暗躍する者たち32
「どうしましたか、アシュラ?」
「こんなものを見つけたぜ。
どう思う?」
「これは・・・主様、先程の研究レポートについて、新たなアプローチと思われる実験の存在を確認いたしました。」
「内容の説明を。」
「承知いたしました。
どうやら長い年月をかけて異種交配を繰り返し、その優秀な部分を次代以降に継承させるものでございます。
その目的は、究極の雑種を創り出すこと、のようでございます。」
「まるで植物の新種を創るような方法だな。
だが実験にはかなりのトライアンドエラーが予想されるはずだ。
そうなると実験体の数も相当数用意する必要があるだろう。
だがお前たちが実験の存在を発見するのに、ずいぶんと時間がかかっていた。
何故だ?」
「それが、用意された実験体は1個体のみで、代々継承するのも1個体だけだったようでございます。
そのため実験だとわからないように、密かに進められていたため、情報の精査に時間がかかってしまったのでございます。」
「そういうことなら仕方ない。
だが実験についてはおかしな話だ。
実験をするということは、それが需要があるからで、完成は早ければ早いほど良いはず。
秘匿するためとはいえ1個体のみでは、成果が出るまでかなりの時間を要するはずだ。
もしかしてゆっくり時間をかけて行う必要があったのか?
それほど重要な実験だったということか?
それとも単純に予算や人材不足だったのか?
そもそも次代に優秀な部分だけを継承するなど、普通は狙ってできないはずだ。
ましてや不測の事態で命を落としてしまう可能性もある。
何故そのように不確実な実験形態をとったのか、その意図がわからない。」
「ところがそうでもないようなのでございます。
実験体には特殊な核が埋め込まれており、どうやらそれが実験体の継承を補助し、命を保護する仕組みを保有しているようでございます。
その性能に余程の自信を持っていたようでございます。
またこの特殊な核も、常に次代へと受け継がれていたようでございます。」
「その話からすると、どうやら本当に重要なのは究極の雑種として完成した実験体自身ではなく、埋め込まれた特殊な核のようだな。
ということは、その特殊な核を成長させることが本来の目的だった可能性が高い。
だから1個体しか実験体を用意できなかったのだろうな。
それで、今その実験体と特殊な核はどうなっている?」
「主様、少々お待ちくださいませ。
アシュラ、どうですか?」
「うーん・・・どういうことだこれ?」
「その言葉、そっくりそのまま返します。
詳細な説明をしなさい。」
「わかってるって。
実験体の方は少し前に消滅したことが記録されているぜ。」
「消滅、つまり既に存在していないということですか。」
「記録を見る限りではな。
それと特殊な核の方は、どうやら別の実験体の体内にあるみたいだよ。」
「別の実験体とは何のことです。
実験体の体内に特殊な核が存在していたことから、次代はいないはず。
それとも先程の報告にあった、実験体は常に1個体、というのは間違いだったのですか?」
「いや、そうじゃないって。
どうやら並行して行われていた別研究の実験体が、件の実験体と戦ったみたいだぜ。
その結果、紆余曲折があって、件の実験体は特殊な核を奪われて消滅したみたいだよ。
で、その奪われた特殊な核は、別研究の実験体に移植されたってわけだ。」
「その別研究というのはどのような内容ですか?」
「えーっとぉ・・・ああ、あったあった。
詳細は省くけど、特定の同族同士で婚姻を繰り返して血をより濃くすることで究極の純血種を創り出す、ってことみたいだぜ。
どうやら、神の如き種族の血を更に濃くしたら神ができるのではないか、ってコンセプトみたいだね。
で、今代の実験体が歴代最高傑作らしいな。」
「つまり純血種と雑種の両極端な実験体が、互いの覇権をかけて争ったと。
その結果、純血種が生存を勝ち取り、雑種が敗北して消滅したわけですか。」
「そうなんだけど・・・ただなぁ・・・」
「何か気になることがあるのですか?」
「これなんだけど、どう思う?」
「雑種が消滅する前後の記録ですか。
特殊な核を抜き取られたことで、雑種はその場で消滅。
おそらく特殊な核が生命維持に直結していたのでしょう。
特におかしいところは見受けられないようです。」
「じゃぁ、これはどうだ?」
「純血種が特殊な核を体内に埋め込まれ、その場から離脱。
おや、これは天使でしょうか?
