暗躍する者たち45
そんな三人の心情などお構いなく、アイは話を続ける。
「さて、一度現在の状況を整理します。
空中都市はこちらで確保しています。
それは必然的に、統制管理者たちもこちら側にいるということです。
もし何か伝言などがあれば、この場で発言してもらえれば間接的に伝えることは可能ですよ。
ただ、あちらからの返答はあまり期待しないでくださいね。
まぁ内容によっては私経由で伝えるかもしれませんが。」
そのアイの話を聞いて、主の女性が質問してくる。
「先に一つだけ確認したいが可能か?」
「内容を聞いてからですね。」
「それで構わない。
現在ユダは統制管理者統括の任を外れているかだけ知りたい。」
アイは少し考えたそぶりを見せてから答えた。
「・・・まぁそれくらいでしたら構いませんよ。
ユダについては統制管理者統括だけでなく、統制管理者としての地位も剥奪されています。
そのため現在統制管理者は九人体制に変わり、その中から統制管理者統括が既に選出されています。」
すると主の女性はアイの答えを聞いて安堵した表情なる。
「そうか・・・過去のしがらみから解放されていることだけでも確認できれば十分だ。
その上で私からは、出来ることなら何者にも縛られず各々自由に生きてほしい、とだけ伝言を頼む。」
これにアイも素直に応じる。
「わかりました。
・・・伝えたところ、早速返事が返ってきていますが、聞きますか?」
「早いな。
聞こう。」
まさかこの場で返事が聞けるとは思っていなかったのか、主の女性はアイの言葉を聞き逃さないようにか、少し前のめりになっていた。
そのことに余計な言葉を挟まず、アイは届いた全員の返事をそのまま伝えた。
「では代読します。
言われるまでもありません。
問題無いわぁん。
大丈夫。
自由にしてるです。
好きに生きてるわ。
ここは休みもあります。
それにホワイトよ。
とても充実した環境だ。
すごく快適ね。
返事は以上です。」
アイの口からそれぞれの返事を聞いて、主の女性は口元を緩めながら安堵した表情を浮かべる。
「確かに返事は受け取った。
感謝する。
どうやら杞憂だったようだな。」
「そのように簡単に信じて、私が返事を捏造しているとは思わないのですか?」
思わせぶりなアイの言葉に、主の女性は迷わず即答する。
「思わないな。
そう判断した理由もある。
先程言っていた、空中都市を兵器としてではなく拠点や移動手段としてしか考えていないこと。
それと兵器を嫌っていることもだ。
私は彼女たち統制管理者も含めてのことだと思ったが、違うか?」
「否定はしません。
しかし先程も言いましたが、こちらには戦力がありますよ。
それはいいんですか?」
アイは統制管理者たちも戦力として含まれている可能性を示唆したが、主の女性はこれを許容した。
「戦力については、現在の世では自他を守るために自衛する手段は必須だ。
であれば、そんな考えを持つ者と共にいるなら先程の返事は納得できる。
だから信じた。
それだけだ。」
「そうですか。
ついでですから、捕捉で懸念事項と思われるものをもう一つ。
ユグドラシルシステムについては、現在大幅に仕様変更して稼働中です。」
主の女性は、このアイの説明の真意を正確に読み取る。
「その仕様変更とは、セフィロト一人に押し付けることは無くなったと解釈していいのだな?」
相手が冷静に正確な理解を示したので、更にアイは詳しい説明を付け加える。
「はい。
まず中枢ユニットが必要な仕様を廃止しました。
そのため通常時は自動稼働し、中枢ユニットのように誰かが常駐する必要が無くなりました。
