暗躍する者たち17
代わりに帽子をかぶった男は、受付の男に報酬の上乗せを要求してきた。
「・・・いや、今回はそれだけでは足りないな。
追加の報酬もよこせ。」
欲が出たのか、それともいつもよりも仕事の難易度が高かったり手間がかかると判断したのだろう。
まず受付の男は、帽子をかぶった男の要望を聞いてみることにした。
「追加報酬、ですか・・・何をお望みですか?」
「・・・管理者たちをもらおうか。」
この答えだけで受付の男は、その真意を理解し、断らない代わりに条件を付けてきた。
「そういうことですか。
貴方も好きですね。
まぁいいでしょう。
ただし追加報酬の支払いは、こちらの用事が全て済んだ後です。
それに同意していただけるなら、最終的に所有権は貴方にお譲りしますよ。」
受付の男としてはかなり譲歩したつもりだったが、帽子をかぶった男は不満のようだ。
「・・・それは、お前の用事が終わるまで、俺は一切手出しできないということか?」
欲望を我慢する気が無い表情の帽子をかぶった男に、受付の男が更に少しだけ譲歩して提示しなおす。
「そうですねぇ・・・壊されてしまっては困りますが、軽く味見する程度であれば構いませんよ。
それにその方が、こちらとしても手間が省けそうですからね。
もちろんこちらの用事が済んだ後でしたら、制限無くお好きなようにしていただいて結構です。
いかがでしょう?」
帽子をかぶった男もこれ以上の譲歩を引き出すのは難しいと判断したのか、受付の男が提示した案で妥協した。
「・・・まぁいいだろう。
契約成立だ。
それで、まずはどうする?」
相手の気が変わらない内に、早速受付の男は帽子をかぶった男に指示を出す。
「ありがとうございます。
では早速ですが、シェヴァと接触する前に、天使を確保してからオノゴロを掌握してください。」
急な話に、帽子をかぶった男が説明を求める。
「・・・天使の確保はまぁいいだろう。
移動手段だからな。
だが何故空中都市の掌握を急ぐ必要がある?」
「近々一か所に、ちょうどいろいろと揃うからですよ。
そこには天使数体が潜み、尚且つオノゴロが減速航行する予定場所でもあります。
この機会を逃す手はありません。」
受付の男の説明を聞き、帽子をかぶった男に断るという選択肢は無かった。
「・・・はぁ・・・わかった。
ならそれぞれの場所や実行予定日時など、計画の内容を教えろ。」
「そう言ってもらえると思っていました。
ではまずは天使数体を捕獲して、従順になるまで従えてください。
最低でも五体、もちろん殺さずに生かしたままで、それとできるだけ無傷で確保をお願いします。
こちらの場所や日時は・・・」
受付の男は、あらかじめ立てていた計画の内容を説明する。
帽子をかぶった男は何か文句を言いたそうな顔をしながらも、説明を一言一句違えずに覚えていった。
「・・・以上がオノゴロの減速場所と日時、それと確保までの大まかな流れになります。
上陸後の管理者確保の方法についてはお任せします。
ただしオノゴロの中枢は無傷が当然として、それ以外の場所や施設についても最小限の被害に止めてください。
確保後に使えない状態では意味がありませんからね。
説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
「・・・問題無い。
他になければ、早速仕事を片付けてくる。」
せっかちなのか、それとも面倒事は早く片付けたいのか、帽子をかぶった男は話を切り上げて、その場から立ち去ろうとする。
それを受付の男が引き止めた。
「お願いします。
ああ、最後に一つだけ。」
面倒くさそうな顔の帽子をかぶった男だったが、文句は言わずにその場に止まり、話を聞く意思を見せた。
「・・・何だ?」
帽子をかぶった男の気が変わらない内に、受付の男は無駄口を叩かず、簡潔に用件だけを伝える。
「天使確保前と後、オノゴロへ突入する前、管理者を確保してオノゴロを掌握した後、最低でもこれらのタイミングで必ず状況の報告をしてください。
日時は先程説明した計画のタイムスケジュール通りでお願いします。
