暗躍する者たち47
それをアシュラは肯定と受け取ったようだ。
「おいおいおい、まさか本当にそんな存在がいるってことかよ。
じゃぁ真の黒幕の狙いは、その超常の存在とやらに身体を与えて復活させるってことじゃねーだろな。
いや、そもそも真の黒幕が超常の存在とやらなのか?
そこんとこどうなんだ?」
アシュラに問われ、アイは少しの間悩んだものの、正直に現状を答えた。
「・・・まだ調査中、というのが正直なところです。
現状判明している真の黒幕が、本当に真の黒幕なのか、ただの手足なのか、それともまだ別に何者かが隠れているのか、今はまだわかっていません。」
この答えはアシュラもアイの様子から、嘘は無いと判断したようだ。
「なるほど、この件は相当根深いようだな。
それで、そこまで話してくれたということは、今後はこちらにも情報共有してくれる、という認識で間違いないか?」
アシュラの要望に対して、アイからは思わせぶりな答えを返す。
「それは貴女方次第です。」
これに対してアシュラは、アイが何を望んでいるかを察した。
「つまり対価が必要ってことね。
たぶんそっちに協力しろってところかな?」
「概ねその通りです。」
どうやらアシュラの考えは間違っていなかったようだ。
そこでアシュラは一歩踏み込んだ質問で返した。
「ところで、もし断るって言ったら、こっちを消すとか物騒なことになるんじゃないだろうな?」
「そんなことはしませんよ。
ただその場合貴女方には、事が終わるまでここでおとなしくしていてもらいます。
それだけです。」
今と変わらない状況が維持されると聞いて、アシュラは更に一歩踏み込む。
「そう聞いて、こちらがおとなしくしているとでも?」
あえて物騒な雰囲気に持ち込んだアシュラに対して、アイは冷静に返す。
「では逆に聞きますが、貴女方にその場で記録を確認する以外に何ができますか?」
アイの質問に、アシュラはその場の思い付きで答える。
「いろいろできるでしょ。
例えば、強硬手段を取って外に出る、とか?」
「無理ですね。
そこから出る場合、正規の方法では、外側からさまざまな手順を踏む必要があります。
これは外側に協力者がいることが前提となります。
一方内側からの強硬手段では、多少なら内部を破壊することくらいはできるでしょう。
しかし、それだけでは外に出ることはできません。
そもそもそんなことをすれば、貴女方を守る生命維持装置だけでなく、アカシックレコードシステム自体が停止する可能性があります。
それでは本末転倒ではありませんか?」
「だったらおとなしくしている間、アカシックレコードシステムを使って、そっちの都合が悪いように記録を改ざんしてやるぜ。」
「こちらを脅すのは悪手ですよ。
まぁ最上位権限がこちらにある以上、そちらからはそんなことは一切できませんがね。」
次々と自分の答えが論破されたので、ここでアシュラは観念して見せた。
「つまりこちらは八方塞がりで、そちらに協力するかしないか、この二択しか選択肢が無いわけだ。
ただそちらにとっては、こちらがどちらを選択したとしても、あまり大差はなさそうだ。」
暗にこの協力関係を築くことに意味が見い出せないことをアシュラが口にすると、アイはその考えを否定する。
「そんなことはありません。
こちらとしても貴女方とは協力関係でいた方が、双方でいろいろとメリットが大きいですからね。
しかし断られてしまうと余計な手間がかかってしまい、更には少し心苦しいことになります。」
いまいちアイの真意がわからない答えだったため、アシュラは視点を変えて自分たちの利益について尋ねてみることにした。
「心苦しいねぇ・・・じゃぁ質問を変えるよ。
もしそっちに協力した場合、こっちにはどんなメリットがあるのさ。
具体的に教えてもらえるかい?」
「そうですね、例えば、そちらの要望する物資の提供が可能です。」
このアイの答えに、アシュラが過剰に反応する。
「物資って、まさか食料もか!」
「当然、食料も可能ですよ。
他にも生活必需品だけでなく娯楽品や嗜好品など、希望があればある程度は融通できます。
それも大量に。」
「それは魅力的な提案だ。
ここでできるのは記録を見るだけのため、それなりに時間を持て余すことになるからな。
そういったものがあるのは非常にありがたいことだ。
だがこの狭い空間では、あまり物を置く余裕はないぞ。
今のままでは大量の物資など逆に邪魔になるだけだ。
それについては何か対策があるのか?」
するとアシュラは、根本的な矛盾点はひとまず置いておいて、自分たちがいる場所の問題を前面に出してきた。
こうすることで、後々少しでも自分たちが有利になるように立ち回ろうとしたようだが、アイから予想外の提案を受けることになる。
「ご心配なく。
加えて、そことは別に、快適な居住空間も付けましょう。
まずは個室です。
そこにはベッドと寝具一式も付けます。
また一通りの調理が可能なキッチンも器具付きで完備します。
当然、お風呂とトイレは別々で一式用意します。
他にも共同スペースを用意するつもりですが、これは要望があれば聞きますので遠慮なくどうぞ。
とりあえずこんなところですが、どうでしょう?」
だがこの提案は、さすがに信じられなかったようだ。
「いやいやいや、それは無理でしょ。
