暗躍する者たち31
「いかがなされましたか、主様?」
「それはつまり、ある程度は一致した、ということか?」
「はい、肉体と魂がそれぞれ20%ほどでございますが、部分的に情報が一致いたしておりました。」
「他人でそこまで一致することは、まずありえない。
一卵性という存在がいるため、肉体は可能性としてありえるかもしれないが、魂は別だ。
だが20%ほどというのはどういうことだ?
本人ではない者が20%ほどとはいえ、他人の肉体と魂がそこまで一致するものなのか?
後はそうなると・・・仮に、仮にだが・・・彼女の血縁者、の可能性はあるか?」
「可能性の有無を判断するには、情報が不足しております。
そのためどちらも否定できない状況でございます。
故にその女性が創造主である可能性は50%未満なのでございます。」
「その女性が産まれた際の記録は?」
「ございません。」
「・・・アカシックレコードシステムが稼働する前から生きているのであれば記録が無いのも頷ける。
しかし仮に血縁だとして、エデンの園に存在していなかったのは何故だ?
他の場所で出産した隠し子なのか?
だが彼女にそんな様子は全く見受けられなかった。
比較的一緒にいることが多かった私に、妊娠を隠すことなど不可能だ。
いったいどういうことだ・・・」
「ツクヨミ、ちょっとこれ確認してみろ。」
「どうしました、アシュラ?
これは・・・主様、全ての疑問を解決可能と思われるものを発見いたしました。」
「それは何だ?」
「アカシックレコードシステムが稼働する以前に作成されたと思われる研究レポートでございます。」
「内容の説明を。」
「承知いたしました。
研究テーマといたしましては、複数人が持つ優秀な部分を有する存在の創造、でございます。
その概要は、複数人の肉体と魂を一つにまとめて一個体とする、というものでございます。
しかしこれ以上は資料が存在しないため、方法に関する詳細などは一切不明でございます。」
「新たな超越種でも創造したかったということか?」
「研究に関します詳細や研究者の意図は不明でございます。
こちらはかつて倫理的観点から破棄された研究と思われます。
そのため研究に関しましては、多くの資料が既に破棄されておりまして、いつ誰が何の目的で提言したものかは不明でございます。」
「だがそれだけでは、疑問を解決可能とは言わぬだろう。
何か根拠があってのはずだ。」
「はい、その通りでございます。
それは研究のレポートが作成され発表が行われたと思われる時期でございます。
少なくとも、アカシックレコードシステムが稼働するよりもはるか以前であることは間違いございません。
そのため当時は机上の空論であったはずでございます。
しかし・・・」
「今の世、厳密に言えば、アカシックレコードシステムの開発から稼働するまでの頃であれば技術的に実現できる可能性が高い、ということだな。」
「間違いないと思われます。
おそらく特殊な改造を施した複製生体生成機を用意することができれば作成することが可能でございます。」
「具体的にはどのようなものだ?」
「当時存在しておりました複製生体生成機で次の5つの技術は既に確立しておりました。
複製体の作成。
魂の肉体からの分離。
魂の分裂。
同一の魂への再統合。
複製体への元となった者の魂の定着。
このように、必要な技術の50%程度が、既に実現されておりました。」
「しかしそれだけでは、実現可能な技術は半分程度だ。」
「そこに次の2つの技術が加わります。
複製体の部分的な分裂。
複製体の再統合。
これらは既存の技術の応用で容易に実現が可能でございました。
再生治療などでの実用化が最たるものでございます。」
「確かにな。
だがまだ足りない。
他はどうなんだ?」
「問題はここからでございます。
ここまではあくまでも同一人物のみを対象としたものでございます。
これが他者、それも複数の他者を対象とする場合は、難易度が格段に高くなるのでございます。」
「移植手術などがいい例だな。
他者という異物同士を組み合わせた場合、ほぼ間違いなく拒絶反応が起こる。」
「その通りでございます。
次の2つの技術が、その対象でございます。
複数人の他者の肉体の統合。
複数人の他者の魂の統合。
しかしこの2つの拒絶反応問題を最後の1つの技術で解決することが可能であれば、創造主と20%ほどの一致というのもありえるのでございます。」
「なるほどな。
複数人の肉体と魂が組み合わされた個体であれば部分的な一致もあり得る、か。
それで、その最後の1つの技術というのは何だ?」
「申し訳ございません。
この最後の技術に関しましては、内容が一切不明でございます。
技術内容に関します予想といたしましては、肉体だけであれば高度な遺伝子操作を施すことで実現できる可能性はございます。
ですが魂の方は、そうはいかないのでございます。
異なる複数の魂を全く違和感なく1つに統合し、更には肉体にも自然に定着させることは、現在までの技術に該当するものはございません。
そのため技術的には90%程度まで実現可能だと証明できますが、のこり10%が現時点では不可能であると言わざるを得ないのでございます。」
「では他の可能性は考えられるか?
