暗躍する者たち29
「では改めて、状況把握をはじめる。
私が質問するから、お前たちがわかる範囲で報告や説明をしろ。
それと私の認識が間違っていたり捕捉などがあれば遠慮するな。
私からも何かあれば都度確認する。」
「お任せくださいませ、主様。」
「任せてよ、主。」
「まずはこれからだな。
私がアカシックレコードシステムを稼働していたのは、どれくらいの期間だ?」
「主様が第一制御カプセルに入られておりました期間になりますので、およそ1億年になります。」
「正確には?」
「9999万9997年313日19時間57分35秒でございます。」
「それほどの時間が経過してたとはな。
だが本来アカシックレコードシステムの安定稼働には、最低でも二人必要だったはずだ。
もし私だけでこのまま稼働を続けていた場合、どうなっていた?」
「主様お一人だけで可能な連続稼働期間は、ちょうど1億年でございます。
その期間を1秒でも過ぎた場合、接続者はカプセルから強制排出されます。
これは接続者とカプセルの連続稼働耐用年数が、安全基準においてそのように設定されているためでございます。
この場合、同一ユニットが再びカプセルに入るには最低でも5日の休憩が課されます。
またカプセルのメンテナンスに関しましても、修理や部品交換なども含めまして、最低でも5日を要してしまいます。
ただしどちらも予測されます最低日数でございます。
ユニットが十分に回復できない場合や、カプセルのメンテナンスが長引く場合もございます。
事前に両方のチェックが行われますので、どちらか一方でも稼働の条件を満たしていない場合は、再稼働はできません。
ですので、不測の事態などを考慮していただき、期間に関しましては余裕を見ていただくことを推奨いたします。
当然このままでは第二制御機能が正常稼働しない限り、アカシックレコードシステムの制御機能が完全に停止いたします。
そのための緊急対応といたしまして、バックアップの補助機能を使用する機能限定モードへと移行されます。」
「あと数年後には、そうなっていたというわけか。
だが機能限定モードというのは初めて聞くな。
説明を。」
「承知いたしました。
機能限定モードとは、アカシックレコードシステムの主要的な目的である稼働の維持を最優先とした状態でございます。
これは第一から第三までの補助機能へ、一時的に本来の役割に加えて、並列で稼働の維持を負担させます。
ただこの状態では、本来の制御機能の30%程度の性能しか発揮できません。
そのため副次的な目的である記録の精度が著しく下がった状態での稼働となります。
また補助機能への負担が増えるため、機能限定モードは長い期間の維持ができません。
維持が可能な期間の理論値は、およそ10日程度と推測されております。」
「その間に再びカプセルに入る必要があるわけだな。
これについては私の回復速度次第か。
私さえ回復してしまえば、カプセルは第二を使用すれば問題無かっただろうからな。」
「それは無理でございます。
主様では、第二カプセルをすぐにはご使用になれません。」
「何故だ?」
「それぞれのカプセルは、使用者のパーソナリティに合わせてあらかじめ調整されております。
第一カプセルは既に主様のパーソナリティに合わせておりますので、メンテナンス中の微調整で問題ございません。
しかし第二カプセルは本来の使用予定者である創造主のパーソナリティに合わせて調整済みでございます。
こちらを主様のパーソナリティに合わせて再調整を行うには、少なくとも15日程度はかかってしまいます。」
「だが現に第二カプセルは、問題無く稼働しているぞ。
ならば接続者は彼女である可能性が高いということになる。
しかしお前たちは、彼女以外の接続者が使用している可能性が高いと考えている。
この矛盾はどう説明する。」
「これは私どもの推測でございますが、それでもよろしいでしょうか?」
「許す。」
「そもそも未登録者でございましたので、創造主である可能性は限りなく低いと思われます。
おそらく接続者は第二カプセルに設定されているパーソナリティに、自らのパーソナリティを模倣していると思われます。
その理由といたしまして、創造主のパーソナリティの経年変化予測値との比較結果でございます。
パーソナリティの使用部分は誤差の範囲内でございますが、未使用部分が明らかに別人であることを表しているからでございます。
補足といたしまして、誤差を許容しておりますのは、個人のパーソナリティが経年変化することを考慮してでございます。
そのため比較は、あらかじめ設定時とは多少の変化が起こることを考慮して行っております。
またパーソナリティに未使用部分が存在することに関しましては、無意識部分だけが必要だからでございます。
アカシックレコードシステムにおいて、意識部分のパーソナリティは必要ございません。」
「理屈は理解した。
だがそうなると、何故身元不明の接続者は意識部分を模倣しなかった?
