暗躍する者たち44
しかし誰も納得できる答えを思いつかず、それぞれがアイに質問してきた。
まずは主の女性が口を開いた。
「・・・確認したい。」
「どうぞ。」
「先程の説明で出た、ユダに魂を完全な状態で回収させたくない、というものとは別に目的があるということか?」
「そうです。
それも目的の一つではありますが、優先順位は低いものでした。
ですからどちらかと言えば、それはあらかじめ組み込まれていた計画の一部というのが正しいでしょう。
真の黒幕には、最優先で果たすべき目的が別にありましたから。
それさえ果たせれば、後はどのような結果になっても構わなかったというわけです。」
「ではユダの目的が果たされないように邪魔をすること自体が目的ではなく計画の一部ということだな?」
「そうです。
真の黒幕にとってユダの目的が果たされてしまうことは、自分の目的の障害になります。
だからこそ計画には、ユダが失敗するように仕組まれていました。
これはアルベルとカルイン、そしてセルトのクーデターも同様です。
そのため今の状態は、過程はどうあれ、真の黒幕にとっては理想に近い状態なのです。」
「今の状態が理想に近いだと?
どういうことだ・・・」
アイの答えを聞いて主の女性が考え込んでいると、今度はツクヨミが質問してきた。
「アイ様、ご質問させていただいてもよろしいでございますか?」
「どうぞ、ツクヨミさん。」
「ありがとうございます。
今仰られました理想の状態についてご確認させていただきます。
各クーデターの失敗。
その首謀者たちの身体の拘束。
主様と創造主の無力化。
アカシックレコードシステムの稼働。
これらの結果が理想の状態ということでございますか?」
このツクヨミが挙げた内容に、アイが更に付け加える。
「空中都市からの住人の退去。
ユグドラシルシステムの停止。
統制管理者たちの休眠。
空中都市の分裂と回遊。
これらも含めてですね。」
それを聞いたツクヨミが、ある結論に至った。
「つまり真の黒幕は、空中都市を中心とした文明を終わらせたかったということでございますか?」
しかしこの結論をアイが否定する。
「それは違います。
そのつもりなら、最初から全て破壊して滅ぼすはずです。
そうしなかったのは、後で必要になったときに自分で利用するためだと考えられます。」
「なるほど、誰も利用できないように、空中都市を隠したというわけでございますね。」
「ただ知っての通り、空中都市の一部は、ある組織によって利用されていました。
しかし本来の機能に気付かず主に拠点としてでしたが、それでも一部の設備は利用されてしましました。」
「確かに、そのような記録がございます。
ですが、これも真の黒幕にとっては、想定の範囲内、ということでございますね?」
「そうです。
しかし個人的な意見としては、迷惑以外の何ものでもないですが。
まぁそれは置いておいて、統制管理者を目覚めさせて認められない限り、空中都市はただの勝手に移動する浮遊大陸でしかありませんからね。
真の黒幕は、その条件を満たす者が現れることは無いと考えていました。
自分以外は。」
「なるほど、確かにその条件を満たすことは非常に難しいことでございます。
おそらくまず不可能でございます。
しかし統制管理者の休眠解除には、特定条件下における例外がいくつかございます。
真の黒幕は、それらを知らなかったのでございますか?」
「いいえ、真の黒幕も例外については知っていましたよ。
でもその例外は全て、すぐに条件を満たせるようなものではありません。
現に例外は起こっていませんから。」
「確かに記録では、空中都市はいまだに自動周遊を続けております。
同時にこれは、いまだに統制管理者たちが休眠していることを意味していることになるのでございます。」
記録から現状を確認したツクヨミがそう説明すると、アイは隠されている事実を突然暴露する。
「あー・・・ここだけの話なんですけど、その記録は嘘です。」
アイのこの発言に、ツクヨミは何を言われたのかすぐには理解できず、思わず聞き返す。
「・・・はい?」
そんなツクヨミに構わずアイは話を続ける。
「実は既に統制管理者は全員目覚めています。」
ようやくツクヨミが、アイが何を言っているのか理解しはじめ、意味がわからないといった表情になる。
「はぁ?」
まだアイの話は終わっていない。
「それと分裂した空中都市は再集結して合流済みです。」
ここまでくると、さすがにツクヨミも事の重大さに気付いたようだ。
「それはまさか・・・」
だがアイの話は、そんなツクヨミの予想の遥か上を行っていた。
「更に真の黒幕が利用できないように、いろいろと改造してます。」
ここでツクヨミは深く考えるのを止めた。
「えーっとぉ・・・つまり空中都市関係については、アイ様にお任せすれば問題無いということでございますか?」
この発言はある意味問題があるのだが、最早ツクヨミの手に負える範疇を大きく超えているため、これしか言葉が出てこなかったというのが本音だろう。
そしてアイは、ツクヨミの言葉を迷いなく肯定した。
「そう考えてもらっていいですよ。
そちらへ迷惑はかけません。
全てこちらに任せてください。
悪いようにはしませんから。」
だがそこへ、その状況を黙っていられなかった主の女性が割り込んでくる。
「待て。
お前たちは既に空中都市を元の状態に戻し、その全てを所持しているということか?」
「そうなりますかね。」
普通に考えれば、記録のどこにもそのような記述は無いのだから、アイの言葉は嘘だと否定しただろう。
だが少なくとも自分よりも上の権限を有している存在が目の前にいることは嘘ではない。
であれば、その言葉を嘘だと否定することは簡単にはできない。
主の女性は慎重に探りを入れてきた。
「それは証明できるのか?」
しかし主の女性は自身のこの言葉を後で後悔することになる。
「証明ですか・・・例えば、貴女が住んでいたのは、空中都市エデンの園、その中央部のオノゴロでしたよね?」
「都市や地区の名称だけでは証明にはならんな。
そんなものは記録で確認可能だ。」
そう言ってアイの言葉を認めない主の女性だったが、そんなものは序章に過ぎなかった。
ここからアイは、楽しそうにしながら主の女性の様子を観察するように説明をしていた。
「慌てないでください。
本題はここからですよ。
実は地下にある集配場に宛名不明の荷物が未開封で残っているのを見つけたんですよ。
それも他の荷物とは別に隠された状態で。」
「・・・え?」
あきらかに様子が変わった主の女性だったが、構わずアイは説明を続ける。
「とりあえず荷物の中身については一度置いておきます。
それと最上階の居住区に、隠し部屋がいくつかあったんですよ。
違和感のない部屋の設計でわかりづらく、やたらと頑丈で開けづらかったですが、そこにちょっと変わった物を見つけました。」
「まっ、まさか・・・」
主の女性の顔から血の気が一気に引く。
それでもアイが説明を止めない。
「いやぁ、とても良い趣味満載の物が、所狭しと奇麗に並べられていました。
あれらの部屋は、一部の女性たちには大好評でしたよ。
で、話は戻りますが、最初に出てきた荷物の中身なんですが・・・」
今度は徐々に主の女性の顔が赤くなっていき、とうとう先に折れた。
「わかった!