例えば魂の統合ではなく同居だ。
これなら複製体の主人格となる魂さえ設定できれば、それほど難しくないはずだ。」
「可能性の1つといたしましては、複数の魂を1つの肉体に同居させることは可能だと思われます。
ただこの場合、複数の魂の存在が確認されるのでございます。
しかし対象の女性には、魂は1つしか確認できておりません。
そのため、これは違うと断言できるのでございます。」
「そうか・・・そうなると今はこれ以上考えても答えは出ないだろうな。
仕方がない、これに関する考察は一度中断する。
だがここまで状況を一致させることが可能な技術が存在するとなれば、もはやこの研究が使用されたことは明白。
疑いの余地は無いと私は考える。
使用された技術の解明については後回しにするとして、今後はその人物を、この研究成果によって創られた者、として扱う。
いいな?」
「異論はございません。
主様の御心のままに。
ですが、引き続き最後の技術に関しましては、調査を継続させていただきましてもよろしいでしょうか?」
「許す。
だが何か少しでも判明したら報告だけは怠るな。」
「承知いたしました。
それともう一つ、お聞きしてもよろしいでございますか?」
「何だ?」
「主様は、その女性が創造主であるとほぼ確信しておられるご様子でございます。
しかしいくら技術的に実現できる可能性が高いとはいえ、不明部分が多い研究を信じるにはいささか情報が不足しております。
他に主様にはその女性が創造主であるとお考えになられる根拠があるのではございませんか?」
「当然ある。
それは、お前たちが提示した情報と報告の中にあった。
ツクヨミ、先程お前は、テスト用IDで正規のアクセスを試みた者たちは未登録場所からアクセスした、そう報告したな。」
「はい、間違いございません。」
「そしてその女性が使用した観測室は、全て現在使用不可。
これは定期的なメンテナンスや部品交換などを怠ったことと、地上に存在していたことが主な原因であるとも報告したな。」
「はい、間違いございません。
補足いたしますと、使用されました観測室の数は100を超えておりました。」
「そうなると疑問が出てくる。
まずは何故未登録場所の観測室を使用したのか。
そして決定的なのが、それだけの未登録の観測室の場所を何故知っていたのかだ。
だがその女性が彼女であるのなら、全ての疑問が解ける。
未登録場所を使用したのは、秘密裏にアカシックレコードシステムの状況を確認したかったから。
多くの未登録場所の観測室の存在を知っていたのは、このような状況を想定して彼女自身が事前に用意していたから。
そう考えれば、彼女であるのはほぼ間違いないだろう。」
「主様の仰られる通り、創造主である可能性は高いと思われます。
しかし新たな疑問が浮上いたします。
何故創造主は、自身の正規IDでアクセスしてこないのか?
何故創造主は、ほぼ別人のような状況なのか?
これらに関しまして、主様はどのようにお考えでございますか?」
「問題はそこだ。
そこが私にもわからない。
本来であれば定期的に私と交代するはずが、耐用年数が近づいているというのに、これまで一度も行われた形跡が無い。
しかし予定通りに事が進められない。
それは彼女は自身が望む行動ができない状況なのだろう。
考えられるのが、おそらく彼女は何かしらのトラブルに巻き込まれている可能性が高いということだ。
だが現状判明している情報だけでは、詳しいことは何一つ不明だ。
一応確認するが、彼女についてアカシックレコードシステムに何か記録は残っているのか?」
「いいえ、アカシックレコードシステム稼働後、創造主に関する記録は一切ございません。
これは主様以外の上位者たちも同様でございます。」
「他の者たちも同様か・・・まぁそれはどうでもいい。
私たちの邪魔さえしなければな。」
「おそらくそれは無理ではないかと思われます。」
「だろうな。
しかし現状障害とならないのであれば放置だ。
わざわざ探す必要は無い。
だが存在を確認したらすぐに報告しろ。」
「承知いたしております。
常に監視し、存在だけでなく痕跡だけでも発見いたしましたら、すぐに主様へご報告いたします。」
「任せる。
それとツクヨミ、一つ確認がある。」
「何なりとお命じください。」
「アカシックレコードシステムは当初の予定通りの稼働をしている、それは間違いないか?」
「稼働直前に創造主によって記録されました情報では、そのようになっております。
それはアカシックレコードシステムが正常稼働していることが証明になると思われます。」
「では3つの補助機能と中枢制御核に問題は無い、ということだな?」
「はい、直近の定期検査と臨時検査に異常は確認されておりません。
またこれまで稼働開始から現在に至るまで、アカシックレコードシステムに異常が確認されたことは一度もございません。」
「そうか、ならいい。
私からは以上だ。」
「承知いたしました。
それでは・・・」
「おっとツクヨミ、ちょっと待ちなよ。」