代わりに新たにできた役割が中枢管理者です。
この中枢管理者には、セフィロトシステムを、改善、操作、停止させる権限が与えられていますが、物理的に長時間の強制拘束をされることはありません。」
「長時間の、ということは、短時間はあるということだな?」
「否定はしません。
しかし強制的なものではありません。
中枢管理者が必要に応じて直接セフィロトシステムに自らを接続して使用する方が効率がいいと判断した場合だけです。
そのため中枢管理者の判断で好きな時に接続を解除できます。
ちなみに私も中枢管理者の一人です。」
「逆に本人が望めば、いくらでも好きなだけ接続したままでいることも可能、ということか。」
この主の女性の言葉に、アイは心底同意して思わず愚痴をこぼす。
「そうなんですよね。
後になってそれが問題点として浮上しました。
そこで他の中枢管理者によって強制的に接続解除できる仕様が後になって付け加えられました。
まったく困ったものです。」
「本人が好きでやっているのであれば放置しておけばいいのではないか?」
「それは駄目です。
放っておいたら朝から晩まで接続しっぱなしで、その上ご飯は食べない、お風呂にも入らないんですよ。
本人は良くても、周りが気にします。
そう思いますよね?」
アイが同意を求めてくると、主の女性は思わず口元に笑みを浮かべながら同意した。
「それは、確かに由々しき事態だな。」
「ですよね。
せめて最低限の規則正しい生活くらいは心がけてほしいものです。」
「なるほどな。
改めて杞憂であることがわかった。」
「何がですか?」
「こっちの話だ。」
誤魔化す主の女性をアイもあえて追及せず、話の続きへと戻った。
「そうですか。
少し話が逸れましたが戻します。
空中都市関連の現状については今話した通りです。
空中都市の再集結。
統制管理者たちの覚醒。
ユグドラシルシステムの再稼働。
これらの状況の変化により、真の黒幕が理想としていた状態が現在崩れています。
これは真の黒幕にとっては想定外であり、計画が失敗する可能性を格段に上げることになります。
しかし我々がこれらの事実を隠していることで、真の黒幕はいまだに計画が自分の掌の上だと高を括っています。」
このアイの説明に、主の女性が疑問を口にする。
「だが真の黒幕が理想とする、計画に組み込まれていた既に実行が完了している他のものはどうするつもりだ?
真の黒幕の計画を破綻させるには、それらも理想の状態から変える必要があるはずだ。
しかしどれもそう簡単な話ではない。
各クーデターの失敗は、今更覆しようがない。
私と彼女はそれぞれの場所から動けないため、現状は無力化されたままだ。
空中都市から退去した住人も今更戻しようがない。
アカシックレコードシステムの稼働を止めるわけにもいかない。
そうなるとクーデターの首謀者たちの身体の拘束も解くわけにはいかない。
これらはどうしようもないはずだ。」
するとアイは順番に答えはじめた。
「では今度はそれらについて説明しましょう。
まず各クーデターの失敗、これは別に覆す必要はありません。
そもそも首謀者たちを拘束して、魂の一部を回収させることが目的でしたから、その途中の過程がどうであろうと意味がありません。」
「確かに、目的ではなく過程ということであれば、覆す意味は無いか。」
「次に貴女と彼女の現在地からの解放ですが、これはこちらの準備が整うまで少し時間をください。
貴女はともかく、彼女については、まだその魂を確保していませんから。」
「当然彼女については理解している。
だが準備をすればここから出ることが本当に可能なのか?
