の一発が頭部を撃ち抜いた。
血の上に落ちる腕。
乾いた瞳が、ナツを見つめている。
「っ……!」
腹の奥から胃液が這い上がってくる感覚に、ナツは口を押さえた。その肩を警官がぽんと叩く。
手つきは優しかったが、ナツは声にならない悲鳴をあげる。
たった今、子どもを撃ち殺した男だ。今度は自分を殺すに違いない。
ナツは、本能的に恐怖を覚えていた。
だが、警官はサングラス越しにも分かるくらい、明るい笑みを浮かべていった。
「一旦吐いて来いよ」
「……ぇ」
どろり、と頬に何かが伝う。
ナツは手の甲で拭う。赤黒い、血が付着していた。
◇
ナツがトイレの個室にこもっている間、警官はタバコに火をつけた。
店の中にはナツと、警官しかいない。さきの一件で、ここは事件現場となったのだ。必然だった。
だが、警官の表情は緩い。
手には薬きょう。煙を吐きながら、うっとりとそれを見つめていた。
警官は、自身が発砲して、一度地面に落ちた薬きょうを集めることが趣味だった。惚れ込んだきっかけは、尊敬する警官が「いつかお前も警官になれ」と薬きょうを手渡してくれたときで、十年ほど前の出来事だった。
アオが犯罪行為に及んだ動機に、共感はできない。それでも、目的が『収集』だと考えれば、警官にも理解できる節がある。
「金ってのは、人を狂わせるんだな」
監視カメラでの映像では、アオがナツに金を不当に要求をしていた。「社不王国について教えてやった対価を寄こせ」と、ほとんどカツアゲのような状態。監視カメラのアングルからは、後ろ手にナイフを持っていたことも丸わかりだった。
「あのナツって男は知らなかったんだろうが」
それを説明するのが、この警官の役割だ。さて、どう説明したものか……警官が考えあぐねているうちに、トイレの水が流れる音がした。




