暗躍する者たち11
一方その頃、一人部屋に残されたシェドラはどうしていたのか。
椅子に座って仕事の続きをはじめ、黙々と机の上の書類を片付けていた。
しばらく仕事をしていると、壊れていた部屋の扉がいつの間にか直っており、部屋の中に三つの影が現れた。
すぐに気付いたシェドラは、仕事は継続したまま視線を向けずに声をかける。
「報告を。」
シェドラに問われ、代表して一人が答える。
「はっ。
最初にお二方の様子について報告します。
お二方はここを出た後、少しお話をされてから別れました。
ただお二方に悟られない範囲外からでしたので、お話の内容については確認できませんでした。
申し訳ございません。
お命じくだされば、危険を冒してでも内容を調査しますが、いかがしますか?」
まるで命じられることを望んでいるような影だったが、シェドラの答えは違っていた。
「内容については不要です。
大方、私に対する疑念を共有していたのでしょうから。
その程度は放置で問題ありません。」
シェドラとしてはここでこの話は終わりのつもりだったのだが、影の方が食い下がってきた。
「本当によろしいのですか?」
しかしシェドラの答えは変わらない。
「構いません。
それにシェヴァが私を疑うのも無理はありません。
計画が進むかもしれない状況で、不安要素を抱えるのは問題があると考えるシェヴァの気持ちもわかりますから。」
「しかしそれでは、お二人からのシェドラ様に対する疑いが残ってしまわれます。」
どうやら影は、主であるシェドラが疑われている状況が気に入らないようだ。
そんな影に、シェドラはキッパリと言い放つ。
「余計な問答は不要です。
貴方たちは自分の仕事だけしなさい。」
これ以上の進言はシェドラに拒絶されたため、以降の言葉は飲み込んで意識を切り替え、影は次の報告へと移った。
「・・・はっ、承知しました。
まずは二週間ほど前の強い力の波動が感知された件の報告です。
発生場所と思われる場所と周辺を捜査しましたが、既に完璧に証拠が隠滅された後で何の痕跡も発見できませんでした。
申し訳ございません。」
何の情報も持ち帰れなかったことを謝罪する影に対して、シェドラは労いの言葉をかける。
「一瞬とはいえ、あれだけの強い力の波動が発生した場所で何も無いというのは逆に不自然です。
であれば、発生当初は相応の痕跡が残っていたはず。
その一切を消し去るほどの者が関わっていることがわかっただけで十分です。
その場所の監視や追跡はありましたか?」
「相当偽装に自信があるか、自分たちの正体を明かしたくないのでしょう。
数日監視を置きましたが、どちらもありませんでした。」
「こちらの監視に気付かれた可能性は?」
「おそらく無いかと。
使用した広範囲感知能力者はシェイン様ほどではありませんが、超長距離から周囲の様子を監視させました。
それも周辺国家の内部調査を主目的と偽装してです。
また間にいくつもの仲介を挟みましたので、我々との関係に辿り着くことは、ほぼ不可能です。
そのため仮に気付かれたとしても、何の問題もありません。」
自身をもって答えた影だったが、シェドラは若干の不安を感じながらも、それ以上は言及しなかった。
代わりに注意点だけ伝える。
「・・・まぁいいでしょう。
今回の強い力の波動については、一度調査を完了として打ち切りなさい。
ただし今後同様の強い力の波動を感知した際には、すぐに痕跡を調査しなさい。
その際、私へは事後報告で構いません。
ですが、くれぐれもトラブルは避けなさい。
やむを得ずそうなった場合は、情報を持ち帰ることを最優先に行動しなさい。」
そのため最後は気持ちよく報告を終えた影だったが、次の報告で再び気持ちが沈む。
「はっ、承知しました。
では次に、例の情報屋についてです。
やはり我々では、足跡を辿れても発見や接触には至ることができませんでした。
おそらく我々の気配を意図的に避けているか、もしくは非常に感が良いのかもしれません。
申し訳ございません。」
これについてもシェドラは寛大だった。
「やはりそうですか。