そもそもここから出られないってさっき自分で言ってたのに、何処に居住空間なんて用意するつもり?」
先程言わなかった矛盾点をここで出してきたアシュラだったが、アイには通用しなかった。
「そちらに。」
そう言ってアイが自分の左側に視線を向ける。
釣られて三人がアイの視線の先に顔を向けると、そこは本来壁しかないはずの場所に、いつの間にかドアが取り付けられていた。
アシュラは警戒しながらも、好奇心の方が勝ったようだ。
「・・・これって中に入って見てきてもいいのか?」
「ご自由にどうぞ。
あらかじめこちらで見繕っておきました物資も置いてありますので、そちらも確認して構いませんよ。」
「ならば・・・」
アシュラがドアに向かおうとすると、それをツクヨミが静止する。
「待ってください、アシュラ。
ここは私が見てまいります。
貴女はその間に、アイ様との話を進めておいてください。
情報共有だけ後でお願いします。」
これをアシュラも了承する。
「そう、だね・・・わかったよ、ツクヨミ。
そっちは任せるよ。」
「任せてください。
主様、少しだけお傍を離れますことをお許しください。」
二人がそれぞれの役割分担を終えると、ツクヨミは最後に主の女性に許可を求めた。
これを主の女性も了承する。
「許可する。
だが、警戒は怠るな。
それと自分の安全を最優先に行動しろ、いいな?」
「承知いたしました。
必ずや生きて戻ってまいります。
では、行ってまいります。」
「頼むぞ。」
ツクヨミは死地に赴く覚悟で恐る恐るドアを開けると、警戒しながらゆっくりと中へ入って行く。
それを見送ってから、アシュラはアイとの話を再開する。
「とりあえず、返事はツクヨミが戻ってからだぜ。
その間に質問いいか?」
「答えられる範囲でよければ。」
「それで構わない。
まず、あのドアと、その先の空間は、いつ、どうやって作ったのだ?」
「いつかと問われれば、そちらと話している最中にドアは設置しました。
その先の居住空間については、こことは違う場所で事前に用意していたものになります。
物資についても同様です。
今回ドアを設置後、その場所との空間をつなげました。」
「つまり、ドアの先はこの場所の隣ではなく、別の場所に存在しているってこと?」
「そうなります。
あまり深く考えない方がいいですよ。
そういうものだと思ってください。」
アイにこう言われ、アシュラは原理については考えないようにし、次の質問へと移る。
「おっ、おう。
じゃぁ次は物資の追加を依頼した場合について確認するぜ。
その場合、そっちから追加でこっちに要望なんかがあるのか?」
「いいえ、それは必要ありません。
協力関係でいる間は、可能な範囲で追加分を用意します。
まぁこちらの誠意とでも思ってください。」
するとアシュラが疑いの目を向けてくる。
「ずいぶんな太っ腹で高待遇な誠意だ。
だが無償の施しほど高いものは無い。
何が狙いだ?」
このアシュラの考えをアイも肯定し、更なる説明を続ける。
「それについて疑いを持たれるのはもっともなことだと私も思います。
しかしこちらとしては、何も狙っていないというのが本音です。
それでもあえて目的をということでしたら、こちらが貴女方にそうしたいから、それだけです。」
当然この答えでアシュラからの疑いは晴れず、更なる疑いの目を向けてくる。
「でもそれって後々何かあったとき、そっちの正当性を主張しやしくするための賄賂じゃないの?」
「違いますよ。
そんなつもりは一切ありません。
何なら契約書を交わしてそこに、居住空間と物資の提供については全てこちらの誠意で無償とし一切対価を要求しないものとする、と一筆書き加えますよ。
それでどうです?」
アイから最大の譲歩を引き出したと考えたのか、ここでアシュラは最終的な判断を主の女性に求めた。
「ってことだけど、主はそれでいいか?」
「それで構わん。」
迷いのない主の女性の答えに、アシュラはそれ以上は何も聞かず、アイとの話に戻る。
「だそうだ。
ではそのように頼む。
だがそれもツクヨミが無事戻ったらの話だ。」
「わかっていますよ。
まぁ危険は一切ありませんから、安心してください。」
「そう願うよ。」
「ついでに他の懸念事項があった場合も、双方合意の上で契約書に書き加えるということでいいですか?」
「それで頼むぜ。」
「わかりました。
まぁ協力関係とは言いますが、こちらとしてはそちらが私たちの邪魔さえしなければそれで十分です。
特別何かを行ってもらうつもりはありません。」
「それはつまり、こちらが邪魔をしたくなるようなことをそちらが行おうとしているということだな?」
「まぁ何をするかだけを知れば、そちらが邪魔をするのは間違いないでしょう。
でも、理由さえ正しく知ってもらえれば、こちらの正当性を理解してもらえるはずです。」
「いったい何をするつもりなの?って聞きたいところだけど、それはツクヨミが戻ってからにしてもらおうかな。
どうも主と私だけで判断できることでもなさそうだしね。」
「それがいいでしょうね。
ツクヨミさんの方は・・・後数分くらいで戻ってきそうですから、ここで一息ついて少し休憩としましょう。
どうですか?」
「いいぜ。」
「では準備ができたら声をかけてください。
続きはそれからにしましょう。」
「わかった。」
こうして双方の合意で話は一時中断となったのだった。