またその報告内容や進行状況によっては、都度計画の修正を多少なりとも行う必要があるでしょう。
今回は事が事ですから、慎重に運ぶ必要があることは貴方もわかっているはずです。
もちろん、ご理解いただけますよね?」
内心では心配しすぎと思いつつも、報酬のこともあってか、帽子をかぶった男はおとなしく受付の男の言葉に従う意を示した。
「・・・わかった。
それぞれのとき、必ず所定の計画の日時に従って報告する。
それでいいな?」
「ありがとうございます。
私からは以上になります。」
「・・・では、今度こそ行くぞ。」
「はい、吉報をお待ちしていますよ。」
そこで帽子をかぶった男の姿は消えた。
それを見届けると、受付の男は少し気を抜いてから立ち上がろうとしたが、すぐに何かを思い出す。
「・・・ふぅ・・・今回も無事何事も無く終わりましたか。
やれやれ、毎度のことながら、相変わらず扱いが面倒で難しいことです。
しかし報酬次第でこちらの手足となってくれる貴重な駒、もとい、人材です。
まだまだ役に立ってもらわなければ困りますから、今後も上手く付き合っていかないといけませんね。
さてと・・・おっと、最後に重要な作業を忘れていました。
念のためアカシックレコードの、私と私に関わりがある者たちの情報は改ざんしておきましょう。」
そう言いながら受付の男は、慣れた手つきで目の前をいろいろと操作していく。
しばらくして手を止めると、簡単に最終確認を行ってから気を緩める。
「・・・これで良しと。
終わるまで多少の時間はかかりますが、まぁ問題無いでしょう。
どうせ私以外には見れませんからね。
しかし後々のことも考えて、用心するに越したことはありません。
では、いつもの日常に戻りましょうか。」
受付の男は今度こそ立ち上がると、認証室に入って命令を伝える。
「サスペンドモードを解除しなさい。」
『命令の実行指示を受理しました。
命令の実行指示に対する命令者の権限を確認します。
確認中・・・命令者が権限を保持していることが確認されました。
命令の実行が可能です。
サスペンドモードを解除します。
ご用件をお申し付けください。』
「制御室の機能を制限有りに変更して使用不可にしなさい。
それと先程の特例措置の適用を継続しなさい。」
『命令の実行指示を受理しました。
命令の実行指示に対する命令者の権限を確認します。
確認中・・・命令者が権限を保持していないことが確認されました。
エラー発生のため受理した命令を実行できません。
命令を取り消すか、上位の権限を提示してください。
ただし連続で3回エラーが発生した場合は、強制排除対象となります。
現在、エラーの連続発生数は1回です。
特例措置の適用継続を受理しました。
現在の登録者全体の権限を確認します。
確認中・・・完了しました。
現在の登録者で最も高い権限は管理者特級権限第二種限定になります。
条件を満たしているため特例措置の適用が継続されます。
命令の実行が可能です。
制御室の機能を制限有りに変更して使用不可にします。
制限設定中・・・完了しました。
制御室の機能を制限有りに変更して使用不可になりました。
ご用件をお申し付けください。』
「認証室を元の場所に戻しなさい。
それと先程の特例措置の適用を継続しなさい。」
『命令の実行指示を受理しました。
命令の実行指示に対する命令者の権限を確認します。
確認中・・・命令者が権限を保持していないことが確認されました。
エラー発生のため受理した命令を実行できません。
命令を取り消すか、上位の権限を提示してください。
ただし連続で3回エラーが発生した場合は、強制排除対象となります。
現在、エラーの連続発生数は1回です。
特例措置の適用継続を受理しました。
現在の登録者全体の権限を確認します。
確認中・・・完了しました。
現在の登録者で最も高い権限は管理者特級権限第二種限定になります。
条件を満たしているため特例措置の適用が継続されます。
命令の実行が可能です。
認証室を元の場所に戻します。
それでは、上へ参ります。』
こうして受付の男は元いた場所へと戻って行き、いつものほとんど誰も来ない受付業務を再開したのであった。




