暗躍する者たち12
しかし次の報告の続きによって、少しシェドラの様子が変わる。
「それと外界の戦力状況について、いくつか気になることがあります。
我々が把握している各国の最高戦力たちですが、どうやら半数以上が最近いくつか起こりました大きな戦闘に表立って参加していないようです。
かと言って秘密裏に参加していることも確認できませんでした。
少し前までは、各国が自国の戦力をアピールするために、最高戦力たちの存在を前面に押し出していました。
しかし現在ほとんどの国が、まるで最高戦力の存在を隠すように鳴りを潜めています。」
「それは少しおかしいですね。
各国の最高戦力たちの生存確認はどうなっています?」
「最低でも七日に一回は全員の生存が確認されています。」
「確認された場所は?」
「一部放浪している者たちがいますが、それ以外はいずれも所属する国内、もしくは友好国で確認されています。」
「確認された場所については、特におかしいところは無いか・・・では各国の最高戦力たちは普段何をしています?」
「国の支配階級の者が多いため、基本的には自国内や他国との公務に従事しています。
また最高戦力として訓練や演習なども積極的に行っています。
これにより各国の軍の練度が予想よりも上がっていますが、これは日々の訓練や演習による成長としては許容範囲内と思われます。
そのため行動としては以前と何も変わり無く、こちらも特におかしいところはありません。」
「普段の行動に不自然なところも無いと・・・しかし大きな戦闘があったにもかかわらず、参加していないのはあきらかにおかしいですね。
他に気になる点はありますか?
最高戦力たち本人だけでなく、その周囲で起こったことでも構いません。」
シェドラに問われ、報告者はあることを思い出した。
「・・・そういえば最近、各国の支配階級や高官たちの多くが出産していました。」
「出産、ですか?
それは何処の国の誰です?」
「確か・・・最近では次の者たちです。
王国では、女王リスティ、第一王女フィリア、騎士団長レフィーレ。
帝国では、魔王セレス、元魔王ホーネット、筆頭秘書ルナー。
武国では、龍王シーリン、第一王女リーリス。
それよりも少し前には、次の者たちです。
連合では、代表のネーナ、その姉のミーナ、ダークエルフ族で多数。
このダークエルフ族については種族的なもので、時期としては過去の事例と一致しています。
ですがここ十数年は相手が見つからず、次代の誕生は無かったはずです。」
「最近では三国で八人、その前にも一国で多数ですか・・・それぞれの相手の男性は誰ですか?
おそらく王国は、慣例通り貴族の誰かだと思いますが。」
ここで報告者たちが一瞬言葉に詰まる。
しかし報告しないというわけにはいかないので、ありのままをシェドラに伝える。
「それが・・・申し訳ございません。
誰一人として相手の男が誰なのかが一切わからないのです。
特に今回この八人については、出産を公表するまで妊娠していたことすら把握できていませんでした。
出産したと思われる日の少し前まで公務に出ていたにもかかわらずです。
このようなことは初めてです。」
「つまり、妊娠していることを周囲どころか我々にも一切気付かれずに出産した、と。」
「その通りです。
しかも生まれた子供の行方が不明です。
少なくとも各国内では育てられておりません。
そのため子供に関する情報が一切ありません。」
「情報規制が徹底してますね。
外に一切漏らさないなど、異常なほどです。」
ここで報告者たちは、ある可能性を口にする。
「シェドラ様、この手口、もしや第三勢力が関わっている可能性もあるのではないでしょうか?」
「そう決めつけるのは早計ですが、可能性はあるでしょう。
しかし先程も言いましたが、藪をつついて蛇を出してしまうわけにはいきません。
この件は情報収集に止め、過度な詮索は避けるように厳命します。」
「・・・はっ。」
僅かに遅れた返事から、シェドラは報告者たちの不満を感じた。
「納得できませんか?」
「いっ、いえ、そのようなことは・・・」
報告者たちが納得できていないのはどう見ても明らかだったため、シェドラは更に説明を付け加える。
「構いません。
しかしこれには明確な理由があります。
覚えていますか。
今から二十年ほど前にも、今回より規模は小さいですが同じ様なことがあったのを。
確かあのときは、帝国が標的の中心だったと思います。」
「帝国で二十年前ですと・・・まさか・・・」
シェドラの話を聞いて、報告者たちはある事件に思い出す。
そしてそれは正解だったようだ。
「そうです。
かつて帝国内の各地で起こった、女性が無差別で襲われた事件です。
これにより少なくとも十人以上が、後日ほぼ同日に望まない出産をしています。
中には発狂して自ら命を絶った者もいたようです。
確実な避妊技術が確立していないこの時代では、仕方のないことではありますが。
ですが当時の帝国は、これを一つの事件とは把握していませんでした。
何故なら被害者が襲われた場所が帝国全土に広がっており、それが全て同じ日に行われていたからです。」
「覚えています。
我々も気になって調査しましたので。
当時の帝国では、一日に移動することは不可能な距離と人数でした。」
「そうです。
最終的に何人か犯人として捕まり処刑されましたが、実際は被害者やその家族に国が体裁を保つために用意した生贄でしょう。
犯人として捕まった者たちの素性は、全員が元々死刑予定の囚人たちでしたから。」
「その通りです。
処刑された犯人たちの裏を取ったのも我々ですから間違いありません。」
「しかしその後、我々の調査によって一人の容疑者が浮かび上がりました。
