暗躍する者たち42
アイは特に否定せずに話を続ける。
「さて、話を戻しましょう。
ここまでの話の中で、怪しい人物が何人か浮上しました。
まず、賢知神アルベル。
次に、武法神カルイン。
更に、調停神セルト。
最後、黒幕。
この黒幕ですが、いつまでも黒幕のままでは話が進まないので、ここで種明かししておきましょう。
まぁ既にこの場にいる全員が気付いているようですがね。」
「当てはまる者は一人しかいないだろう。」
「最早あの者一択で決まりでございます。」
「むしろ違っていたら逆に驚きだぜ。」
確信を持ってそう答えた三人に、とうとうアイが黒幕の正体を明かす。
「ですよね。
そうです、元統制管理者統括、ユダです。」
このアイの答えを聞いても、誰にも驚きは無かった。
「それしかないだろう。」
「当然でございます。」
「だろうな。」
「ですよねぇ。
ではここからは、黒幕=ユダ、として話を進めます。
ご存じの通り、現在ユダの身体は第三補助機能のユニット内に入っています。
さてここで質問です。
このユダ、黒幕としてどう思いますか?」
唐突なアイの質問に、まずは主の女性が率直に答える。
「納得はできるが、違和感がありすぎる。」
続いてツクヨミが簡潔に答える。
「器ではないかと。」
最後にアシュラが確信をもって答えた。
「表向きでしょ。」
アイは更に意見を求める。
「それぞれそのように考えた理由を聞いても?」
まず主の女性は、自身の記憶を元に意見を口にする。
「野心はあった。
それも一切隠すことが無いあからさまなもので、誰もが知るところだった。
しかし能力的には低く、性格的には醜悪で、上に立ちリーダーシップを発揮できるような者ではなかった。
特筆すべきは一点だけ、特定の上司に対する立ち回りだけは上手かった。
そのため特定の上司の懐には自然に入り込んで気に入られ、逆に部下への態度は最悪で嫌われていた。
所謂使えない中間管理職の典型だ。
それを本人は全く自覚しておらず、自分が最も優秀だと勘違いして他の者たちを見下していたようだがな。
だがそれでも、結果として統制管理者統括にまで上り詰めたことは事実だ。
本人以外の思惑が絡んでいたとしてもな。
ただそれが誰の思惑によるものなのかまでは、当時わからなかった。」
続いてツクヨミは、客観的な意見を口にする。
「直接の面識はございませんので、情報を精査した上での意見を述べさせていただきます。
そこから読み取れます人物像は、欲深い愚者、というのが最も的確な表現かと。
しかしそのような者が主様や創造主を相手にし、現在の状況を作り出せたなどあり得ないことでございます。
間違いなく別の者が計画を立て、その準備や手引きを行ったはずでございます。」
最後にアシュラは、自分の考えを口にした。
「勘違いした小物としか考えられないぜ。
絶対に裏で操ってる奴がいるだろ。
まぁ最終的な結果は、主と創造主に邪魔されて計画通りにはいかなかったけどな。
で、今は修正するためにいろいろ画策して足掻いてるんだろうぜ。」
三者三様の意見を聞き、アイが答え合わせをはじめる。
「なるほどなるほど。
それぞれの考えとして、ユダの背後には真の黒幕がいる、という部分は意見が一致しているみたいですね。
これについては客観的に見るまでもなく事実です。
ユダは体のいい操り人形のようなもので、その欲や野望を利用している真の黒幕が別にいます。」
アイの答えに三人は納得する。
「それしかないだろう。」
「当然でございます。」
「だろうな。」
だが次のアイの言葉で少し場の空気が変わる。
「ただ皆さん、それぞれ微妙に勘違いしているしている部分もありますよ。」
この時点では、まだ耳を傾ける余裕があったようで、三人とも冷静さを保っていた。
「どこがだ?」
「是非ご教授を。」
「詳しく教えて。」
そしてアイは要望通り、三人の考えをそれぞれ訂正する。
「まず貴女、ユダが上司に媚びを売るしか能が無く、それ以外は最低だったことについては私も同意します。
しかし本人はそれら全てを自覚した上で、あの性格と立ち回りだったようですよ。」
「何?」
「次にツクヨミさん、ユダはあくまでも実行犯であって、計画や必要なものは全て別の者が準備していました。
そこは事実です。
しかし今の状況を作り出したのは、ユダの独断によるものであることもまた事実です。」
「はい?」
「そしてアシュラさん、確かに二人に邪魔されたことによって、ユダが望んだ最高の結果にはなりませんでした。
ただ最悪の結果ではないため、計画を完遂するために修正に奔走して、立て直しを図っていることも間違っていません。
しかし真の黒幕にとって今の状況は、多少の誤差があった程度の許容範囲内で、計画の内なのですよ。」
「はぁ?」
アイから告げられた内容に一瞬耳を疑って固まったものの、三人はすぐにアイを問い詰めてきた。
「それはどういうことだ!」
「それはどういうことでございますか!」
「それはどういうことなんだ!」
しかしアイは慌てることなく冷静に説明を続ける。
「では今からその辺りのことを順番に説明します。
まずはユダについてです。
ユダは表向き、無能で性格が悪く上司に媚びへつらい部下を道具として扱う最低の人物、です。
しかしその評価は、本人がそう振る舞っていたからです。
本来の姿は、馬鹿で性格が悪くプライドだけが異常なまでに高い最低の人物、なのです。」
