暗躍する者たち40
それはツクヨミだった。
少し申し訳なさそうにしながら、まずは主の女性に許可を求めてきた。
「話の途中で申し訳ございません。
一つ気になることがございますので、先に私から確認させていただいてもよろしいでしょうか、主様?」
主の女性はアイとの話を中断し、ツクヨミに答える。
「構わん、許可する。
それとこの件で気になることがあれば、私に許可を取る必要はない。
積極的に忌憚の無い意見を出せ。」
「承知いたしました。
ありがとうございます。
アイ様もよろしいでしょうか?」
「どうぞ、ツクヨミさん。」
二人の許可を得て、ツクヨミが少し前のアイの言葉について質問してきた。
「ありがとうございます。
先程アイ様は、創造主の身体は予備の中枢制御カプセルと共にある、そう仰っていました。
これはどういう意味でございますか?」
「そこに気付きましたか。
これは事前準備にも関係してくるのですが、そう難しく考える必要はありません。
言葉の通りですよ。
正確には、彼女の身体は予備の中枢制御カプセル内に欠損することなく存在しています。
しかし魂は違います。
現在予備の中枢制御カプセル内に残っている彼女の魂は極僅かです。
そのため解放しても、残りの魂を戻すことができなければ、身体はそう長い時間持ちません。」
「では事前準備と仰られるのは、解放する前に、先に残る創造主の魂を回収する必要があるということでしょうか?」
「それも事前準備の一つということです。」
「他にも事前準備が必要ということでございますか?」
「それらについて説明するには、先にアカシックレコードシステムの各ユニット内にいる者たちの状態について説明する必要があります。
まず第一補助機能と第二補助機能のユニットになっている賢知神アルベルと武法神カルインですが、こちらはもほぼ身体だけです。
現在魂は別の場所にあります。」
「別の場所、でございますか?」
「そうです。」
断言したアイに、ツクヨミが疑問を口にする。
「しかし記録では、該当する魂は各ユニット内以外には存在しておりません。
これはどういうことでございますか?」
「気付かないのも無理はありません。
各ユニット内以外の二人の魂は、現在別の魂として偽装されているからです。」
「魂の偽装など、そのようなことが可能なのでございますか?」
「可能です。
現にアカシックレコードシステムには、別の場所にある二人の魂は、別人の魂として記録されています。
そして今この二人の魂は別の身体に入っていて、地上で活動しています。」
予想外のアイの説明に、思わずツクヨミは声を荒げてしまう。
「それは本当でございますか!
しかし記録を見る限りでは、どちらもおとなしくしているような性格ではないはずでございます!
それこそ国を興すか乗っ取るかして、好き勝手に権力を欲しそうなものでございます!
ですが、現在記録には各国に該当する人物は存在しておりません!
これをどう説明するのでございますか!」
この状態では話がこじれそうだと考えたのか、アイは先に指摘をしておく。
「気持ちはわかりますが、まずは落ち着いてください。
そのような状態では、的確な判断ができませんよ。」
アイに指摘され、ツクヨミはすぐさま自身の態度を改める。
「しっ、失礼いたしました。」
これなら問題無いと判断したアイは、何事も無かったかのように話を続けた。
「理由は簡単です。
どの国にも属さずに、ある結社に飼われているからですよ。」
「ではその結社が上手く野心を制御しているということでございますか?」
「そうです。」
「にわかには信じがたいことでございます。
今日に至るまでの長い間、底無しの野心を抑え込めるとは到底思えません。」
「そうでもありません。
記録されている性格通りなら、飴と鞭を上手く使えば意外と御するのは簡単ですよ。」
「飴と鞭、でございますか?」
「そうです。
飴は報酬、鞭は脅迫、と言い換えてもいいかもしれませんね。」
掘り下げたアイの言葉で、ツクヨミはすぐに片方については思い至る。
「飴の報酬は、先程主様が仰られておりました、創造主の事であると推測できます。
ですが鞭の脅迫、記録に残っている性格からは簡単に屈するようには思えません。」
このツクヨミの考えを、アイが修正と捕捉をする。
「その推測は少し違いますね。
確かに彼女のことは報酬の一つであることは間違いありません。
しかしすぐに手に入るわけではありません。
それまでお預けされて従順に従うなど、二人の性格からして絶対に無理でしょう。
あきらかに我慢強くなど無いのですから。」
「確かに、仰る通りかと。」
「そのため彼女については、最終的な報酬、というのが正しい位置付けです。
そこで最終的な報酬とは別に、目先の報酬、これが用意されているんです。
この目先の報酬は、二人の状況と欲望に上手く合わせたものになっています。
