暗躍する者たち21
むしろそのラットの姿を見たからか、白衣の男は元の緩い表情に戻っていた。
おそらく自分の方が上の立場であることを明確にして理解させたことに気分を良くしたのと、ラットもそれを受け入れたと考えたからだろう。
だからか、口調も元に戻っていた。
「その調子で頼むぞ。
まあ悪いようにはしない。
お前にも、それなりにいい思いをさせてやる。
だから要望があれば遠慮なく言ってくれ。」
そう言われて、すぐにラットは遠慮なく要望を口にする。
「・・・そうさせてもらう。
早速だが、身体を動かせるようにしてくれ。
これ以上は忠実に仕えるのに支障がでるかもしれない。」
この要望を白衣の男はあっさり受け入れたが、その前にしっかりと警告もされた。
「いいだろう。
だがその前に言っておくぞ。
今のお前は、私が身体の所有権を持っている。
それはつまり、いつでもどこでも、お前の行動を思い通りにできるだけでなく、把握もできるということだ。
怪しい行動は、すぐにわかる。
そのことを忘れるな。」
「・・・わかっている。
忠義を示すと誓った以上、不評を買うようなことはしない。」
この言葉を本心と判断したのか、白衣の男はすぐにラットを動けるようにするため、再び命令を口にする。
「そうか。
その言葉に嘘偽りが無いことを願うぞ。
では、今は自分の意思で自由に動いていいぞ、ラット。
どうだ?」
その白衣の男の言葉を聞いた瞬間、ラットの身体は自分の意思で自由に動かせるようになった。
一応一通り全身の動きを確認してから、ラットは白衣の男の問いに答える。
「・・・ああ、問題無い。
全て俺の意思で自由に動くことを確認した。」
「それは良かった。」
ここでラットは、もう一つ要望を追加する。
「・・・悪いが口調は今まで通りにさせてもらう。
構わないな?」
「いいだろう。
それくらいは大目に見てやる。」
そう言いながらも、白衣の男にそんな気は最初からないことは、その表情からも明白だった。
逆にへりくだった言葉遣いなどしたものなら、元に戻せと命令されていただろう。
そんなことを考えながら、ラットは素直に感謝の言葉を口にする。
「・・・助かる。」
このラットの感謝の言葉を聞き流し、白衣の男は話を先に進めた。
「さて、話を戻すぞ。
とにかく、お膳立ては私の方でしたから、同盟への潜入は任せる。
最終的に私の損にならない範囲であれば、同盟の指示に従って行動しろ。
絶対に目的を悟られないように細心の注意を払え。
後、同盟の真の目的を探ることも忘れるな。」
「・・・わかった。」
「それと私にも、同盟に報告した後で報告をすること。
都度状況を確認したいのでな。
当然、同盟に雇われた後や組織に攻め込む前後もだ。」
「・・・わかった。」
一通り指示を終えると、白衣の男は肝心なことを思い出した。
「そういえば、同盟が目的を果たした後、管理者たちをどうするか確認していなかったな。
これについて同盟とは何か交渉したか?」
ここであえて伏せていた報告を伝える。
「・・・それは交渉済みだ。
連中が使い終わった後、全ての管理者たちは俺に譲渡されることになっている。
問題無いな?」
このラットの答えを聞いて、白衣の男は途端に上機嫌になる。
「上々だ。
これなら順調に駒が揃いそうだな。」
「・・・ああ。」
「それに言われる前に早速忠義を示しているじゃないか。
その調子で今後も頼むぞ。」
「・・・わかった。」
「これでさっき報告があった内容は確認が終わったな。」
「・・・そうだな。」
「他に何か報告していないことはあるか?」
「・・・いや、無い。」
「なら話は終わりだ。
それでは早速、予定通り動いてもらおうか。
まずは天使の確保だが、これは問題無いだろう。」
「・・・ああ。」
「問題はその次のオノゴロの掌握だ。
通常なら上陸するまでは順調にいくだろうが、その後、管理者を確保するまでが難題だ。
管理者が眠っている場所へ至るには、迷路のような城内地下空間を抜ける必要がある。
そして抜けた後は、いよいよ権限の審査が待っている。
それを上手くやり過ごして、他の空中都市の掌握もお前が依頼されるように立ち回れ。」
「・・・わかっている。
だがそれらは全て俺の裁量に任せてもらおうか。
いいな?」
「もちろんだ。
だがそう上手くいくかな?」
突然、白衣の男が意地の悪い表情になる。
当然、ラットに理由を尋ねないという選択肢は無かった。
「・・・何を知っている?」
その言葉を待ってましたとばかりに、白衣の男は得意げに話しはじめた。
「忠実なお前には、先に褒美をくれてやる。
一つお前が知らない情報を、この私が教えてやろう。」
「・・・感謝して拝聴しよう。」
敬うような返しをしたからか、白衣の男は更に気分を良くして話しを続ける。
「いい心がけだ。
実は現在オノゴロは、移動経路を外れて行方がわからなくなっているそうだ。
そのため目視による存在確認が取れていないそうだ。」
予想外の情報に、ラットはあえて驚きを隠さずに更なる情報を求めた。
「・・・っ!?