それも見たところ両陣営に1体ずつ、どちらもかなりの力を有しているようです。
そしてどちらの天使の内にも、本人とは別の魂が潜んでいるようです。
しかしどれもエデンの園には情報が存在しない個体です。
そうなりますと、新たに生まれた個体ということでしょう。
自然発生であれば、とても興味深いです。」
「まぁ天使のことは置いといて、今度はこれを見てくれ。」
「雑種側の、これはただの人種族のようですが、先程の特殊な核と似たものを内に宿しているようです。
しかも暴走しています。
ですが、その後すぐに特殊な核と似たものは抜き取られて反応が消えています。
しかし所持者の人種族は先程の雑種と違い生きています。
これは、特殊な核が似て非なるものだったから、ということでしょう。」
「ここまでの情報から、何か気付かない?」
「そう問われなければ、おかしいところは何も無いと、疑問を口にすることなく終わっていたでしょう。
つまり問われて私が気付くかどうか、それこそがこの話の焦点ということですか。」
「さすが、理解が早くて助かるぜ。
で、どうだ?」
「その前に確認です、アシュラ。
今の話に出てきた全員、現在の生存と居場所は確認できますか?」
「いい着眼点だね。
ご明察の通り、純血種側の方は大陸北部の未開地にある、隠された国で生存が確認できたぜ。
でも雑種側に関しては、どっちもわからない。」
「現在は雑種側の記録が残っていないということですか。」
「まるで雑種側の全員が消滅してしまったようにな。
明確なのは、雑種が消滅した記録、これだけだぜ。
それ以外は当事者たちに何が起こってどこに消えたかだけでなく、素性もよくわからないんだよね。
これは意図的に隠されているとしか思えないな。」
「つまり、アカシックレコードシステム上の雑種側の情報がおかしい、ということですか。
記録が無いだけでしたら、範囲外に隠れたか、雑種と同様に全員消滅したためと考えられます。
しかし記録はあるのに様子や素性がわからないというのは、あきらかにおかしい状況です。
記録が改竄されているのは間違いないでしょう。」
「ところがそんな痕跡は全く無いんだよ。
当然変更履歴も残っていなければアカシックレコードシステムにも不備は見当たらない。
これはあきらかに異常事態だぜ。」
「・・・確かにアシュラの言う通りのようです。
しかし何の痕跡も残さずに記録を改竄することは不可能です。
ただ私たちでさえ知らされていない、それこそ開発者のみが知る裏機能などについては、存在の可能性は極めて低いと言えるでしょう。
何故なら開発者のトップであった創造主の性格からして、使用者に都合がいい不正を可能にする機能など付けるはずが無いからです。
仮にあったとしても、必ず痕跡を残す機能を付けるはずです。
管理ログがいい例です。」
「同感だ。」
「ですが視点を変えて考えれば、ある可能性が一つ浮上します。
例えば、記録の時点で曖昧な情報しか得られない状況であった場合です。」
「それなら記録自体が曖昧な状態なのも頷けるぜ。」
「それだけではありません。
更に記録自体に違和感を感じないよう、何かしらの認識阻害が潜んでいるようにも感じます。
ただこれについての手法は謎です。
現状では全く見当が付きません。」
「そうだな。
通常これだけの大事が起こったときの記録なら、最重要記録としてチェック対象になっているはずだぜ。
でも何故かそうなってなかったんだよね。
今回気付けたのは、過去の記録を追っていた結果、運良く発見しただけの偶然の産物だ。」
「・・・本当に偶然でしょうか?」
「どういうこと?」
「全ては最初から仕組まれていて、私たちがこの情報に辿り着くことを誘導されたように感じてなりません。
そうは思いませんか、アシュラ?」
「言われてみれば、そう思えなくもないかな。
でもそれを画策したのは創造主か?
それとも正体不明の接続者がか?」
「私は後者であると考えます。
もし創造主であったなら、現在の面倒な状況にはなっていないでしょう。」
「確かにその通りだぜ。
しかもこれ、あきらかに私たちに気付かれやすくしているよね。」
「ええ。
純血種側はハッキリとした記録が残っているのに対して、雑種側は曖昧な記録しか残っていません。
同じ場所の同じ日時の記録であるにもかかわらずです。
記録の内容としては、一見すると詳細を隠したいだけのように思えます。
しかしこのように不自然で違和感満載の情報など、私たちに確認させたい内容であることは明白でです。
つまりこの情報は、正体不明の接続者があえて用意したもので情報把握に含まれる、ということです。
そしておそらくですが、正体不明の接続者は雑種側に属する可能性が極めて高いと思われます。
更には主様や創造主たちの現在の状況にも、この情報が関係しているとも思われます。」
「私も間違いないと思うぜ。
雑種本人は消滅したが、その意志を受け継いだ者が私たちの協力を得るために接触してきた、ということだろうな。」
「可能性は高いでしょう。
遠回しに自分たちの正体、その一部を記録に隠し、更には実力の一端を示す意図があると考えられます。
ただ、こちらが試されているようで、正直気に入りません。」
「同感だ。
どうせその目的は、戦力不足を補うために私たちを自分たちの陣営に取り込んで上手いこと利用したい、といったところだろうぜ。
その前に私たちの実力確認、といったところだろうね。
これは間違いなく、自分たちの方が上だと思っているな。」
「そう考えますと、ますます気に入りません。
主様を試そうなど言語道断です。
しかし私たちが勝手に判断して主様の意に反するなどあってはなりません。
まずは主様の判断を仰ぐべきです。」
「当然だぜ。」
「主様、お待たせいたしまして申し訳ございませんでした。」
「構わん。
必要な話し合いであることはわかっている。
だから気にする必要は無い。」
「ありがとうございます。
私たちのここまでの推測はお聞きいただいた通りでございます。
いかがでございましたか?」
「お前たちの意見に、私も概ね同意する。」
「では、いかがなさいますか?」
「だが、まだ結論を出すのは早い。
まずは一通り話を終える。
結論はその後だ。」
「承知いたしました。
話が大きく逸れてしまいましたが、戻させていただきます。
それではこの女性に関しますご報告は以上になります。
他に何かございますでしょうか?」
「無い。
次の報告を。」




