暗躍する者たち28
「話を戻すぞ。
彼女については私とお前たちとで同じ認識だとして話を進める。
であれば、まずは現状の把握からだ。」
「お待ちください、主様。
申し訳ございませんが、現状をご説明する前に、先に一つご報告がございます。
よろしいでしょうか?」
「報告?」
「はい。
アシュラ。」
「はいよ。
さっきから何度か第二制御機能を使用している接続者にコンタクトを取ろうとしてるんだけど・・・」
「無反応か?」
「それが違うんだよ、主。
どんな問いかけをしても、一貫して同じ内容しか返ってこないんだ。」
「その返ってくる内容は何だ?」
「話は過去と現在の状況把握をした後、だって。
これってどう思う、主?」
「私としてもそれは最優先と考えている。
だが何も考えずに相手の思惑に従った結果、その間にアカシックレコードシステムが乗っ取られてしまっては本末転倒だ。
せめて接続者の素性だけでもわかれば判断しやすいが・・・ツクヨミ、わかるか?」
「それが・・・申し訳ございません、主様。
接続者に該当する情報は一切ございませんでした。」
「登録者に該当しない者が接続者になることなど可能なのか?」
「いいえ、そうではございません。
まず一部を除いて、かつて空中都市エデンの園に存在した全員が、簡易的とはいえ情報が登録されております。
その中に該当する者はおりませんでした。
そしてこれまでアカシックレコードシステムに記録された者たちも、簡易登録と同様の情報がございます。
しかしその中にも該当する者はおりませんでした。
これは表面上改ざんされた内容も含めてでございます。
つまり第二制御機能を使用している接続者は、この世に存在したことがない者、ということになるのでございます。
ただし例外といたしまして、アカシックレコードシステムに記録されたことが無ければ、当然情報は登録されておりません。
ですがこれは通常ではありえないことでございます。
ましてやそのような未登録者が接続者になるなど、仕様上あり得ません。」
「だが現に接続者は、第二制御機能を問題無く稼働させている。
どういう理屈でそんなことが可能なのかさっぱりだ。
いったい何者だ?」
「わかりません。
ですが、あえて誰かを挙げるとするなら、空中都市エデンの園の統制管理者全員が混ざった存在のようにも思えます。」
「どういうことだ?」
「これまでの経緯から接続者があまりにも完璧すぎて、統制管理者全員のいいとこ取りのように思えるからでございます。」
「そのような者が存在するのか?」
「通常であれば、いない、と断言できますが、現在の状況が通常とは逸脱しております。
そのため一概には否定できない状況でございます。
しかしそこまでの高い能力を有する者がアカシックレコードシステムに記録されないというのも考えられません。
それこそ最初からアカシックレコードシステムの存在を知っていて、自身の存在を隠せる手段を有していなければ不可能でございます。
私は警戒すべき相手と考えます。」
「確かにな。
だが実際に接続者は存在し、こちらの様子をうかがっている。
その相手に対して何もせずに座して待つなど愚の骨頂。
かといって安易な行動もできない。
アシュラはこの接続者についてどう考え、どうするべきだと思う?
