慧眼と盲
「お前達がいると娘と真っ当に話が出来ない。話が終わるまで檻に入れておこう」
呆れたような顔をして右手を軽く振ると、突如両脇から主色の格子戸のようなものが現れた。遊女を閉じ込めて置くようなもの。それは周りの者共を仕舞い込むと姿を消した。
目の前の此奴が周りの輩以上の力を持っている事は分かった。もしかしたら、あたしも同じように監禁されるかも知れない。でもこの場で尻尾を巻いて逃げたところで捕まるのがオチだろう。だから一挙一動、此奴の動きを観察する。
あたしの目線に合わせるように膝を折ると、ぐっと顔を近付けてきた。黒の双眸。やや重たい瞼。万人の基準ではそこそこ美人の部類に入るのでは無かろうか。彼は暫くあたしの顔を眺めると、納得したように何度か相槌を打った。
「君、特異な目をしてるね」
「.......」
「沈黙は肯定。当たりだな」
静寂の空気で見詰め返すと、彼はまたも小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。その顔面に拳をめり込ませてやろうか? 自分の推理が当たっていたからって、得意になる表情が気に食わない。だから口調もぶっきらぼうなものになる。
「だったら何?」
「力の使い方を教えてあげようと思ってね」
彼の掌が顔に近付いて来る。反射的行動。思い切り手を叩き落とす。会話をしたからと言って、気安く触らないで欲しい。眉間に皺を寄せ、唸り声を上げる。それでもめげる事無く再度顔に触れた。眼鏡の下から親指で涙袋を引っ張るようにして、行動を観察してくる。クソうざい。
「成程。良い慧眼だ」
「あたしはただの盲だ」
「僕らを認知している時点で慧眼なんだよ」
そう切なげに呟いた。薄らと予感がした。この人、擬きなどではなく、本当に神様なのかもしれない。
何度も見た光景です。
赤の格子から無数の手が出て、凛を求めようとするの。
大学時代から書きたかったので、満足です。




