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異世界の悪役令嬢に転生した俺は日本に戻って…  作者: はぴぴ
1章 悪役令嬢の学園生活
7/21

7 悪役令嬢

 その後も何度か料理勝負を挑んだ。でも刃が立たなかった。最初の頃、セルシーちゃんの料理は、若い女の子が彼氏の心をわしづかみにする定番だと思っていたが、どちらかというとお袋の懐かしい味って料理だった。


 高校男子の女子力だけでお袋料理に対抗するのは無理があり内容もマンネリ化してきたから、王都邸のシェフにも料理を習った。でもセルシーちゃんの弁当にはかなわなかった。


 色仕掛けも最初から変わってない。最初からほぼ限界の露出だったから、これ以上脱ぎようがない。夏はいいけど、寒くなってきて水着制服は厳しくなってきた。でも、寒くても露出のためにミニスカートでがんばる女子って、すごくいいだろ!気付よ、王子!


 お茶会も開いた。でも婚約者候補と王子の集いってことで、セルシーちゃんをハブにするわけにはいかず。結局、王子とセルシーちゃんがいちゃいちゃしてるだけで終わった。

 この世界のデートって他にどうすればいいんだ。万策尽きた。


 俺たちは何の進展もないが、セルシーちゃんは王子とどんどん仲良くなっていく。



 そして一年が過ぎた。


 みんな身長が四センチくらい伸びた。バストも一カップアップした。体型もより女っぽくなった。それなのに、二人とも水着姿でよく一年頑張ったな…。冬はローブを羽織ってたけど、ローブに水着ってかなり…良い…。

 俺も制服がちんちくりんで限界だ。これはこれでなかなか良いが。 


「私、制服を元に戻そうと思います」

「私もー」

「よい機会ですわね」


 この学園では学年ごとに制服が支給される。でも、下の学年の制服を着続ける子もいる。俺は最初から限界を超えてたからやらないけど…。でも古い制服も取っておこう。

 新しい制服をもらったからといって、十六歳の発育の俺たちが十一歳用の制服を着たら、入学当初と同じことが起こるだけだ。相変わらず胸元のボタンは三つ開いてるし、スカートからパンツが見えてしまう。でも、今となっては開いてるボタンの数もパンツの見えてる範囲もステータスくらいにしか思ってない。


 寮も十歳用の寮から十一歳用の寮へ引っ越し。十六歳の体格の三人が十歳用のベッドで寝るのは辛かった。でも十一歳用のベッドになったからといって、あんまり変わらないな…。

 俺はいっつも真ん中で寝返りも打てない。辛いのに続けてきたのは、両手に花状態で寝るのが心地よかったからだが。俺自体が花なのに、両手にも花があるというのは贅沢だろうか。

 結局、一年間ずっと俺の部屋ですごしていたから、二人の部屋は綺麗なもんだ。



 この一年の間には、少し困ったことがあった…。生理のことだ…。

 実は、俺は学園に入る直前に初潮が来た。セディールとしても経験のないことだったから、かなり戸惑った。というか、生理って十歳で始まるものなのか?発育が良いからなのか?

 でも学園に入る前でよかったよ。ミスリーに処理の方法を教えてもらったり生理用品を用意してもらえたから。この世界のナプキンは日本でも見たことのあるような形をしているが、中身は魔道機械でできている。水魔法で水分を吸収し、風魔法で消臭し、土魔法で固形化する。一日一回交換すればいい優れもの。これは地球に比べてかなり高度なアイテムだ。でも、一つの値段が、日本の金銭感覚で十万円するのだ。つまり、上位の貴族でなけれおいそれと毎日使うことはできないのだ。でも俺は公爵令嬢。毎月四十万程度の生理用品を使うのにためらいはない。

 にもかかわらず…


「「きゃー!」」

「どうしたの…」


 毎日五時起きなのだが、その日は三時に二人の悲鳴で起こされた。


「セディール様…。わたし、もう死ぬかもしれません…。身体がだるく…」

「セディール様…。おなかを刺されました…。痛いです…。お別れです…」

「二人とも…。それはね…」


 ベッドは真っ赤だ…。二人の初潮が来たのだ。やはり少し早いけど、二人とも発育が良いからな。っていうか、なんで二人同時に来るんだよ。双子か?顔は全然違うよな。

 二人は親はもちろん、メイドからも何も知らされておらず、大量の血と痛みやだるさに、死を覚悟したらしい…。だから、俺が説明した。なんで男の俺が女の二人にこんなことを説明しているんだろう。

 シャワールームに行くまでは大変だった。夜中でも利用することができて助かった…。でも、二人のことを徹底的に洗わされた。二人は痛みやだるさに耐えながらも、なんだか嬉しそうだった。もう自分で洗えるでしょうに、なんで俺が!

