暗躍する者たち34
「承知いたしました。
では未知の方法とIDで正規のアクセスをしてきた者、三名に関しまして、ご報告いたします。
まず時期でございますが、今からおよそ13年ほど前から1年ほどの間に、それぞれ1回のみアクセスがございました。
しかし存在する記録はアクセスのみでございます。
そのため使用されたIDや接続場所など、接続者に関する情報の一切が不明でございます。」
「何故接続者に関する情報が存在していない?
そもそも未知の方法とIDで正規アクセスは可能なのか?」
「順番にお答えいたします。
まず接続者の情報が存在していないことに関しましては、私たちにアクセスする権限が無いためと思われます。」
「つまり、記録されてはいるが相手の権限が上位のため参照できない、ということか。」
「はい、おそらくではございますが。
また未知の方法とIDでの正規アクセスは、仕様上存在しております。
こちらは創造主を超える権限を有することで可能でございます。」
「つまり、少なくとも彼女を超える権限でアクセスしてきた、ということか。」
「はい、こちらもおそらくではございますが。
ただ、その内の一名に関しましては、思い当たる者が存在いたします。
・・・ですが、今は止めておくのがよろしいでしょう。
この後、答え合わせができる可能性もございますので。」
「確かにな。」
「更に付け加えますと、残りの二名に関しましても、関係者である可能性が高いと思われます。
そう考えますと、敵対するリスクは高いかと。
だからといって理不尽に屈するべきではありません。
ですので、今後に関しましては、主様の御心のままに。
どのようなご判断をされたとしましても、私たちは主様の意思に従います。」
「わかった。
覚えておこう。」
「ありがとうございます。
未知の方法とIDで正規のアクセスをしてきた者たちに関しますご報告は以上になります。
他に何かございますでしょうか?」
「無い。
次の報告を。」
「承知いたしました。
では最後になりますが、ID無しで非正規アクセスを試みた者たちに関しまして、ご報告いたします。
結論から申し上げますと、これらは全て偶然の範疇で起こったものでございます。
そのためアクセスできた者は一人もおりませんでした。
ですので、無視して問題無いものと思われます。」
「確認だが、正規のIDは無かったのだな?」
「はい、ございません。」
「その者たちにアカシックレコードシステムの存在は知られていないな?」
「はい、情報は一切漏れておりません。」
「現在、その者たちの所在や状況はどうなっている?」
「事が起こりましたのが数万年以前のため、現在生存している者は誰もおりません。
またその者たちだけでなく、所在や関係者も確認いたしましたが、何も問題はございませんでした。
完全に白でございます。」
「そうか。
それなら問題無いだろう。」
「ID無しで非正規アクセスを試みた者たちに関しますご報告は以上になります。
他に何かございますでしょうか?」
「無い。
これで一通り報告は終わりだな?」
「はい、ご質問をいただいておりましたのは、以上でございます。」
「そうか・・・本来であれば、これは後にすべきであって、今聞くべきことではないだろう。
それでも今これだけは先に確認しておきたい。
・・・最優先目的の進捗がどうなっているか答えてくれ。」
「全ては主様の望むままに。
それではお答えいたします。
最優先目的の進捗でございますが・・・現時点で0%でございます。」
「0%・・・全く進展無しか・・・」
「はい。
原因や状況のご説明をいたしますか?」
「いや、今はいい。
後で改めて聞こう。」
「承知いたしました。」
「・・・さて、ここまで受けた報告をまとめると、何の進展も無く、現状維持がやっと、と判断せざるを得ないだろうな。
それはつまり、これだけの年月が経過しても、根本的な解決どころか、その糸口すら見つかっていないということだ。」
「我々の力が及ばず、申し訳ございません。」
「いや、それについては私や彼女も同罪だ。
まさかアカシックレコードシステムを使用して何の情報も得られないなど、完全に予想外だった。
しかしこれで判明したこともある。
私たちの目的を叶えるための情報は、少なくともアカシックレコードシステムの及ばない範疇にある、とな。
同時にアカシックレコードシステムを利用している者たちは、私たちと同様に情報を得られていない可能性が高いこともな。」
「はい、我々も主様と同じ意見でございます。
そこで主様、一つ進言をお許しください。」
「許す。」
「ありがとうございます。
主様、アレの捜索に本腰を入れるべきではないかと、進言いたします。」
「アレ、とは、アカシックレコードシステムを開発するに至った、仮説上の存在のことか?」
「はい、そのアレでございます。」
「当初の予定ではアカシックレコードシステムだけで問題無いとの試算から、アレを捜索する重要性は低かった。
そのためアレの捜索に割り当てるリソースの割合は、低く設定しているはずだったな。」
「はい、現在は最大0.000001%まで使用可能でございます。」
「当初の予定通りか。
それで現時点の捜索状況はどうなっている?」
「多少の情報は集まっておりますが、どれも信憑性に欠けるものでございます。
また現地調査ができておりませんので、実際に情報の確認が取れておりません。
