暗躍する者たち6
同じ頃、場所は変わり、案内がいないとたどり着けない場所に存在する、表向きは完全会員制の娼館の前。
巧妙に隠されているが、実はここの運営に関わっているのは、最上級に危ない案件のみ取り扱うことを生業とする闇組織だ。
そしてこの娼館内に、その本拠地がある。
この闇組織は各国の地下深く、それも裏の更に裏で長年広く根深く潜んでおり、店は運営資金を稼ぐための収入源の一つであった。
他にも様々な商売や事業を行っているが、ほとんどの従業員が闇組織のことを知らないという徹底ぶりだ。
そんな場所に一人の男がふらっとやって来た。
見た目の身体の特徴は、背が高く細い。
そこにコートを着て帽子を深くかぶった姿は、誰の目にも怪しく見えた。
店の入り口の扉の前には出入りを厳しく制限するためか、屈強な門番が二人立っており、当然男の前に立ち塞がって無言で圧をかけてきた。
しかしそんな門番たちに臆することなく、男は懐から短剣を取り出し、そこに彫られている紋章を見せる。
「通っていいかい?」
するとそれを見た門番たちは急に態度を変え、少し慌てた様子で店の入り口の扉を開けた。
「どっ、どうぞ、お通りください!(×2)」
「ご苦労さん。」
男は短剣を懐に戻し、門番たちに軽く手を振りながら感謝を伝え、店の中へと入って行く。
男が店の中に入ったと同時に、門番たちはすぐさま扉を閉める。
気にせず男は店の奥にある受付カウンターへと向かうと、そこにいる人物に声をかけた。
「よう、久しぶりだな。」
そこには、その場には似つかわしくない、容姿が整った線の細い受付の男がいた。
よく見ると眼鏡をかけて執事服のような男物を着ているものの、唇には真っ赤な口紅、手の爪にも真っ赤なマニキュアを塗っている。
しかし声や口調は、いたって男性であった。
「これはこれは、シェヴァ様。
ようこそおいでくださいました。
本日はどのようなご用件でしょう?」
恭しく頭を下げながら用件を尋ねてきた受付の男に、シェヴァと呼ばれた男が面倒そうに答える。
「あいつはいるかい?
結構前に呼ばれてたんだけど、気付いたら今になっててね。
まだ大丈夫だよな?」
「お聞きしております。
そのお話でシェヴァ様がいらっしゃいましたら、お部屋にお通しするよう仰せつかっております。
それではすぐにご案内いたしますので、どうぞこちらへ。」
受付の男が案内しようとしたが、それをシェヴァは断った。
「あぁ、付いてこなくていいって。
勝手に行くからよ。
構わないよな?」
そんなシェヴァを受付の男も容認した。
「わかりました。
それではお通りください。
部屋への道順は覚えておられますか?」
「前来たときと同じ部屋だよな?」
「はい、今も変わっておりません。」
「だったら大丈夫だよ、たぶん。」
「では、わからないようでしたらお声がけください。
その際には改めてご案内させていただきます。」
「ああ、そのときは頼むよ。」
「お任せください。
では、お気を付けてお進みください。」
「あいよ。」
シェヴァは受付カウンターの中に入り、その裏に隠されていた階段を昇って上の階に向かう。
その道中、何故か立ち止まったり、突然階段を何段か飛ばしたり戻ったりと、不自然な動きがあった。
2階、3階、4階、5階へ着いたところで階段を昇るのを止め、廊下を進んで一番奥の部屋の扉の前に立つ。
そしてノックではなく、代わりに扉を蹴破って無理矢理開け、相手の返事も待たず強引に中へと押し入った。
しかし扉を開けた先の正面にある仕事用の机には誰もいない。
「来たよ!・・・あれ、留守かい?」
部屋を間違えたかとシェヴァが思って戻ろうとしたところに、突然後ろから背中に何かを突き付けられ、文句を口にする者が現れた。
「騒々しいですよ。」
容赦なく殺気を向けられたものの、シェヴァは全く気にせずに謝罪した。
「悪い悪い、だからその物騒な物を引っ込めてもらってもいいかい?」
少しも悪びれた様子が無いシェヴァに、背後の人物は少し呆れながらも背中に突き付けていた物を引っ込めた。
「はぁ・・・今回は不問にします。。
ですが、せめてノックして静かに入ってきてくれませんかね。」
「じゃぁ次の機会に覚えてたら。」
「それ前回も言ってました。」
「そうかい?