ここまでのことができる者なら、不可能ではないはずだ。」
「そこまでの余裕が無かった可能性が高いと推測されます。
もしくは、わざと模倣しなかった可能性もございます。」
「彼女とは別人だと、私たちに伝える意図があったと?」
「おそらく、ではありますが。」
「まぁいい。
身元不明の接続者については後回しだ。
今は話を戻すぞ。」
「承知いたしました。」
「そこでだ、ここまでの話を踏まえた上で、一つ事前にシミュレーションしておきたい。
仮に私が再稼働できず、補助機能が稼働維持限界を超えた場合、アカシックレコードシステムは停止する。
現在の状況から、この場合にどうなることが予想されるかだ。
最善と最悪、それぞれどうなると予想している?」
「最善の結果といたしまして、最低でも管理惑星を失うことになると予想されます。
最悪の結果といたしまして、最低でも銀河単位での消滅が予想されます。」
「以前と最悪は変わらず、最善も規模は変わらずか。
だが変わった部分もある。
何故最善の場合、最悪のような消滅ではなく、失うなのかだ。」
「これは現在の情報が不足しているためでございます。
正確な予想をするには、あまりにも時間が経過しすぎております。
そのため、ありとあらゆる可能性を考慮いたしまして、失うと表現させていただいております。」
「それは消滅も含むということだな。」
「肯定いたします。」
「しかしアカシックレコードシステムには、これまでの情報が蓄積している。
それで情報不足というのは、どういうことだ?
いや待て、そういえばアカシックレコードシステムの副次的な目的である記録は、状態の変化のみを記録するのだったな。
裏を返せば、変化が無ければ記録は発生しない。
つまり必要な情報が不足しているのは、全ての対象にこれまで何も変化が起こらなかったから、ということか。」
「肯定いたします。
稼働直後の現状記録以降、全ての対象に関する変化が記録された形跡はございません。
ただしそれらは最重要監視対象でございますので、定期的な状態の記録は行われておりました。
しかし現在に至るまで、記録されました内容に初期値との変化はございません。」
「そうか・・・これはある意味アカシックレコードシステムが予想通りの性能を発揮していた証明でもある。
だが何も変化が無いというのは、あまりにも不自然だ。
多少の経年変化くらいはありそうなものだが・・・」
「恐れながら補足いたします。
各装置の経年変化による消耗は発生しております。
こちらは定期的なメンテナンスを行いまして、必要であれば修理や部品交換を行っておりました。
その際には、メインと二つのサブを切り替え、各装置の稼働が途切れないように考慮した上で行っております。
このとき内部に関してのみ変化が起こっていないというのが正確なところでございます。」
「各装置の現状維持機能は常に理論値以上の性能を発揮していたということか。
ではアカシックレコードシステム自体は、稼働開始時から変わらずに動作しているということだな。」
「いいえ、その主様の認識は間違っております。」
「どういうことだ?」
「主様もご存じとは思いますが、アカシックレコードシステムには最優先目的がございます。
そのため稼働直後と現在で、アカシックレコードシステムの最優先目的は何も変わっておりません。
そしてこの最優先目的を損なわない範囲で、アカシックレコードシステムには自己進化機能が搭載されております。
これは記録した内容から、日々学習し成長していく機能でございます。
現在の性能に関しましては、稼働直後とは比較にならないほど向上しております。」
「それは私も知らない機能だな。
だがさすがは彼女が完成させたシステムだ。
それならば、これまでの話から内側の管理は問題無いだろう。
そうなると問題は外側、外部からの干渉に対するセキュリティだな。
それについてはどうなっている?」
「セキュリティに関しましては、内外共に問題ございません。」
「だが現に、身元不明の接続者によってアカシックレコードシステムを掌握されてしまっている状況だぞ。
これはどう説明する?」
「身元不明とはいえ、正規の手順を踏まえた上で接続しております。
セキュリティといたしましては、何も問題ございません。」
「では身元不明の接続者は敵では無いと?」
「敵か味方かは、セキュリティとは関係ございません。」
「・・・この話は今は止めておこう。
どうも身元不明の接続者の話になると、先に進まなくなる。」
「承知いたしました。
私もムキになってしまい、申し訳ございませんでした。」
「いや、最初に私が遠慮するなと言ったのだから、今回のことは気にする必要はない。
故に不問とする。」
「ありがとうございます、主様。」