そのため仮説の域を出ていないのが現状でございます。」
「今だに存在するかもわからないということか・・・」
「ですが、このままでは何も変わらないのも事実でございます。
しかし、アカシックレコードシステムが稼働したことこそ、アレの存在を裏付けております。
それだけは揺るがない事実でございます。」
「アカシックレコードシステムの中枢は完全にブラックボックス化されていて、原理や仕組みは完全に謎だ。
それは私だけでなく、彼女も同様。
ただ彼女曰く、アカシックレコードシステムは仮説上のアレを利用することで成立する、と。
逆に言えば、アレが存在するからこそアカシックレコードシステムは正常稼働できている、ということだな。」
「その通りでございます。
この中枢のブラックボックス化された部分を解明することで、アレに近づけるのではないかと我々は考えております。
ですが、アカシックレコードシステムの中枢を調べることは禁止されております。
主様の御判断をお聞かせください。」
「ツクヨミ、お前の言いたいことは私も理解している。
しかし彼女は更にこうも言っていた。
アカシックレコードシステムは、様々な偶然と奇跡が重なることで運良く構築できたシステムだ、と。
ブラックボックス化された中枢を直接調べることは、アカシックレコードシステムの停止を招く恐れがある。
場合によっては復旧すらできない可能性もある。
さすがにそのような危険を冒してまで許可を出すことはできない。」
「残念ではございますが・・・」
「だがそれは中枢に干渉するような内部調査を行う場合だ。
外部から中枢の状態や動作状況などを観察する程度なら、停止するような危険も無いはずだ。」
「主様、では・・・」
「アレを利用していると言うくらいだ、何かしらのデータ送受信があってもおかしくないはずだ。
このデータの流れを追うことで、アレに辿り着くことができる可能性は高いと私は考える。
それだったら許可するが、どうだ?」
「十分でございます。
許可をお願いいたします。」
「いいだろう、許可する。」
「ありがとうございます、主様。
しかし問題がございます。」
「捜査に使用するリソースだな?」
「はい。
現在使用可能な割り当て分だけでは、リソースが圧倒的に不足しております。」
「確かにな。
現状の運用を維持しつつ、何処までリソースを追加確保することが可能だ?」
「長期的に安定した運用維持を行う場合となりますと、10%程度の割り当てが可能でございます。
また限定条件下でしたら、瞬間的に最大で20%まで引き上げることも可能でございます。」
「仮に10%のリソースが使用可能となった場合、どこまでできるようになる?」
「現在のリソースでは、アカシックレコードシステムに記録されたアレに関する情報の精査のみでございます。
それに加えまして、情報精査の処理能力向上、外部からの中枢の観察と分析、外界への調査員の派遣、以上が可能でございます。」
「そこまでできるようになれば、アレの捜査も進展し、最優先目的の進捗にも変化があるかもしれない、か。
いいだろう。
その内容で進めろ。」
「ですが、これには障害がございます。
現在我々には、これらの設定を変更できる可能性が低いと思われることでございます。」
「私たちの権限より高い権限の存在がネックか。
早く最優先目的の進捗を進めたいところではあるが、これについては相手との交渉次第だな。
現状この後の話し合いがどうなるか見当もつかない状況だ。
とりあえずアレの捜索の優先度を上げることは決定だが、状況次第ではどう転ぶかわからないことだけは覚悟しておいてくれ。」
「承知いたしました。」
「とりあえず、今話すことと決めておくべきことはこれくらいか。
しかし改めて、彼女が今この場にいないことが悔やまれるな。
いったい何処で何をしているのだろうか。
ツクヨミ、私がカプセルに入って以降、明確に彼女と思われる者の存在は確認できていない、間違いないな?」
「はい、ございません。
また創造主の行方は、いまだ判明しておりません。
アカシックレコードシステムの記録範囲の範疇では、でございますが。」
「そうか・・・だがこの状況を彼女が黙っているわけがない。
おそらく今この時も、様々な手段を講じて動いているはずだ。」
「私も同意いたします。
創造主の性格を考えれば試行錯誤しているはずでございます。」
「しかし実際のところ、彼女は現れていない。
聡明な彼女が、いまだここに至ることができていないのだから、余程の事情なのだろう。
彼女が存命であれば、座して待っているわけがないからな。
だが・・・」
「主様?」
「・・・場合によっては、彼女が彼女ではなくなった可能性があるかもしれない。
また諦めてしまった可能性があるかもしれない。
全てを忘れて自由に生きている可能性があるかもしれない。
もしくは、彼女は既に・・・」
「主様!」
「はっ!・・・すまない。
今のは忘れてくれ。」
「いえ、我々は何も聞いておりませんので、お気になさらないでください。」
「頼む。
・・・さて、積もる話は他にもあるが、急ぎ確認しておくべきことはこれくらいだと私は思うが、何かあるか、ツクヨミ?」
「いいえ、私も主様と同じ意見でございます。」
「そうか・・・さて、全て見て聞いていたのだろう、身元不明の接続者。
私たちは今の状況が、過去と現在の状況把握をした後、という認識だが、まだ不十分か?」