信じる!
お前たちは空中都市を所持している!
これでその話はお終いだ!」
尋常ではない様子の主の女性であったが、アイはそのことには触れずに、ここでこの話を終わりにした。
「そうですか?
ここからが重要な所だったのですが、まぁ信じてもらえたならいいでしょう。」
アイがおとなしく引いたので、主の女性は内心安堵すると、一度心を落ちつけてから話題を変える。
「そっ、そうか・・・はっ、話は変わるが、お前たちは空中都市をどうするつもりだ。
空中都市は使い方によっては戦略兵器にもなりうる。
まさか、周辺惑星を含めて征服するつもりではないだろうな?」
直前まで焦っていた所為か、内心では気が気ではない話題に変えてしまったことを、主の女性は少し後悔していた。
しかし聞かないわけにはいかない内容でもあったため、それを表には出さずに警戒している素振りだけを表に出して主の女性がアイに問う。
すると予想していたものとは違い、アイは心底嫌そうな顔で即答した。
「えーっ、そんな面倒くさいことしませんよ。
まぁ便利だから拠点や移動手段としては使いますけどね。」
すぐにはアイの言葉を信じられない主の女性は、慎重に確認を進めていく。
「つまり空中都市を私的なことにのみ使用すると?」
「そうなりますね。」
「だが兵器利用しない保証はどう証明するつもりだ?」
主の女性がこの問いを口にした瞬間、アイが冷たい視線を向けながら口元を僅かに緩めた。
「勘違いしているようですから、ここで訂正しておきますよ。」
その場にいないはずのアイがそう口にしただけで、三人に見えない何かが重くのしかかってきた。
「くっ!?」
「なっ!?」
「何っ!?」
突然のことで焦っている三人に、アイが構わず言葉を続ける。
「貴女が、空中都市を兵器として利用する懸念を持つのは勝手です。
そう考えてしまうことも理解はできます。
でもこちらからしてみれば、空中都市を兵器として使用する意味なんか全く無いんですよ。
何でかわかりますか?」
微笑みながらアイに問われた主の女性は、頭ではあり得ないことと考えながらも、今の自分たちの状況からこう答えるしか選択肢は無かった。
「・・・つまり、空中都市を兵器として使用せずとも、それ以上の兵器を有している、そういうことだな?」
この主の女性の答えに、アイは少し不機嫌になる。
だがそれは長くは続かなかった。
「・・・まぁいいでしょう。
言葉の選別は赤点ですが、内容は概ね合っていますから、回答としては及第点としましょう。」
そうアイが言い終えると、ようやく見えない重圧が何事も無かったかのように消え去る。
「・・・そう言ってもらえると助かる。
よければ何故言葉の選別が赤点なのか教えてもらってもいいか?」
自分の答えが最悪を免れたことに安堵した主の女性は気が緩んだのか、好奇心でどうしても理由が知りたくなり、アイに尋ねてくる。
アイもそこまで気にした様子は無く、主の女性の問いに答えた。
「いいですよ。
基本的にこちらは兵器を使用しません。
使用するのはあくまでも戦力です。
そこのところをお間違え無く。」
「つまり、それ以上の戦力を有している、が正解だということだな?」
そう言いながら主の女性は、そう変わらないだろう、と内心で思っていたが、わざわざ口に出すような愚行を犯すことは無かった。
アイも主の女性の内心に気付いていながら、気付かなかった体で話を続ける。
「そういうことです。
それでしたらギリギリ言葉の選別も及第点としていました。
今後はそれを踏まえた上で、発する言葉には注意してください。
理由についてはご想像にお任せします。」
暗にわざわざ理由を言わせるなというアイの態度を察して、主の女性もそれ以上は踏み込まなかった。
「わかった。
こちらとしてもそれだけ確認できれば十分だ。
今後は注意しよう。」
「お願いしますよ。」
こうしてその場は何とか事なきを得ることができ、三人は表には出さなかったものの、内心では盛大に安堵していたのだった。




