暗躍する者たち41
一方ツクヨミも、アイに試されていることを理解した上で、自分が知る内容を答える。
「記録されているものでございましたら確認しております。
セルトには、表向きの人物像を崇拝する信奉者が大勢おりました。」
「当時序列5位で、清廉潔白な聖人君子であれば、そういった輩がいることは必然でしょう。」
「しかし信奉者間の不文律としまして、セルトの邪魔や迷惑にならないようにする、という絶対の掟がございます。
そのため直接的な関わりを極力無くして遠くから見守ることが、信奉者たちの基本的な姿勢でございました。」
「よくいる一般的な信奉者の基本姿勢ですね。」
「そのような中、信奉者たちの間で聖遺物とやらが流行りだしたのでございます。」
「確か前提条件は、本人が触れた物、でしたか。
そういった物を聖遺物と称して所持することが、信奉者たちの間で格の証明や羨望の対象になるとか。
ただ無許可で勝手にというのは、どうかと思いますがね。」
「同感でございます。
ですが、その程度でしたら暗黙の了解としまして、少なくとも信奉者間では目を瞑られておりました。」
「本人も知っていながら放置していたようですからね。
まぁそれも、都合が良かったから、みたいですが。」
「そのようでございます。
自身の求心力を高めるため、あえて見て見ぬふりをしていたようでございます。
しかし問題は別にございました。
その聖遺物に優劣をつける者が現れたのでございます。」
「欲を刺激し、また逆に刺激される者が現れたわけですね。
しかし行き過ぎると信奉するセルトに迷惑がかかるとわかっていたため、ほとんどの信奉者たちは自身の欲を自制していたようです。
そのため聖遺物は他者に公開することを禁止することが信奉者たちの間で取り決められ、破れば厳罰として破門のような扱いになりました。
こうして落ち着きを取り戻しましたが、それは表向きでしたね。」
「はい。
制限されますと我慢できなくなる者は、何処にでも一定数おります。
そのような者たちの間では隠れて、セルトのお宝自慢、というものが密かに行われておりました。」
「それも、ただ見せ合うだけで終わっていればよかったのですけどね。
聖遺物は触れた物だけに止まらず、徐々に使用した物や身に付けていた物にも広がっていきました。
それが髪や爪になる頃には一気にエスカレートし、本人の一部であれば何でも求めるようになってしまします。
そして汚物に至った頃には、ただの窃盗集団と化していました。」
「行き過ぎた信奉が辿り着く先は犯罪だとわかっていながらも、その曇った目では最早正常な判断はできなくなっておりました。
その結果、当局によって逮捕され、お宝とやらは全て盗難物として押収されることになったのでございます。」
「まぁよくある狂信者の暴走と幕引きですね。」
「しかしそれは、そこで話が終わっておりましたら、でございます。
問題は押収品でございました。
その中にありました無数の細かく千切られてた状態の一見何の変哲もないメモが、状況を一変させたのでございます。
気付いたのは創造主でございました。
被害者がセルトということもございまして、こちらの事件は創造主が捜査を直接指揮されました。
その際、本人へ確認する前に創造主自ら実況見分を行った結果、不審な内容の発見に至ったと記録されてございます。」
「未解決事件の犯人、もしくはその協力者しか知り得ない内容、それらが書かれたメモが見つかったから、ですね。」
「はい。
そこで全ての押収物が再度確認されることになったのでございます。
そして破損した押収物からメモの復元が行われたのでございます。
その結果、複数の犯行に関係していると判断されたメモは、セルト本人の筆跡によるものと判定されたのでございます。」
「だけど犯行を行った物的証拠や、共犯者につながる証拠は一切出てこなかった。
そこでまずはセルトへ常に監視を付けて証拠を集めようとしてましたね。」
「ですが監視開始当初は、証拠どころか不審な動きさえ一切ございませんでした。
おそらく自身の信奉者たちが一部とはいえ逮捕されたことで、ほとぼりが冷めるまでおとなしくしていたと思われるのでございます。」
「信奉者の一部が逮捕されたことを隠したとしても、どこからか本人に伝わりますからね。
さすがに直後は怪しい行動を控えるでしょう。」
「しかしそれも十日ほどでございました。
周囲の落ち着いた様子からほとぼりが冷めたと判断したのか、それとも自身が我慢できなくなったのかはわかりません。
セルトは普段隠していた裏の顔を、監視されていると気付かずに、晒すようになったのでございます。
またそれによってさまざまな過去の事件への関与が明るみになったのでございます。」
「その過去の事件というのは、例えばどんなものがありましたか?」
「最も印象に残っていますのは、セルトが自身の欲を満たすため、子を持った親の気持ちが知りたいと思った際のことでございます。
このとき何を行ったかと申しますと、まずは養子を迎えておりました。
別の場所では、女性と結婚して子が生まれておりました。