それはどこからの情報だ?」
そのラットの姿を見て、白衣の男は長子に乗って詳細を説明する。
「つい先日、組織が直接確認したらしい。
可能性として、管理者の覚醒、緊急退避による捜索範囲外への離脱や消滅、誰かに掌握、などが考えられるらしいぞ。
ちなみに他の空中都市は、まだ未確認らしい。
この情報の確度はかなり高い。」
「・・・つまり、かつての航行情報は当てにならない、ということか。」
「おそらくな。
この情報、お前ならどう使う?」
どう答えるか試されているのはわかっていたが、ラットは深く考えずに普段出す自分の考えをそのまま答えた。
「・・・とりあえず、まずは自分の目で確認したい。
その後、ありのままを同盟には報告する。
それで構わないな?」
「好きにしろ。」
すると意外にも白衣の男は、ラットの考えを支持した。
どうやら正解だったようだ。
そこでラットは、これも普段出す自分の考えを元に考査する。
「・・・だがどういうことだ?
俺はついさっき、オノゴロ掌握の指示を受けた。
当然、あっちは事前にアカシックレコードの情報を確認していたはずだ。
にもかかわらず、そんな話は一言も出ていない。
可能性としては、俺には事実を隠されたか、本当に知らなかったか、このどちらかだろう。
前者は、隠すことであっちに何か利や思惑があることになる。
だが後者であった場合、あっちとは別の誰かがアカシックレコードの情報を書き換えたことになる。
もしそうであれば、これは大問題だ。」
そう言いながら、ラットが白衣の男に疑いの目を向ける。
すぐに白衣の男が、その考えを否定した。
「私ではない。
そもそもアカシックレコードは私には秘匿されていた技術だ。
今現在も、書き換えるどころか、内容を見ることすらできていない。
それはお前も知っているはずだ。」
白衣の男にとって、この程度の疑いは許容範囲内とわかり、ラットは更にもう一歩踏み込んでみる。
「・・・そうだな。
だがかつて行われた無限書庫計画。
失敗して失われたとされているが、それは偽りで、実際には密かに成功させてどこかに隠している可能性もある。
俺としては忠実に使えるためにも、そこのところをハッキリとさせておきたい。
もしあるなら今後の計画も有利に進められるからな。」
「それは私も同意見だ。
しかしそんな便利なもの、少なくとも私の手の内にはない。」
所持を否定する白衣の男だが、それでラットは納得しなかった。
「・・・本当か?」
「あるなら、お前に同盟を探らせるよう手間は取らせていない。」
「・・・情報の比較で、相手の手の内を探る意図があったとも考えられる。」
次々と疑いの目を向けられて、とうとう白衣の男の許容範囲を超えた。
「深く考えすぎだ。
私の情報源は、お前からの報告と組織からの報告。
後はかつての記憶だけだ。
それ以外には無い。」
ここで少しムキになりながら、白衣の男は有無を言わさぬ威圧した視線を向けて断言した。
それは暗に、これ以上疑うならわかっているな、と目が訴えていた。
となると、ラットに選べる選択肢は一つだけ、おとなしく引き下がることだ。
「・・・いいだろう。
今は主の言うことを信じておく。
であれば、後者の先は消えたか。
そうなると前者の可能性が高いが、その理由がわからない。」
タイミングよく引き下がったのが功を奏したのか、これについて白衣の男から助言してきた。
「考えられそうな理由が一つある。
情報を与えたにもかかわらず、オノゴロの掌握ができなかったことを理由に、お前を安く見積もらせて使おうという魂胆かもしれない。」
ラットは白衣の男の考えを聞いて、すぐに先程の話を思い出した。
「・・・確かに考えられそうなことだが・・・そういうことか。
つまり、ここでも俺の地位を低く見積もらせ、自分よりも下だと印象付けたい、と考えたわけか。」
「そういう男だ。」
「・・・本当に小さい男だ。
であれば、前者で間違いなさそうだな。
だがそうなると、オノゴロは何処にいるのかだが・・・地道に探すしかないか。」
「それは引き続き私の方でも情報を仕入れるが、組織からの次の報告は7日後だ。
その間、お前の方でも予定航路以外を気にかけて調べておけ。」
「・・・わかった。」
「では行け。」
「・・・」
ラットは無言のまま一度だけ頷くと、帽子を深くかぶりなおし、すぐに背を向けて部屋から出て行ってしまったのだった。




