暗躍する者たち22
それと同時に映像が消える。
すると一呼吸置いてから白衣の男は近くの椅子に深く座り、背もたれに寄りかかって天井を仰ぎ見る。
その状態で突然椅子を右に90度回転させてから不気味に笑い出す。
そしてこれまでわかっている情報を確認するように、上機嫌に独り言を言いはじめた。
「・・・くっくっくっ、これでやっかいな問題が一つクリアされた。
既に残る他の連中も名付けは終わっている。
まさかこうも上手くいくとはな。
これで私の望む結果にまた一歩近づいた。」
だが上機嫌だったのが一転して、白衣の男は険しい表情に代わり、椅子を左に180度回転させる。
「しかしここまで長かった・・・緊急事態だったとはいえ、ここまで面倒な状況になってしまったのは完全に誤算だった。
全ては様々な者たちの様々な思惑が重なって、予想外の状態になったことが原因だ。
更にその状況を、彼女の機転によって上手く回避されてしまったことで、余計にこじれたことも、より事態を悪化させた。
本当に余計なことをしてくれたものだ。」
更に独り言が進むと、今度は苦虫を噛み潰したような表情に代わり、椅子を右に180度回転させる。
「特に私にとっては記憶が思い出せず、何度も余計な転生をすることになってしまい、ここまで遠回りをするはめになってしまった。
ただそれも今となっては怪我の功名と言えるだろう。」
再び機嫌が良くなった白衣の男は、これまでの自身の半生を振り返りながら、椅子を左に180度回転させる。
「結果として元に身体には及ばないものの、こうして最高に馴染む身体を手に入れた上に、今では完全に記憶が戻ったのだからな。
おかげで封印前から事前に準備していた、この施設へとたどり着くことができた。
そうでなかったら、また転生を繰り返していたかもしれない。
さすがは私だ。」
自画自賛して自分を称えた後、白衣の男が真剣な表情に変わり、椅子を右に180度回転させる。
「だがいくら手駒が必要だったとはいえ、中途半端に記憶が戻った状態で連中を大量に作ってしまったのは失敗だった。
一部とはいえ、私の複製体だ。
何時寝首をかかれるか、わかったものではない。
現にラットは急速に成長し、このままでは私の地位を脅かす可能性もあった。」
すぐに白衣の男の機嫌が良くなり、椅子を左に180度回転させる。
「しかしそこも、さすがは私。
明晰な頭脳によって解決策を導き出し、この危機を脱することに成功してみせた。
おかげで最大の懸念も今は払拭され、これで気兼ねなく私の計画を進められる。」
白衣の男は、椅子を右に90度回転させて元の方向を向くと、先程までラットが映っていた場所を見ながら手元を軽快に動かす。
すると地図が表示され、その何ヶ所かに光点が点く。
それを見ながら不気味に笑った。
「くっくっくっ、全員忠実に働いているな。
反抗の芽を事前に摘んだことで、ようやく安心して仕事を任せられる。
私には及ばないものの、仕事に関してだけは優秀だからな。
これで手足については揃った。
後は計画を完遂させるだけだ。
しかし私自身が直接動けず、手駒を使ってしか計画を進められないというのは、本当に不便だ。
でなければ、とっくに目的を果たしていたはずだというのに。」
再び手元を捜査して地図を消すと、白衣の男はラットとは別口の報告を思い返す。
白衣の男は椅子を右に90度回転させると、受けた報告を基に現状を簡単にまとめはじめた。
「軍王。
かつて転生した私が儲けたという子の成れの果てを使った実験体。
しかし私には当時の記憶が一切無く、記録でしか知らないため、実感は全くない。
能力については、まだ解析が終わっていないため未知数な部分が多い。
現在判明している特徴としては、驚異的な再生能力と高い戦闘力を有すること。
ただし知能は低く、戦闘時には外部から明確な指示を与える必要がある。
これはオリジナルが死産だったことと、与えた仮の人格の影響が原因である可能性が高い。
現在は軍国内に本体が捕らわれているため、ほとんどの実験や解析が中断されている状況。
一応実験用に採取した細胞などは大量に確保されており、そこから複製体を作成して研究を続けている。
だが本体では無いからか、実験や解析には進展がほぼ無い。
そのため大半は餌としての用途でしか使用されていないのが現状。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「だがアレにはまだ利用価値がある。
だからこそ奪還を継続させているが、現時点ではまだ実現できていない。
送り込んだ者たちが誰も戻らないため、何が起こっているのかも不明。
こうも何回も組織の奪還作戦が失敗するとは、いったい今の軍国には何が潜んでいるのか気になるところだ。
ただ急ぐ話ではないし、計画が順調に進んでいる今の状況では、優先度はそれほど高くない。
慌てずゆっくり待てばいい。
必要なのは、私の計画が上手くいった後、だからな。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させると、今度は以前受けた関連する報告を思い出しながら簡単にまとめる。
