暗躍する者たち35
「・・・アシュラ、相手から何か反応は返ってきましたか?」
「何も無いよ。
まだ何か抜けてることがあるんじゃないか?」
「しかしこれ以上となりますと、敵かもしれない相手に明かすべき内容がほとんどです。」
「でもよ、このままじゃいつまで経っても先に進まないぜ。」
「それはそうですが・・・主様、いかがなさいますか?」
「多少のリスクを取ることもやむを得まい。
もう少し踏み込んだ話をするしか・・・」
主の女性が更なる話をしようとしたところに、それは突然のことだった。
「その必要はありませんよ。」
不意に背後から声を掛けられた三人は、すぐに声が聞こえた方へ振り返る。
「誰だ!」
「何者です!」
「誰!」
しかしそこには誰もいなかった。
ツクヨミとアシュラは命令されるよりも先に、主の女性を護るよう、自分たちの背中に隠しながら周囲を警戒する。
「アシュラ、私は主様の左側を守護します。」
「主の右側は任せて、ツクヨミ。」
「何処だ・・・」
主の女性も周囲の気配を探るが、一向に相手の姿は見えない。
膠着状態は僅かな時間だったが、三人にはとてつもなく長く感じられた。
そこへ再び声が聞こえてくる。
「中々の反応ですが・・・今はこのくらいですか。」
それは意外にも主の女性の目の前だった。
そこには声の主と思われる見知らぬ女性が無防備に立っている。
どうやら瞬きした一瞬の間に突然現れたようだ。
予想外のことだったからか、主の女性の反応が一瞬遅れる。
「っ!?」
代わりに、それよりも先に反射的に動いたツクヨミとアシュラが、見知らぬ女性の左右から挟み込むように攻撃を放つ。
どうやら見知らぬ女性が放つ、今までに感じたことが無い正体不明の圧力を感じたようで、頭よりも先に身体が動いたようだ。
「主様!」
「主!」
だが見知らぬ女性はその場から微動だにせず、二人の攻撃をまともにくらった。
かに見えたが、攻撃は見知らぬ女性の身体をすり抜けてしまう。
「なっ!」
「うわっ!」
その結果、二人はお互いを攻撃してしまうことになってしまったが、すんでのところで防御が間に合い、事無きを得た。
「間一髪でした。」
「危なかったぜ。」
そんな安堵した二人に、見知らぬ女性が指摘する。
「この程度の些事で、今の状況で何が最優先かを忘れるのは、護衛としていかがなものですかね。」
その言葉で状況を思い出した二人は、すぐに主の女性と共に見知らぬ女性から距離を取る。
「・・・はっ!」
「・・・くっ!」
そして今度こそは見失わないようにと、二人は見知らぬ女性への警戒を最上位にまで上げつつ、主の女性の護衛に戻る。
そんな緊張感の中、先に主の女性が口を開いた。
「・・・そろそろ茶番はお終いにしてもらおうか。」
すると見知らぬ女性から正体不明の圧力が消える。
「そうですね。
少し悪ふざけが過ぎましたね。
失礼しました。」
「構わん。
お前からは妙な気配を感じたが、殺気は一切無かった。
おそらく私たちに対する警告のようなものだったと考えるが、違うか?」
「まぁそんなところです。
まずは貴女方が置かれている現状を知ってもらおうと思いまして。」
「お前なら、私たちをいつでも好きにできる、と?」
「否定はしませんよ。
ですが、私にそのつもりはありません。
そもそも私は貴女方と敵対するつもりはありませんからね。」
「敵対するつもりはない、か・・・だが、必ずしも私たちの味方とは限らないのだろう?」
「それをどう判断するか決めるのは貴女方です。
先に伝えておきますが、私としては貴女方と共にありたいと考えています。
そこに嘘や偽りは一切ありません。」
「口で言うだけなら何とでも言える。
だが今この場であえてそう言うからには、互いの譲れない部分に相いれないものがある、ということなのだろう?」
「私としては、貴女方の理解さえ得られれば、互いの溝を埋めて賛同してもらえると確信しています。
そのためには、互いの信頼関係を構築するのが最も重要だと考えます。
そこで、まずは私のことを信じてもらうことからはじめたいと思います。
どうでしょうか?」
笑顔で歩み寄ってきた見知らぬ女性を、当然主の女性は警戒する。
「初対面でいきなり信じろと言われても無理な話だ。
お前が誰かもわからない内は尚更だ。」
すると見知らぬ女性が提案してきた。
「当然ですね。
ですから、まずは私の素性を明かしてもいいと考えています。」
これには主の女性も驚きを隠せないでいた。
「何?・・・本気、か?」
「もちろん本気ですよ。」
「何を企んでいる?」
「何も企んでなどいませんよ。
あえて言うなら、貴女方から信頼を得ること、ですかね。
そのために、こちらから誠意を見せる必要があると考えました。
どうします、私の素性を聞きますか?
