暗躍する者たち23
しかしすぐに笑いは止まり、白衣の男は椅子を右に180度回転させると、感情が抜けた表情で、別の報告を考察する。
「組織に加担した特級天使。
生存する特級天使の中でも、かなり上位の力を有する個体。
代々雑種の被検体を監視、護衛する任を与えられ、傍に付き従っていた。
だが一代前の雑種の元被検体の魂を人質を取られて組織に従属。
現在は被検体死亡による終了と目的を果たしたことで用無しとなり、人質と共に解放され、その後の行方は不明。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「だが脅威だったのは過去の話。
たかが特級天使一体、今のあいつ等であれば最早敵ではあるまい。
それにおそらく臆病風に吹かれて、今後は元被検体の魂と共に身を隠してひっそりと暮らすことだろう。
身をもって組織の脅威はわかっているはずだからな。
仮に復讐を画策していたとしても、負け犬一体程度では組織の返り討ちにあうのがおちだ。
これも放置して問題無い。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させる。
「消えた空中都市オノゴロ。
突然予定航路を変更し、その姿を確認できなくなった。
可能性として、管理者の覚醒、緊急退避による捜索範囲外への離脱や消滅、などが考えらえる。
最悪の想定として、既に誰かに掌握された可能性もあるが、今の時代にそれは限りなく低いと思われる。
またオノゴロ以外の空中都市について、その存在は今のところ未確認。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「となると、すぐには掌握できない可能性も考慮すべきか。
だが所詮、権限に縛られた神もどきの傀儡。
まあ私にとっては、正直どちらでも大丈夫なように準備を進めているから、掌握できなかったとしても何ら問題無い。
掌握できれば、楽しみが増えるというだけだ。」
白衣の男は椅子を右に180度回転させる。
「組織が追う例の人物。
かつて組織に属しており、20年ほど前に何の前触れも無く忽然と姿を消した男。
雑用係の下っ端ではあったが、何故かいろいろなことに関わっていたため、組織に関する様々な重要情報を持っている可能性がある。
そのため組織が危険人物として行方を追っている。
だがいまだに、素性、消息、行方、生死、その一切が不明。
しかし先日、失踪前後の痕跡を複数発見。
本人が組織との接触を図るための可能性が高いと思われるが、他からの情報操作の可能性も少なくない。
とりあえず組織は接触する方向で動いている。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出したのだが、なぜか突然不気味に笑いだす。
「くっくっくっ、本当に何もかもが私の思惑通り面白いように踊ってくれる。
やはり全ては、私にとって盤上の駒であり、手のひらの上だ。
そう、私こそがこの世界のゲームマスターであり、真の神なのだ。
既にモールへは、情報を小出しにしつつ、徐々に組織の追跡との距離を縮めさせて接触するように指示してある。
これで同盟はラットが、組織はモールが、それぞれ私の都合がいいように内側から計画を調節できるようになる。
それにしても、くっくっくっ、ラット同様、名付けされたと知ったときのモールの絶望に満ちたあの顔、何とも滑稽だったな。
僅かな希望にすがろうとする者ほど、それを打ち砕かれたときの姿が、見ていて一番心地いいものだ。
これだから私以外の他人をどん底に突き落とすのは止められない。
・・・まあだからこれはどうでもいい暇つぶしだ。」
一転して感情の無い素の表情に戻った白衣の男は椅子を右に180度回転させる。
「男の天使、堕天使、天魔。
現在、これらの進化や覚醒の促進について、天魔までは軍王や魚王の細胞移植によって容易に可能。
しかし一部の例外を除いて、以降の進化や覚醒には至ることができていない。