更に別の場所では、行き過ぎた行為としまして、一時的に自身が女性に性転換して出産を経験しておりました。
しかしこれらは全て偽りの素性、姿や名前などの自身の痕跡を全て隠し、別人として行われておりました。
そのためセルトの関与は発覚されなかったのでございます。」
「養子縁組、婚姻、性別変更、どれもさまざまな許可や責任が伴うものです。
しかしセルトはこれらを自身が持つ強権で容易に行使が可能でした。
これはあきらかに、権力者へ自由で高い権限を与えすぎた弊害ですね。
本来であれば、権限を行使する際には、常に同程度の権限を持つ者たち複数による確認や許可制の仕組みなどが必要ななずです。
これらがあれば多少の抑止にはなったでしょう。」
「耳が痛いお話でございます。
基本的な仕組みの問題といたしまして、重く受け止めさせていただきます。」
「ただ、それでセルトが自身の欲を抑え込めるとは、到底思えませんがね。」
「そちらに関しましては、私も同意いたします。
当時のセルトは表の顔が清廉潔白な聖人君子であったため、事が発覚するまで警戒対象からは完全に外れてございました。
そのため独自の裁量による自由な権限の行使が許されていたのでございます。
おそらく仮に確認や許可が必要であったといたしましても、表向きの評判により上手く隠し通したはずでございます。」
「まぁそうでしょうね。」
「話を戻させていただきます。
先程ご説明させていただきました通り、セルトは自身の欲を満たすために、さまざまな試みを行っておりました。
ですが、どれもすぐに飽きてしまったようでございます。
と、ここまででしたら当事者たちの間の問題としまして、主様や創造主が危険視するほどではなかったでしょう。」
「そうですね。
何時の時代もクズはそれなりに多くいますから、その内の一つとして周囲の反応は、選んだ相手の運が悪かった、程度で片付けられてしまったでしょうね。」
「仰る通りでございます。
しかし問題はこの後でございます。
セルトには新たな欲が湧いてしまったのでございます。
それが、子を失った親や殺人者としての心境を知りたくなった、ことでございます。
欲を満たすために他者を殺害するなど、まともな精神の持ち主であれば、まず実行に移すことはございません。
ましてや自身の血を分けた実子たちをその手にかけるなど、正気の沙汰ではございません。
ですがセルトは、これらを躊躇なく実行に移したのでございます。」
「だけど、それらの事件が解決されることは無かったみたいですね。
セルトが素性を偽っていたこと、相手が訳アリで親類縁者のいない者だったこと、更には何の証拠も出なかったこと。
これらの状況も大きく影響してました。
そして事件は何の進展も無い状態が続きました。
やがて長い年月が過ぎたことで未解決のまま忘れ去られることになります。」
「それらの事件は、捜査自体がほぼ打ち切られていたようでございます。
しかし未解決事件の中には、セルトが関わったと思われるものが数多くございました。
一つのメモの切れ端から犯罪への関与が発覚し、さまざまな余罪までもが明るみになったのでございます。
事件の記録を確認していた際に、自業自得とはまさにこのことかと考えさせられたものでございます。
その後捜査は進みまして、メモに書かれていた内容についての裏付けが完了間近ということころまで進展してございました。」
「だけどそんな中、アルベルとカルインが主導したクーデターが発生し、対処するためにセルトの監視どころではなくなってしまった。」
「その隙を突かれまして見失ってしまい、時間差でセルト主導のクーデターを起こされてしまったのでございます。」
「まるで、アルベルとカルインのクーデターが起こること、そして失敗することが最初からわかっていたかのように、ですか。
実際に最初から全部知っていたみたいですけどね。
正確には、アルベルとカルインのクーデター自体、裏で糸引いていたのがセルトなんですが。
まぁ当の二人は知らなかったようですがね。」
「やはりそうでございましたか。
時間が無かった所為で、そこのつながりを確認することはできなかったようですが、創造主は怪しいと睨んでいたようでございました。」
「タイミングがよすぎでしたからね。
むしろ疑わない方がおかしいです。」
「ですが結果としまして、そのセルトの野望も主様や創造主によって阻まれ、事なきを得ます。
しかし不確定要素であった黒幕の暗躍により、紆余曲折がありまして、現在の状況となっているのでございます。
私からは以上でございます。
ご清聴ありがとうございました。
いかがでございましたでしょうか?」
ツクヨミに評価を求められ、アイは率直な感想を伝える。
「記録だけでなくツクヨミさんの意見も各所に含まれており、更には間に挟んだ私の説明とも齟齬がありませんでした。
まぁ及第点といったところでしょうかね。」
「ありがとうございます。」
アイの言葉は、聞く者によっては上から言っていると受け取られそうだが、ツクヨミには高評価だったとして伝わったようで、感謝の言葉を口にするのであった。