彼女であれば何か準備しているかもしれないが、少なくとも私は、ここからの脱出方法は仕様上無いと認識しているんだがな。」
そう疑問を口にする主の女性に、アイから予想外の答えが返ってくる。
「別に準備をしなくても、貴女たちをここから出すだけならすぐにでも可能ですよ。」
このアイの答えに、主の女性は要望と新たな疑問を口にする。
「それならば、私としては、私が不在でもアカシックレコードシステムが稼働している今の状況で一度ここから出たいところだ。
可能というならすぐにでも頼みたい。
だがそうなると準備というのは何なのだ?」
「まずはこちらの受け入れ準備です。
そもそも今すぐそこから出て、貴女たちにどこか行く当てや生活できる基盤はあるんですか?」
アイに冷めた目でそう問われ、主の女性はツクヨミとアシュラに視線で助けを求める。
だが二人には外の世界にそのような伝手があるはずも無く、ツクヨミは申し訳なさそうに頭を下げて謝罪し、アシュラは視線を逸らせた。
そのため主の女性は、言いづらそうにしながらもこう答えるしかなかった。
「それは・・・たぶん、おそらく、いや確実に、無い、だろうな。」
それを聞いたアイは、当然と言った表情で正論でまくし立ててくる。、
「ですよね。
となると今のところ貴女たちには、私たち以外に頼る先は無いということです。
それに普通にそこから出たら、確実に記録が残ります。
そうなると真の黒幕やユダ、その他諸々たちに見つかる可能性が非常に高く、追われて逃亡生活になるのは確実でしょうね。
これについてはどう思いますか?」
アイの指摘に、主の女性の答えは一つしかなかった。
「・・・その通りだ。」
更にアイは、追加の正論で止めを刺しに来た。
「ですよね。
準備は生活場所の用意や記録を偽装するための事前準備も含みます。
他にもその間に、私たちとの関係構築や現在の世の中を把握するための期間も無いと困るのは、いったいどちらですかね。
などなど、こういった諸々がありますからお互いに準備が必要だと思うのですが、どうでしょうか?」
主の女性は何も反論できず、こう答えるしかなかった。
「・・・必要、です。
その際、には、お世話に、なります。」
主の女性を論破して機嫌が良くなったアイだったが、それで自分の役割を忘れることは無かった。
最後に彼女についての補足説明を付け加えた。
「わかればよろしい。
ただ知っての通り、彼女については貴女とは状況が違いますから、更に準備に時間が必要になることは先程伝えた通りです。
そのため彼女の解放は貴女たちの後になることだけは事前に理解しておいてください。」
「わかった。」
主の女性が素直に聞き入れたので、アイはこの話を終わりにして別の話へと移る。
「では続きに戻りましょう。
今度は、空中都市から退去した住人を戻す、ですが、これは今更不可能です。
しかし見方を変えれば別の方法で実現可能です。
何故なら現在私たちが新たな住人として住んでいるからです。
そしてこれは真の黒幕にとっては想定外でもあります。」
「なるほど、確かに。」
主の女性が感心していると、ここで唐突にアイから質問してきた。
「そもそも何で真の黒幕は空中都市から住人を退去させたと思いますか?」
これに主の女性はすぐに自分の考えを答えた。
「自身が使用する際に住人が残っていては邪魔なのと、空中都市を現状維持したいと考えたからではないのか?
真の黒幕はいずれ自身が使用するために、空中都市をそのまま保管したかったはずだからな。」
だが満足する答えではなかったようで、アイはヒントを口にする。
「それもありますね。
ユグドラシルシステムが停止し、統制管理者たちが休眠している状態では、空中都市の機能は麻痺し、生活するのは難しい状態です。
そうなると・・・」
さすがにここまで言えば主の女性でもアイが何を言いたいのか理解し、続きを引き継いだ。
「いずれはただ死を迎えるだけか・・・つまり後始末の手間を考えた結果ということだな。
奇しくも住人たちにとっては、命拾いになったわけだ。」
「それは・・・」
だがアイが更なる説明しようとするよりも先に、それまで黙って聞いていたアシュラが疑問を口にする。
「でもさぁ、元々空中都市に住んでいた住人たちって、退去後にどうなったの?」
これにはアイではなく、主の女性が質問で返してきた。
「ん?住人たちは全員地上に移り住んだのではないのか?」
すぐにアシュラは自分の疑問を後回しにして、主の女性の質問に対応する。
「記録には、どう見ても住人の一割程度しか痕跡が残ってないぜ。」
「それはあきらかにおかしいな。
残りの九割はどこに行ったんだ?」
「何処にも該当する記録が残っていないため不明だ。
おそらく退去してからアカシックレコードシステムが起動するまでの間に何かがあったと推測される。
そうなのではないか?」
そう言いながらアシュラは、何があったか知っているであろうアイに視線を向ける。
少し遅れて主の女性もアイの顔を見て、視線で説明を求めてきたのだった。




