第4話 ナツとアオ
カウンターに『お会計する時は、ベルを鳴らして呼んでね』という札を置いた少女は、青年をバックヤードへと招いた。
バックヤードは、二人でゆったりとくつろげる程度の空間がある。部屋の奥にはロッカーが四つ並んでいて、壁にはカレンダーやホワイトボードなどが貼り付けられていた。
少女は中央にある、一人用のソファに深々と腰かける。
そして、近くに立てかけてあったパイプ椅子を指さして、青年に言った。
「まあ、そこに座ってよ」
「アルバイトの面接でもするつもりですか……?」
二年間、フリーターとして働いていた青年は、つい心の声を漏らしてしまう。
「ここワンオペだから部下はいらなーい」
「部下って。というか、コンビニでワンオペなんですか!?」
「どのお店もそんなもんでしょ。
いや……そんなことより!」
少女が腕を組んで、顎を軽くしゃくる。
「お前のこと聞かせて。名前は?」
「……僕は、高橋 なつです」
「珍しい名前」
「女らしい、とは言われますけど……」
「いやいや! 苗字の方!」
「ええ?」
少女は、いつの間にか身を乗り出していた。
青髪の先が、青年の鼻をかすめる。
「噂には聞いてたけど、社会王国では苗字があるってほんとなんだ」
「逆に、社不王国では苗字がないんですか?」
「ないよ。だから、高橋 なつはナツって呼ばれることになる」
「あなたは?」
「ワタシはアオ」
「アオ……さん」
足をぶらぶらさせるアオとは違って、青年──ナツの身体はかたい。
苗字の件といい、コンビニのことといい、この国は異質なことが多すぎる。
ナツは、静かに息を吐く。呼吸に意識をやって、脳に酸素を行き渡らせる。
そして、目の前のアオを再び見据えた。
いい機会だ。
のらりくらりとしている女とは違って、アオは様々なことを教えてくれる。
この国について知るのに、これ以上の状況はないだろう。
「どうしたの? いきなり黙って」
「アオさん──この国のことを、僕に教えてくれませんか」
ぱち、とまばたきするアオ。
なにか要求されるだろうか……と、一瞬だけ身構えたナツだったが、アオはすぐに満面の笑みを浮かべる。
「いいよ!」
快諾だった。
アオの背後で、監視カメラがぎらりと光る。
このとき、ナツはまだ知らなかった。
一時間後に、あんな惨劇を目の当たりにすることになるだなんて。