 まあ、そんな世話の焼ける二人のことを、嫌いではない。むしろ、可愛い妹くらいに思えてきた。妹か…。


 魔道機械のナプキンはとても薄いし信頼性も抜群。基本的に付けているのを忘れられる。だから、俺はずっとパンチラして過ごすことができた。

 そのナプキンを二人にあげた。だけど、普段は五枚しか持ってきていなくて、二人がもし三日か四日も血が止まらなかったら、足りなくなってしまう。俺はミスリーに緊急連絡して、ナプキンを持ってきてもらった。幸いなことに、二人は二日で血が止まり、持ってきてもらった分を使うことはなかった。

 この世界には電話のような魔道機械がある。百年以上前の黒電話のような形をしているのに、電源コードも電話線もない。電源は魔石だし、通信はそういう魔法があるようだ。

 二人は翌週からナプキンを用意してくるようになった。返さなくていいと俺は言ったのだけど、律儀に返してきた。まあ二十万だもんな。公爵令嬢の二十万なんて二百円でお菓子を買ってあげるくらいの感覚なだけどな。

 この薄さなら、毎月訪れる生理でナプキンをしているときでも、水着制服でパンツを丸出しになれる。というか、この魔道機械のナプキンは、パンツを常時見せたい積極的な女子のために存在するといっても過言ではないだろう。



「私はもう殿下の婚約者になるのを諦めます」

「私もそうします」

「えっ…。一年間頑張ってきたのに…」


「あの女にまっとうな手段で挑むのはもう無理です」

「そうですね」


 最初っからずっと嗜好操作を使ってたけど、あれってまっとうな手段?効いてないから忘れられてた?


「でもセディール様のお側にはずっといさせてください」

「私もセディール様ずっと一緒にいたいです」

「そうね。わたくしもあなたたちとは離れられなくなってしまったわ」


 狭いシャワールームも、狭いベッドも、平日はいつもくっついていた。誰よりも長い時間を同じ部屋で過ごした。


「私のことはこれからコレミナとお呼びください」

「そうですね。いい加減、様なんてよそよそしいわ。私もエリスでお願いします」

「じゃあ、私も」

「いえ、セディール様はセディール様と呼ばせてください」

「そうですね。セディール様は偉大な方ですから」

「何が偉大なのかしら…。まあいいわ…」


 王子に弁当を作るのはもうやめた。一緒に昼食を取るのもだんだん減らしていった。

 嗜好操作もやめた。最初に露出にデレッとするのがなくなっただけで、それ以外は何も変わらなかった。


 俺はともかく、二人は王子と結婚しないのなら、他の婚約者を探した方がいいと思うのだが、俺と一緒にキャピキャピしてるだけだ。まあ、表向きには王子の婚約者候補を脱落するわけにはいかないから、こうするしかないのか。というか俺も脱落しちゃいけないんだよなあ…


 嗜好操作をやめたから、魔力を他のことに割く余裕ができた。

 まずは発話。遠くにいる相手の心に直接言葉を送る魔法だ。授業があまりにも暇なので、コレミナとミスリーに話しかける。声が出ないから、授業中話し放題。

 話すだけでは会話にならない。そこで読心。相手の心の表層を読む魔法だ。発話で送ろうと思った心の声みたいなものに限らず、考えていることも読めてしまう。

 こういう用途には、光魔法に通話というのがあって、まさに電話のような使い方ができるのだが、あいにく俺は闇魔法使いなので、発話と読心を使って、二人と授業中無駄話をすることにした。二人が言うつもりのないことまで分かってしまうけど、二人は俺に対しては正直で、いつもしゃべっていることと考えの表層の不一致はなかった。二人が心から俺を信頼してくれているのは嬉しい。