「魚王。
元は海人族の犯罪者で、蠱毒で生き残った後に、軍王の細胞の移植成功例。
能力は、殺した者を魚人族に変えて眷属化できることと、周囲にいる自分と眷属以外を呪いにより弱体化が可能。
既に解析は終わっており、結果として戦闘以外では餌にしか使えないことが判明。
採取した細胞はそれなりに残っており、培養にも成功。
現状では実験材料や餌の分は十分確保できている。
また一度殺されたものの、魂の回収に成功していたため、温情で新たな肉体を与えて復活。
組織の戦力として一軍を任せた。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「しかし現在、復活した本体は多少組織としての仕事をこなした後に行方不明。
あの残虐性は気に入っていたのだが、誰かに従う性格ではないことから離反したと思われる。
その後も何も報告が無いことから、現在もその消息は不明と思われる。
おそらく都合のいい隠れ場所でも見つけたのだろう。
だがもし戻ってきたなら、一度くらいは目を瞑ってやるか。
ただ今のところ計画の邪魔はしてこないので放置だ。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させると、少し表情を緩ませて、現在最も関心がある報告内容を思い返す。
「純血の被検体。
コンセプトは、神の受け皿として神の血を受け継がせること。
そのために最も神に近い種族のみと交配させ続けた神の血が濃い血族。
また身を潜めていた国では、純血至上主義のけん引役でもあった。
そして今代でようやく、望んだレベルを超える個体が誕生した。
更に雑種の被検体から元始核を奪い、その身の内に継承させることに成功。
現在は組織に身を寄せている。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「純血を維持させるために、元始核の影響が邪魔になると考えたが。
結局最後は、収まるところに収まった、ということが答えなのだろう。
今は自身の利用価値を上手く使って、組織内で好き勝手しているようだ。
おそらくは組織を乗っ取るか、壊滅させるつもりだろう。
動機は、怨恨、といったところか。
その生い立ちを考えれば、ある意味当然と言えば当然か。
しかし近い内に、いろいろな意味で現実を知ることになるだろう。
そのときが楽しみだ。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させると、険しい表情になり、終了報告を受けた実験を思い返す。
「雑種の被検体。
コンセプトは、様々な種族と交配することでその特徴を取り込み、より強靭で元始核に適合可能な個体を生み出すこと。
代々元始核の継承は問題無いようだったが、これまでに適合した個体は誕生していない。
報告では最後に継承していた男も、元始核が休止していたことから、適合した様子は無かったとのこと。
今は元始核を抜き取られて廃棄済みのため、そこで実験は失敗として終了。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「結論として、雑種よりも純血の方が優秀だった、ということのようだ。
このタイミングであれば、本当はこの被検体が元始核に適合して、その身体を使いたかったというのが本音だ。
だが実験体同士の競争に敗れたのであれば不要。
元始核は純血の被検体に引き継がれているから、次に真に馴染むのを期待するしかないな。
まあこれも、必要になるのは計画が終わった後であるため、急ぐ話ではない。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させると、もう一つの終了報告を思い返す。
「複製元始核の保持者。
元始核の情報を得るために複製してみたものの、何の成果も得られず実験は失敗。
複製元始核を埋め込んだ実験体は反抗的で非協力的であったため、最後は扱いに困って、世界の果てに遺棄することで廃棄処分とした。
まさかかつて放置した実験体の末裔が生き残っていて、このタイミングで同時期に見つかるとはな。
しかしこれも既に廃棄済み。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「ただ正確には廃棄を直接見届けたわけではなく、反応が消滅したのを確認しただけとのことだが、まあ問題無いだろう。
仮に実験体の末裔が生き残っていたとしても、複製元始核が無いのであれば、何の脅威にもならない。
それにオリジナルの元始核は、こちらの手中にあるのだからな。
だがこれで長年問い続けた結論がハッキリと出た。
結局、コピーはオリジナルに劣り、雑種は純血に劣る、ということだ。
これは先程、私自身が身をもって実感したことでもあるからな。
くっくっくっ、やはり私の提唱は正しかった。」
白衣の男は一転して機嫌が良くなり、他に誰もいない部屋で一人不気味に笑うのだった。