アイの説明を聞いた主の女性は、その意味を考えたが、すぐに疑問を口にした。
「・・・言葉の違いだけで、あまり意味は変わらないように思えるが?」
アイもこの疑問については肯定したが、ここに情報を追加してきた。
「そうですね。
これだけでは本質という意味ではあまり違いは無いと思います。
しかしここに、一つだけ特異な能力を持つ、と最初に加わえると、意味が大きく変わってきます。」
「一つだけ特異な能力を持つだと?」
「そうです。
ユダは誰にも明かしていない能力を持っています。
それが、完全記憶、です。
この能力により、ユダは上司に上手く取り入ることが出ています。
例えば、あらかじめ見聞きしていた上司のさまざまな情報を記憶から引き出すことで、相手に合わせた会話ができます。
それにより相手の心理を上手くつき、急激に距離を縮めて気に入られるように仕向けるのです。
ちなみに情報を集めるため、長期間相手を秘密裏に付け回していたようですが。」
「問題行動については、今は関係無いから後回しだ。
問題は能力の方だ。
完全記憶とは、一度見聞きした内容を永久に覚えておける、ということで間違い無いか?」
「その認識は正解でもあり間違ってもいます。
完全記憶という部分だけであれば、貴女が考えている通りの性能です。
精度は一級品で、記憶するのも無意識化で一瞬です。
しかも記憶から必要な情報を引き出すことが瞬時にできます。」
「完全記憶能力としては最上位の性能だな。」
「しかしユダの完全記憶には、いくつか欠陥があります。
その一つが、容量に上限があること、です。
上限さえ超えなければ、いつまでも劣化することなく、鮮明に覚えていられます。
ですが上限を超えると、古い記憶から強制的に消えていきます。
これには生まれてから見聞きした全ての記憶が含まれます。」
「確かに欠陥ではある。
だが、それであれば優先度の高い記憶を定期的に思い出して優先順位の更新を行えばいいはずだ。
他にもデータ化などにより、外部情報として残すことも可能だろう
このように方法はいくつもある。
それでほぼ欠陥は補えるはずだ。
高性能の完全記憶は、その程度の欠陥であれば、補って余りある有用な能力なのだからな。」
ここで更にアイは、ユダの能力に関する情報を追加で開示する。
「貴女の言う通り、前者の方法でユダも重要度の高い記憶を保持し続けています。
しかしもう一つの欠陥が、ユダにとっては致命的でした。
それが、上限を超えた古い記憶が完全には消えず再度覚えることができない、というものです。
この欠陥により、ユダは後者の方法が使用できません。」
「それはどいうことだ?
もう少し詳しく頼む。」
「例えば、他者の容姿や体型、名前や立場など、さまざまな情報を一度覚えたとします。
その後、上限を超えたため強制的にその人物の記憶が消えます。
しかしランダムに一部の情報だけが残ります。
特に残りやすいのが立場や価値です。
簡単に言えば、ユダにとって相手が自分よりも立場が上なのか下なのか、もしくは、価値が有るのか無いのか、などです。
これはユダの異常なプライドの高さが関係していると思われます。
ですがその後、その人物の情報を再度見聞きしたとしても、ユダの記憶には一切変化が起こりません。
一度消えた記憶は一部の情報が残った状態で固定され、追加しようとした情報は全て保持できず、瞬時に消えてしまいます。
ただその場で見聞きした情報であれば、情報を読み上げたり書き写したりすることは可能です。」
「つまりユダにとっては、蓄積としての外部情報がほぼ役に立たない、ということか。」
「その通りです。
利用はできても、本当の意味では価値が無いようなものですからね。
常に膨大な量の情報を持ち歩き、そこから必要な情報を瞬時に引き出すことはできませんから。
そもそも何についての情報を引き出せばいいのかさえわからないでしょう。」
「確かにそれは重大な欠陥だな。」
「ですからユダにとって優先度がの高いのは、自分よりも立場が上の者たちの記憶、なのです。
逆に自分と同等以下の立場の者たちの記憶は、むしろ一部を除いて積極的に破棄しています。」
「そういうことか。
だが今の話、何か根拠はあるのか?
あまり接点は無かったが、私自身はユダにそのような違和感を感じたことは無かったぞ。」
主の女性に逆に問われたが、アイは臆することなく即答する。
「もちろん根拠はありますよ。
例えば、ユダは上司の名前は口にしますが、同僚や部下の名前はまず口にしません。
というより、できません。
代わりに、おいっ、お前、などと呼んで誤魔化していましたから。
もし自分以下の立場の者の名前を呼んでいた場合は、ユダにとって使い勝手や都合がいい者だけです。
貴女も直接見たことは無くても、周囲から話くらいは聞いたことがあるのではありませんか?」
このアイの答えに、主の女性は自身が知るユダについて思い出してみる。
「・・・確かにな。
ユダは私たちの名前は口にしていた。
しかしそれ以外の者たちの名前を口にしているところは見たことも聞いたことも無い。
少なくとも私は、だがな。
だが私のかつての部下たちがユダについて、まるで自分の部下を物のように扱っている、という話は何度も聞いたことがある。
自分が直接見聞きしたわけではなかったので聞き流していたが、これだけ情報が揃えば根拠たり得るだろう。」
そう言って主の女性は、アイの説明にようやく納得したのだった。