 そして年月は流れた。毎年、身長が四センチから五センチくらい伸び、胸が一カップ大きくなったりならなかったり。スタイルもどんどん良くなっていく。

 四年が経った。六年生、十五歳だ。身長は一七五センチ。胸はGカップ。ボンキュっボンだ。

 手を前に出してやる作業はいつも胸が引っかかって邪魔になる。足下の視界が胸に遮られて、ちょっとした段差で転びそうになる。

 生活に困るほど大きい胸というのは男どもの視線を釘付けにしている。だが胸が大きいせいで生活に困っている様も、男どもの本能を刺激しているらしい。んー…、分からないでもない。俺も胸が邪魔になって不器用にしかできないことがなぜか嬉しい。胸がでかすぎるせいでドジっ娘なキャラ…。うん。


 コレミナとエリスは一七〇センチでFカップ。二人とも良い身体してる。休日は三人でドレスを持ち寄って、互いを着せ替えして堪能しあってる。二人のドレスは俺には少し小さいが、はち切れそうなのとかはみ出そうなのが良いらしい。うん、同意だ。


 相変わらずシャワールームもベッドも一つを共有している。学年ごとに大きなものが提供されているが、それ以上に胸が成長してしまっているので、窮屈感は年々増している。だが、やっぱりそれが良い。

 仰向けで寝ると胸が重くて苦しいから横に向いて寝たいのだけど、そうすると背中側にいる方が文句を言う。それなのに、二人はときどき俺の方を向いて、胸を俺の身体に載せてくるから、俺は三人分の胸の重さに耐えて寝ているときがある。だがそれがまた良い。


 料理をするのも楽しい。王子ではなくて互いのために作る。二人はミスリーとも話してくれるようになった。


 俺たちはだんだん王子のことを忘れて、三人、ときどきミスリーを含む四人で過ごす日々を楽しむようになっていった。



 王子と話すことは全くなくなった。もうセルシーちゃんが婚約者でいいよ。スマンね、父よ。俺は最初から脱落してたが。フラタゾラム公爵も、フルジアゼパム侯爵にも申し訳ない。コレミナとエリスの心は俺に靡いてしまっている。


 そう思っていたのに、最近不穏な噂が流れている。セディール・タンドスピロン公爵令嬢が、コレミナ・フラタゾラム公爵令嬢とエリス・フルジアゼパム侯爵令嬢と共謀して、セルシー・ジアゼパム男爵令嬢を陥れ、トラゾド・サイカトリー第二王子殿下の婚約者の座を狙っているという噂だ。

 何それ…。同じ教室にいながら二年くらい話してないし顔も合わせてないんだが…。


 さらに噂はエスカレートしてきた。セディール嬢は闇魔法を使って王子の心を、セルシー嬢を嫌いになるように操っている、と…。いや、たしかに嗜好操作は使ったけど、四年前にやめたし、たいした効果なかったし、セルシーちゃんを嫌いになるように仕向けたんじゃなくて、コレミナとエリスを好きになるように仕向けただけだし…。ほとんど間違ってるぞ…。


 噂がそれ以上になることはなかった。ただ、周りの視線が痛い。そこまでして王子の婚約者の座がほしいかとか、卑劣な手段を使ったとか、人の心をもてあそんだとか。

 最近顔を合わせてもいなかった王子も怒りの表情をあらわにしている。

 ただし、決定的な証拠がないためか、それ以上に追求されることはない。今のところは。


 そして、みんなが嫌悪を示す中、一人だけ違う表情をしている人物…、それはセルシーちゃん…。俺の顔を見て、ニヤリとした笑みを浮かべた。セルシーちゃんは被害者じゃないのか。なぜそんな顔をしている?もしかして、この噂の発端はセルシーちゃんか?


 俺の嗜好操作は、いつもセルシーちゃんが現れると効果を失っていた。俺の魔力はそんなやわじゃないはず。試しにミスリーの前に大好物の食べ物と、大嫌いな食べ物を並べて、嫌いなものを好きになるように嗜好操作したら、喜んで嫌いなものを食べてくれた。うむ、セルシーちゃんは嗜好操作の効果を無効にする何かを持ってるに違いない。



 セルシーちゃんには何か秘密がある…。そう思って、セルシーちゃんに読心の魔法を使った。授業中の無駄話に使っていた魔法だ。記憶をたどれるわけではなく、今考えていることが分かるだけだが、それでもこういう用途に使おうと思ったら犯罪まっしぐらの魔法である。


(あの女、何もしかけてこないから手間取ったじゃない。でも、やっとここまで来たわ。ああ、あと三年もかかるのね…。ん?)