それとも、私の素性を知らないまま話を進めますか?
私はどちらでも構いませんよ。」
見知らぬ女性の意図がわからない主の女性だったが、自分たちに不利益が無いと考えたので提案を受け入れた。
「・・・いいだろう。
お前が何者なのか聞かせてもらおうか。
だが、嘘だと思ったら話はそこまでだ。」
「わかりました。
その言葉、肝に銘じます。
その上で、これから私が口にする言葉に、嘘偽りが無いことを約束しましょう。」
「そう願う。」
「では簡単に自己紹介させていただきます。
私の名は、アイ、です。
既に気付いているとは思いますが、現在第二制御ユニットとして遠隔接続しているのは私です。
ですので、実際に私はこの場にいません。
貴女方が見ている私は、ただのホログラムです。」
「アイ、か・・・悪いが、私については黙秘させてもらうぞ。」
そう言いながら、主の女性はツクヨミとアシュラに、アイと名乗った女性について調べるように視線で促す。
二人は一瞬視線を合わせただけで、主の女性の意図を理解して記録を調べはじめた。
だがすぐにその必要は無くなる。
「構いませんよ。
ですが私の自己紹介にはまだ続きがあります。
アイという名は、かつて人であった時のもの。
今は別の名があります。
無限書庫、という名がね。
貴女方なら、既に知っていますよね?」
これには主の女性も驚きを隠せず、同時に納得もしていた。
「っ!?
つまりお前は、先程私たちが話していた無限書庫計画の被検体というわけか。
確かに無限書庫計画が想定通りの性能を発揮できるのならば、ここへのアクセスだけでなく、操作することも可能だろう。
しかし・・・まさか、生きていたとはな。」
「それについては一つ訂正があります。
先程貴女方の話の中に、無限書庫が外宇宙へランダム転移させられ廃棄された、とありましたが、それは間違いです。
正しくは、廃棄される際の転移を利用して難を逃れ、真に必要とされる時まで身を隠していた、です。」
「なるほど、お前を創った者よりお前の方が上手だったわけか。
だが、身を隠していた、ということは、何かが切っ掛けで行動を開始したということだ。
その理由は何だ?」
「それは・・・秘密です。」
「秘密ということは、それこそが行動を開始した切っ掛けということか。
ありきたりなところだと、復讐、か?」
「確かにありきたりですね。
一応その考えに至った理由を聞いてみましょうか。」
「お前なら間違いなくアカシックレコードシステム内の記録から、無限書庫計画の全貌を把握することが可能だ。
誰が主導していて、その者がいまだに生きていることもな。」
「それは先程貴女方の話に出てきた、頻繁に正規のIDでアクセスをしてくる者、のことですね。」
「そうだ。
お前にとっては人生を狂わせた張本人だからな。
おそらくお前は身を隠している間に力をつけ、同時にアカシックレコードシステム内の記録からその者に辿り着いたのだろう。
そして復讐の算段がついたお前は、その第一歩としてアカシックレコードシステムの掌握をするつもりではないか?」
「なるほど。
他にはありますか?」
「ついでに捕捉すると、私たちのことは自身の復讐の駒に加えるつもりなのだろう。
先程の悪ふざけとやらは、そのための力量の確認といったところか。
違うか?」
「なるほどなるほど。
他にはありますか?」
「以上だ。」
主の女性は自分の予想に相当自信があるようで、アイが認めるのを確信しているようであった。