じゃぁ次こそは忘れないようにしないと。」
「はぁ・・・それでお願いします。」
「おうよ。」
背後の人物は、これ以上の問答は無駄な時間だと考えたのか、それ以上は何も言わずに仕事用の机に向かって行き、そこにある椅子へと座った。
背後の人物、それは見目麗しい女性で、本題に入る前に、尋問がはじまった。
「早速ですが、まずは弁明を聞きましょう。
何かありますか?」
「何がだい?」
「貴方を呼び出してから何故今まで時間がかかったか、です。
まさか忘れていたわけではありませんよね?」
「覚えてたに決まってるじゃん。
だからこうして今ここにいるんだからよ。」
「まぁいいでしょう。
では私が貴方を呼び出したのはいつだったか覚えていますか?」
「たしか・・・1ヶ月前だったっけ?」
「・・・はぁ、違います。
半年前です。」
「そうだったっけ?」
「そうだったんです。
はぁ・・・本当に貴方・・・」
女性が小言を言おうとしたところへ、別の人物が開け放たれた扉を律儀にノックしてから部屋に入ってきた。
『コン、コン。』
「失礼する。
ようやく来たか、シェヴァ。」
入ってすぐに声をかけてきたのは、頑強な体つきをした男性で、その姿を見たシェヴァが挨拶で返していた。
「おや、久しぶりだね、シェイン。
君も呼ばれていたのかい?」
「ああ。
緊急招集なのだから当然だ。」
「そういえばそうだったっけ。
でもまさか、いつも自分の欲望を優先する君が僕より先に来ているとは驚きだよ。」
「当然の行動をしただけだ。」
「当然の行動ねぇ・・・」
シェヴァが探るようにシェインを見ていると、それを女性が止めさせた。
「静かに。
シェヴァ、無駄口はそこまでです。」
「はい、はい、わかったよ。」
「それとシェイン、貴方もシェヴァと同罪であることは忘れないでください。」
「俺はシェヴァより早く来た、その事実を言ったまでだ。」
「はぁ・・・この話は後回しです。
とにかく今は・・・」
呆れる女性が話を終わりにして本題に入ろうとしたが、そこへ興味深そうにしたシェヴァが割って入ってきた。
「シェインは何をやらかしたんだい?」
「黙秘する。」
本人が答えなかったので、シェヴァは質問する人物を変えた。
「あっそ。
で、どうなの、シェドラ?」
シェドラと呼ばれた仕事机の前に座る女性は、呆れながら答えた。
「はぁ・・・シェインが到着したのはシェヴァが到着する1時間前です。」
「何だ、君も僕と変わらないじゃないか。」
シェヴァに指摘されたシェインが、ムキになって反論する。
「同じではない。
俺の方が早く来たのは事実だ。
何度も言わせるな。」
「君が変わってなくって安心したよ。
でも僕だけ悪者にするのは筋違いだ。
遅れたことに違いは無いのだから、君も反省すべきだよ。」
「俺に反省など不要だ。
お前より早く来た、それだけが事実だ。」
互いに一歩も引かないでいると、シェドラが強い口調で注意する。
「二人ともそこまでです!
私から言わせれば、どちらも同罪です!
これ以上グダグダ言うのであれば、強権を発動します!
それでもいいのですか!」
このシェドラの言葉を聞いて、途端に二人の態度が変わる。
「わかったよ。」
「わかった。」
「わかればいいのです、わかれば。
ふぅ・・・」
こうして二人がおとなしくなったのを見たシェドラは、最初の難題をクリアしたのも束の間、この後の話に向けてまずは心を落ちつけるのだった。