そこで出た新たな素材の提案が、正統進化を遂げた特級天使と純血の被検体。
これらを使用して更なる進化や覚醒を促す実験の許可申請があった。」
白衣の男は椅子を左に180度回転させると、このまとめた内容に対する結論を出す。
「特級天使を素材として使うことについては問題無い。
従順な戦力の拡充は必要だからな。
しかし純血の被検体、これは体内の元始核という不確定要素がどう転ぶかが難しいところだ。
おそらく老廃物であれば何も問題無いだろう。
だが血液や細胞となると、元始核の侵食率が高い場合は、どのような進化や覚醒をするかが一切読めない。
一応許可したとはいえ、強く言い聞かせておいたからそこまでの無茶はしないとは思われる。
だが一歩間違えればせっかくの組織が崩壊する危険もある。
ここまできてそれは非常に困る。
また振出しに戻ってしまうとなると、計画の立て直しを余儀なくされるからな。
さて、どうしたものか・・・」
白衣の男は椅子を回転させ続けながら考え込む。
しばらくして椅子の回転が止まる。
「・・・やはりこれしかないか。
代わりとなる新たな餌を与え、それが効果的であれば多少の時間は稼げるはずだ。
問題を先送りにするだけだが、今打てる手はこれぐらいしかない。
ただ問題は何を代わりの餌として用意するかだが・・・」
白衣の男は椅子の回転を再開させ、回り続けながら考え込む。
またしばらくして椅子の回転が止まる。
そして突然不気味に笑い出した。
「・・・くっくっくっ、いいことを思いついたぞ。
だったら廃棄されたものの処分されていない被検体たちを使えばいい。
廃品を回収してリサイクルする。
我ながら何ともエコで無駄が無い考えじゃないか。
となると誰を廃品の回収に向かわせるかだが、確か一つは既に組織内で確保していたはずだ。
そうなると問題はもう一つの方だが、ここは居候に働いてもらうとするか。
働かざる者喰うべからずとも言うしな。
早速次回の報告時に指示を出すとしよう。
くっくっくっ、きっと面白いことが起こるぞ。」
一瞬で感情の無い素の表情に戻った白衣の男は椅子を回転させて、元の向きに戻してから立ち上がる。
「・・・もう少し、もう少しでこの不自由な生活ともおさらばできる。
まさか完全に記憶を取り戻したことで、こんな状況になってしまうとは、あのときは微塵も思っていなかった。
この場所が誰にも発見されなかったまでは良かったが、転移でしか移動できないようにしたことが完全に裏目に出てしまった。
更に記憶が完全に戻った喜びのあまり、その勢いのまま転移したのもまずかった。
その結果、私の能力の大半が使用できないように完全に妨害されてしまうことになるとは、当時の私は夢にも思わなかったぞ。」
白衣の男は視線を向けた先に向かってゆっくりと歩き出す。
「しかしあのとき既に駒を準備し終えていたのは不幸中の幸いだった。
おかげで私自身が動けなくても代わりに駒が手足となって動けるし、耳目となって外からの情報収集も可能だからな。
それに閉じ込められたとはいえ、この場所には様々なものを事前に準備していたことも運が良かった。
ここまで秘密裏に動けたのも、この場所の隠密性能を極限まで上げたからだ。
だからこそアカシックレコードにも、その存在が記録されないのだからな。」
白衣の男は立ち止まると、ラットから連絡を受けるまで行っていた作業中のものに冷たい視線を送る。
「私がここに閉じ込められて約20年。
だがそれもあと少しの辛抱だ。
これさえ完成すれば、ようやく私も自由に動ける。
元々理論は完璧、後は形にするだけだったが、正直ここまで苦労するとは完全に予想外だった。
しかしそれも完成間近。
早く自由になるためにも、完成を急がねばな。」
慈しむように、そのものに触れた白衣の男だったが、そこで気が付く。
「・・・おっと、いかんいかん。
焦りは禁物だ。
ゆっくり、確実に、事は慎重に進めなければな。
くっくっくっ・・・」
白衣の男は機嫌よく不気味に笑いながら、元の作業に戻っていったのだった。