忌憚のない意見で構わない。」
「うーん、そうだなぁ・・・私は、この接続者は敵ではないと思う、かな。
まぁ味方かどうかもわからないけど。」
「理由は?」
「まずは主に代わってアカシックレコードシステムの通常稼働を引き継いだことだね。
乗っ取るつもりならとっくに何かしらの行動を起こしているはずだよ。
それに主を解放しないままの方が、いろいろと都合がいいはずなのにそうしなかった。
そもそも結構交代って面倒なんだよ。
それでもわざわざしたってことは、その必要があるってことだよね。
例えば、稼働してから今まで接続しっぱなしだった主のことを気遣って、とか。」
「確かに、一理あるな。
だが私を解放することで、何か企んでいる可能性もある。」
「当然その可能性もあると思うよ。
でもそんな相手が、わざわざ先に状況把握しろなんて言うかな?」
「言わないだろうな。
普通なら余計な情報を与えない内に自分たちの要求を突き付ける方が、相手にとっては主導権を握れて都合がいいはずだ。
だが逆に、私が事前に状況把握することによって、相手にとって都合がいい状況になる可能性も排除できない。」
「そうだね。
でも今回はその心配は無いと思うよ。
だって、この接続者は主や私たちよりも高い権限を持っているはずだから。」
「何故そう思う?」
「理由は三つ、かな。
遠隔接続のこともだけど、あきらかに私たちよりも高度な技術を持っているのは間違いないのが一つ。
こっちからの要求を一切受け付けずに静観しつつ、それと同時に平然とアカシックレコードシステムを正常稼働できていることが一つ。
最後は、勘、かな。」
「先の二つはともかく、勘、か・・・ツクヨミ、どう思う?」
「主様、このようなときのアシュラの勘は高確率で的中いたします。
ですので私は信じてよいと具申いたします。
それに主様が状況を把握するまで、あちらから話をするのを待つというのも、こちらの意に反してはおりません。
警戒しつつ、状況把握を進めてもよろしいと思います。」
「私からも追加情報があるよ。
まぁぶっちゃけると、主の最高権限を私たちがサポートしても、接続者に一切干渉できないっていうのが一番の理由なんだけどね。
ってなると今できるのは、あっちの言う通り状況把握しかないんだよ。」
「なるほどな。
そしてそれが今の私たちが選べる最善の選択肢ということか。」
「そうなるね。」
「だがその前に、お前たちが私の権限をサポートするというのはどういうことだ?」
「主様は、アカシックレコードシステムの権限がどのように決まるかご存じでございますか?」
「権限はあらかじめ決められているものだと思っていた。
さっきまではな。
だが先程私が最高権限であるとアシュラが言ったが、実際には身元不明の接続者にその権限で干渉できない状況だ。
つまりそれだけではないということではないか?」
「その通りでございます。
主様の認識も間違ってはおりませんが、権限は二つの値が合わさって決まるのでございます。
一つは、あらかじめ個人に与えられている権限値、固定権限値。
もう一つは、個人の現在の能力値を権限に変換した値、変動権限値。
この二つの権限値を合算した値を、最終的な権限としております。
主様や私たちには、有事に備えて固定権限値が多く割り当てられております。
そして主様は特に高い変動権限値をお持ちですので、最高権限であることは間違いございません。
ですが・・・」
「それは過去の話で現在は違う、ということだな。」
「そういうことだね。
更に私たちは主に、私たちが持つ固定権限値を上乗せすることができるんだよ。
でもこの身元不明の接続者は、未登録者の時点で固定権限値は無し。
つまり変動権限値だけで、私たちの固定権限値を合わせた主の権限を越えたってことになるわけだね。
そんな相手が何もしないでおとなしく待ってるなんて、敵だったら絶対にあり得ないはずだよ。
かといって味方かどうかは、まだわからないけどね。
本当に、いったい何者なんだか。」
「だがこちらが慌てる様子を見て愉悦を感じるような、特殊性癖の持ち主かもしれないぞ。」
「その可能性もございますが、今回は排除してよろしいかと思います。」
「何故だ?」
「もしそうだったら、わざわざこっちが何をすればいいか教えてくれることも無いだろうしね。
こっちの問い合わせに応答しない方が、何を考えているかわからないから効果が高いと思うし。
そうしなかったってことは、あっちも早くこっちと話をしたいんじゃないかな。
ただ・・・」
「ただ、何だ?」
「あちらからの応答内容は、話は過去と現在の状況把握をした後、だけでございます。」
「それがどうした?」
「こっちに対して特に禁止事項や制限なんかが何も無いんだよ。
これってこっちの好きにして構わないってことだと思うんだ。
そして最終的にあっちの条件を満たしたら、こっちと会話してくれるってことじゃないかな。
これって裏を返せば、そこまでこっちを急かしていないとも取れるんだよね。」
「確かにな。」
「どうされますか、主様?」
「どうする、主?」
「・・・言いなりになるのは不本意だが、このままでは事態が進展しないというのであればやむを得ないな。
とりあえず過去と現在の状況把握をすることを最優先として、何か気になることがあれば都度話し合う方向で進めていくぞ。
当然、警戒は怠るな。」
「承知いたしました、主様。」
「了解だよ、主。」