そしてその人物はいまだに捕まることなく生きています。
現在、我々はその容疑者と思われる人物と事を構えるつもりはありません。
ここまで言えばわかりますね?」
シェドラがここまで口にした理由を聞き、報告者たちもようやく納得したようだ。
「そういうことでしたか。
失念していました。
ご慧眼恐れ入ります。」
「ですから、この件については、今は忘れなさい。
いいですね?」
今度は報告者たちも納得したらしく、すぐに返事を返して、この件はここで終わりとなり、次の報告へと移った。
「はっ、承知しました。
では最後に、裏切り者に関する調査報告です。
我々の方でも調査を進めておりますが、いまだに何の情報も得られておりません。」
「そう、ですか・・・」
「申し訳ございません。
完全に我々の力不足です。」
「構いません。
ほぼ何の証拠も確証も無い状態では、元々雲をつかむような話ですから仕方ありません。
しかし何もせずに座して待つわけにもいきません。
貴方たちも引き続き調査は継続しなさい。」
「はっ、承知しました。
報告は以上になります。
何か漏れや確認などはあるでしょうか?」
シェドラは少し考えたものの、何も内容だったので最後に労いの言葉と今後の予定を伝える。
「・・・いいえ、大丈夫です。
今回もご苦労様でした。
引き続き調査を進めなさい。
次の報告は1ヶ月後です。」
「はっ、承知しました。
・・・シェドラ様、二つほどよろしいでしょうか?」
報告者たちからの確認を受け、それまで仕事を続けたまま報告を聞いていたシェドラが、ここで初めて手を止めて顔を上げる。
「構いません。
しかし珍しいですね。
貴方たちから報告以外に何かあるのは。
それで、何です?」
「はっ、ありがとうございます。
まず一つ目は、裏切り者の調査についてです。
現在、裏切り者が存在する証拠は、シェドラ様たちを含め、私たちの身に起こった状況のみです。
以降に新たな証拠などは何も出てきていないのでしょうか?」
「貴方たちには苦労を掛けますが、現状では新たな証拠はありません。」
「そうですか・・・」
「ただこのところ事態が急速に進みはじめ、今後更に加速されることが予想されます。
その過程で新たな証拠が出てくる可能性もあるでしょう。
貴方たちは、そこにも注視して、広い目を持って調査を進めなさい。」
「なるほど、確かに。
はっ、承知しました。
そのように努めます。
二つ目は、例の情報屋についてです。
上手く協力を得られるようになったとして、その立ち位置はどのようになるのでしょうか?」
どうやら報告者たちは、自分たちと同じような仕事をする者を新たに仲間に引き入れることに懸念と危惧があるようだ。
一番は自分たちの立場や仕事にどう影響するのかが気になるというのが本音だろう。
シェドラはすぐに察して、あえて言葉にして確認する。
「ああ、そういうことですか。
つまり例の情報屋の下に、貴方たちが付くことになるのを危惧したわけですね。
得体の知れない新参者に従事するなど、貴方たちのプライドが許さないと。」
「いっ、いえ、そのようなことは・・・」
命令されれば従うしかないからか、報告者たちは曖昧な言葉で答えを濁す。
そんな報告者たちの不安を、次のシェドラの言葉が払拭する。
「別に取り繕う必要はありません。
貴方たちには貴方たちのやり方があるのですから、そこにテコ入れされると思ったのなら当然の疑問です。
しかしそのようなつもりは一切ありません。
実際に協力を得られるかわからないのでまだ伝えてはいませんでしたが、先に答えておきましょう。
我々に協力したとしても、例の情報屋を貴方たちと協力させたり、ましてや直接接触させることは絶対にありません。
それは今ここで断言しておきます。」
「では・・・」
「例の情報屋には、直接はシェヴァとだけ連携してもらう予定です。
ですからこれまで通り、あちらには私の指示に従って独自に動いてもらいます。
ただ多少同じ内容を別方向から任せることもあるかもしれません。
しかし基本的にはそれぞれの仕事がかぶることはありません。
ですから安心しなさい。」
「はっ、ありがとうございます。」
「それとこれだけは言っておきます。
貴方たちは私個人の目であり耳であり手足でもあります。
つまり頭である私にとって、貴方たちは命を共にする運命共同体であり、同時に切り札でもあります。
そのため私だけが矢面に立って、貴方たちは存在だけを公言し、その姿を一切秘匿しているのです。
だからこそ私は貴方たちに絶対の信を置いているのです。」
シェドラから絶対の信頼を寄せていると直接言葉で伝えられたことは、報告者たちの心の奥に響いたようだ。
「はっ、我ら一同、これまでも、そしてこれからも、身命を賭してシェドラ様にお仕えすることを、改めてここに誓います。
どうか我らの忠誠を改めてお受けください。」
「貴方たちの忠誠、確かに受け取りました。
今後ともお願いします。
他には何かありますか?
この際ですから、ついでに全て吐き出していきなさい。
遠慮はいりません。」
寛容な言葉をかけるシェドラだったが、今の報告者たちには不要だったようだ。
「いえ、今のお言葉だけで十分です。
今我々の心の内は、奇麗に澄み切っており、晴れやかな気持ちであふれております。」
「そうですか。
ただしこれだけは厳命します。
必ず生きて使命を果たし続けなさい。
死ぬことは絶対に許しません。
それだけは忘れないように努めなさい。
いいですね?」
「はっ、必ずや。」
「よろしい。
ならば行きなさい。
結果を期待します。」
「はっ。」
この返事を最後に、部屋から三つの影の気配が消える。
そしてシェドラは、何事も無かったかのように仕事を再開したのだった。