 という考えが読み取れて、そのあとは何も読み取れなくなった。

 あの女とは俺のことか…。

 しかけるってのは闇魔法を使った王子の操作ってことか。

 手間取ったってのは、やっぱりここ最近の噂を仕組んだってことか…。

 やっとここまで来たってのは…。今までずっと噂を仕込んできたってことか?んーよくわからない。

 あと三年かかるってのは…。三年後といったら卒業だが、卒業式に何かやらかすのか?


 セルシーちゃんのことで思い出した。セルシーちゃんといえば金髪。ところが金髪というのは他にいないのだ。金髪というのは聖属性魔法使いということだ。そこで図書館で聖属性魔法の教科書をあさって、どんな魔法があるか調べてみた。


 回復、怪我や病気をまるでなかったかのように治す。魔力次第では失った四肢が元通りになったり、死の病も治す。マジか…。

 仲間回復。付近にいる仲間全員に回復。

 力強化、速さ強化、防護強化。その名の通り。

 解呪、持続している魔法の効果を無効にする。


 んー。関係ありそうなのは解呪くらいか。嗜好操作を解呪されたから、王子は露出に興味を失ったのか。まさか読心も感づかれて、解呪されたか?

 でも、噂をばらまくような魔法はないな。そういうのは闇魔法にもないが。


 しかし、セルシーちゃんは聖魔法使いなのに、噂をばらまいて俺たちを陥れようとしてるなんて、邪悪だな…。闇魔法使いの俺の方がよほど清い…、こともないか…。



 もう一つ、思い出した。セルシーちゃんの作る料理は、お袋の料理って感じのものばかりだったが、図書館で平民向けのレシピ本をあさってもそんな料理は全くなかった。醤油っぽい調味料もマヨネーズっぽい調味料もない。日本の料理なんて全くないのだ。

 そうだ、セルシーちゃんは、肉じゃがの材料をジャガイモと言っていた。この世界にはジャガイモのような芋はあっても、ジャガイモという名前ではない。

 ここで思いつくのは、セルシーちゃんが転生者だということだ。俺と同じように前世の知識で料理を作ったのか。前世はお袋さんか…。いったい何歳だったんだか。あんな可愛い顔してるのに詐欺だな。いや、俺の方がよほど詐欺だな。


 セルシーちゃんが転生者だということは、何か知っているんだろうか。やっとここまで来たとか、あと三年とか、これから起こることを知っているってことか?未来予知?

 この世界ってもしかして…、聖魔法使いのセルシーちゃんと闇魔法使いのセディールが王子を巡って恋愛バトルするゲームの世界?ああ、何十年もの大昔、そういうジャンルのゲームがあったというのを思い出した…。セディールは悪役令嬢というやつだったのか!俺は敵役なんだ!


 ということは、王子とセルシーちゃんが結婚するのは決まっているに違いない。出来レースだ。この世界の出来事は、物語の作者である神の力で制御されているんだ。噂も神の力で勝手に発生したんだとすると、抗いようがない。


 まさか…、コレミナとエリスは悪役令嬢セディールの取り巻きで、最初からセディールの都合よく動くようにできているとか…。狭いベッドで俺の隣に寝ている二人。二人とは心から通じ合っていると思っていたのに、それは仕組まれていたことだったんだ。

 二人は元々セディールを恐れていたから従っていたのだと思うけど、俺が態度を変えたとたん、あまり脈絡もなく俺を崇拝するような眼差しになってしまった。おかしいと思ってたんだ…。二人はセディールの言うことを聞くようにできている、物語のキャラだったんだ…。


 もう、何もかもどうでもいい。悪役令嬢として裁かれて死のうか。それとも、今ここで死んでしまおうか。どうせ一度死んだ身だ。


『あなたは転生者ね。この世界で生きていくことに不安を感じているのなら、私たちのところに来ないかしら?』


 声が聞こえた。心の中に直接。これは闇魔法の発話。相手の心に直接声を送る魔法。相手は闇魔法使い。と来れば、俺の心も読まれてるってことか…。なら、心で念じるだけで返事ができるはずだ。


『えっ?どなたかしら?たしかに今死のうと思っていたところよ…』

『あら、それはいけない。それなら、一度お話をしましょう』


 十八歳で死んで、異世界で十歳の美少女に転生した俺は、五年を経て日本に戻れることになった。

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