それが、ある程度好きに使える身体とある程度の行動の自由、そして潤沢な資金と女性、つまり娯楽の提供、というわけです。
これらが揃っていれば、あの二人の性格からして、おだてて飼いならすことはそう難しくないでしょう。
まぁ仕事で言うことを聞かせることは多少手こずるかもしれませんが、そこは脅迫の仕方次第である程度はコントロール可能というわけです。」
「なるほど、そういうことでございましたか。
現在の身体はある程度自由に使えるものの、その所有権は別にあり、結社とやらの意図に背けば奪われてしまう可能性があることを示唆するということでございますね。
つまり、与えられたある程度の自由と娯楽などが報酬であり、また同時にいつでもそれらを奪えることが脅迫である、と。」
「そういうことです。
ちなみにこの結社、現在三人がトップに立っていて、その権力は同等です。
その内の二人がアルベルとカルインで、主に現場担当のようです。
残りの一人が諜報や作戦立案などを含めて、結社の運営を行っています。」
「では、その残りの一人というのが手綱を握っている飼い主ということですか?」
「いいえ、少し違います。
確かに二人が暴走しないように、残る一人が制御していることは間違いありません。
ですがこの体制は表向きで、真に手綱を握っている人物は他にいます。
その人物こそが先程の話に出てきた黒幕でもあります。」
しかしこのアイの説明に、ツクヨミが反論してくる。
「お待ちください。
黒幕は現在、第三補助制御のユニットに入っているはずでございます。」
「その通りです。
ですが思い出してください。
先の二人の状況を。」
この僅かな説明だけで、ツクヨミは状況を理解した。
「つまり、先の二人と同様に魂だけは難を逃れていた、ということでございますね。
そういうことでしたら、黒幕がその結社で真に手綱を握っているということも納得できます。
更に今の話で推測できたことがございます。
それが、黒幕は自由に魂を出し入れ可能で、そのための別の身体を用意することができる、ということでございます。
この認識で間違いございませんか?」
それを更にアイが捕捉する。
「できる、という意味では合っています。
しかし正確には少し違います。
できる手段を有しているだけで、黒幕本人は原理すらわからずに、ただ使っているだけです。
それが、オリジナルの身体から魂を抜き出して一時的に保管する手段を有していること。
一時的に保管した魂を別の受け皿となれる身体に入れて定着させる手段を有していること。
受け皿となれる身体を保管、メンテナンスする手段を有していること。
これだけです。
そのため、どれか一つでも手段を失えば結社の体制は破綻するでしょう。
そんな状態で、今までよく結社を維持できたと、ある意味感心してしまいます。」
これを聞いてツクヨミはある可能性に辿り着く。
「それはまさか・・・黒幕の裏には、更に別の黒幕がいる、ということでございますか?」
「それは正しいとも言えるし、正しくないとも言えます。
そこが話をややこしく複雑にしてしまっている要因なんですがね。
その部分を説明するためにも、ここで元の話に戻します。」
「お願いいたします。」
「セルトが何故封印されることになったのか。
そもそも何故混乱に乗じてクーデターを起こしたのか。
その辺りの詳しい経緯や理由は知っていますか?」
「記録に残っております創造主からの情報の範囲内でしたら知っております。
セルトは、表向き清廉潔白で聖人君子を装っておりましたが、巧妙に隠された裏では知的好奇心が旺盛な飽きっぽい性格でございました。
そのためには倫理観を平気で無視した行為を行える享楽主義者であったと聞き及んでおります。
これらが危険視され、クーデターを起こす数ヶ月前から、本人には通知せず秘密裏に監視されていたようでございます。」
「性格については、概ねその通りです。
しかしそれだけならただの不審者止まりです。
常に監視下に置かれるほどではないでしょう。
そうなるに至った理由は知っていますか?」
「いくつかの未解決事件に関わっていた可能性が浮上したことが切っ掛けと記録されております。
例えば、年間数件ほど発生しておりました連続殺人事件です。
かつて、無差別に殺害する殺人犯がおりました。
その手口は巧妙かつ狡猾で残忍。
目撃者どころか何の証拠も残さないため、長年犯人の正体が不明でした。
しかし偶然が幾重にも折り重なり、犯人、もしくは協力者と思われる者が浮上したのでございます。」
「それがセルトだった。」
「その通りでございます。」
「ちなみにその、幾重にも折り重なった偶然、というのは、どのようなものか知っていますか?」
そう言ってアイは、ツクヨミがどこまで真相を理解しているのか、試すように質問してきたのだった。