今のところ我々の中では、シェヴァだけが接触可能なようですね。
仕方ありません。
これについては任を解きます。
後はシェヴァに任せます。
貴方たちはシェヴァの邪魔をしないように距離を置きなさい。
それと例の情報屋に関する噂の拡散については、現時刻をもって一時停止するように。
再開は改めて指示します。」
しかし影の内心としては、自分たちの不甲斐なさを感じていた。
それでも表には出さず、次の報告へ移る。
「はっ、承知しました。
では次に、空中都市に関する報告です。
シェイン様からのご報告がありました通り、十日から五日前の間に、我々の感知網にも反応が一切なくなりました。」
「シェインの報告の裏は取れましたね。」
「はっ。
そこで侵入計画について進言します。
よろしいですか?」
「続けなさい。」
「はっ。
管理者が目覚めたことは、ほぼ間違いないと思われます。
その状態での侵入は、管理者からの反撃を受け、失敗する可能性が高い状況です。
しかし現状では空中都市側が外界との接触を避けるかのように逃げ隠れしています。
であれば、こちらの計画の障害にはなりえないため、急いで掌握する必要はありません。
先に最優先目的を完遂させてから、空中都市の確保に動く方が得策かと思います。
そこで侵入計画の一時凍結を進言します。
いかがでしょうか?」
「つまり貴方たちは、空中都市については最上位管理者特級権限を確保してから侵入して掌握すべきだ、と。」
「はっ。」
少し考えたものの、シェドラは影からの進言を受け入れることにした。
「・・・できればシェインとシェヴァに先んじて空中都市を確保しておきたいところでしたが、現状ではリスクの方が大きいですね。
いいでしょう、その進言を受け入れ、侵入計画は一時凍結します。」
「はっ、ありがとうございます。」
「ただし管理者が再び休眠する可能性もあります。
その際には侵入計画の一時凍結を解除しますから、定期的な空中都市の動向確認は続けなさい。
私からは以上です。」
条件付きだが、自分たちの進言がシェドラに受け入れられたことで、影は気分良く次の報告に移る。
「はっ、承知しました。
では次に、外界の戦力状況についてです。
まずシェイン様からのご報告にありました天魔と堕天使ですが、今のところ我々の警戒網には引っかかっておりません。
おそらく砂漠を超えた個体は存在しないものと思われます。
今後はどうしますか?」
「放っておきなさい。
そちらはシェインに一任しています。
貴方たちは発見しても監視に止めなさい。
手出しは無用です。」
「はっ。
続いてこちらもシェイン様からご報告がありました各戦力についてです。
北方の大森林に潜んでいた神の出来損ないと禍々しい気配。
商国に潜んでいた天使もどきの気配。
その西の山脈と東の渓谷を縄張りにしていた人工幻獣の気配。
深海に現れた邪悪な気配。
軍国方面に現れた異形の気配。
全て現在は気配が消え、現地には何の痕跡も残っていませんでした。
おそらくこれには、強い力の波動の件と同様の者たち、第三勢力が関与しているかと思われます。
こちらはどうしますか?」
「シェインやシェヴァに伝えた対応と同様で構いません。
現在、第三勢力は私たちにとって邪魔になるどころか、むしろ邪魔者たちを片付けてくれている都合がいい存在です。
こちらに害が無いのでれば、互いに接触せずに無視して放置するのが妥当でしょう。
そのため貴方たちにも我々の側から接触や手を出さないようにだけ厳命します。
ただし相手が我々の邪魔をするのであれば遠慮はいりません。
反撃を許可します。」
「はっ。
しかし第三勢力側からこちらに接触してきた場合はどうしますか?」
「それは貴方たちで判断せず、私に話を持ってきなさい。
相手を確認してから私が直接判断します。」
「はっ。
そのように対応します。」
「またその際は、シェインとシェヴァに共有は不要です。
私から事後報告します。」
「はっ、承知しました。」
この報告については、ここまでシェドラからは予想通りの答えが返ってきからか、影は心静かに報告に専念することができたのだった。




